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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【8章】メイド(仮)編(12歳秋〜)
188/228

188話:ショッピング

 そしてレストランで復讐話に盛り上がる。美少女二人なので子どものいたずら計画にしか聞こえないだろう。真っ赤なドレスにキツイ顔で悪巧みを考える皇女様はまるで悪役令嬢モノみたいだ。


「それであなたが穴を掘ってね……あっ」

「うまそー!」


 私たちの前に春の果実たっぷりアイスクリームパフェが運ばれてきた。悪役令嬢顔してた皇女様はキラキラ純愛ジャンル顔になる。女の子は甘いものに恋をしている。

 そんなものが運ばれてきたなら復讐計画をするなど野暮だ。話題は好きなお菓子の話になる。


「わたくしはベロチウ王国のショコラプティングかしら」

「ちょこぷちんぐ!」


 私のエプロンによだれが漏れた。


「田舎のオルバスタのお菓子はどうなの?」


 むっ! 今やティンクス帝国と同レベルだぞ! と言ってもきっと信じられないだろう。オルバスタがネコラル技術で近代化していると言ってもそれはオルビリア周辺だけだ。少し離れるとド田舎である。


「芋を混ぜた生地のパンに――」

「ひぃっ!?」


 話してる途中に、皇女はまるで害虫が出たかのような悲鳴を上げた。私はきょろきょろと見回したが、変な虫はどこにも見えない。窓の向こうにシュランドが立っていた。害虫はシュランドか。いや、あれは警戒のためにずっと立っていたな。

 そういえば、盗聴されている可能性があったな。いや、おそらく間違いなく盗聴されているだろう。復讐計画はこんなところで立ててはいけなかった。まだ皇女と共謀していることしかきっとバレていない。もう致命的かもしれない。

 で、皇女はどうしたのかというと、「パンに芋を混ぜるなんて気持ち悪い!」とのことであった。

 なるほど。ティンクス帝国でもパンにうるさい国のようだ。純度の高い小麦だけを使うように法律で定められているに違いない。

 しかしパン生地にじゃがいもを混ぜるともっちもちになるのだ。


「もっちもちのパンに――」

「ひぃっ!? パンがもっちもち!? 気持ち悪い!」


 うるさいなあ。


「虫から取った黒い蜂蜜を――」

「気持ち悪い! もう止めて!」


 うん。これは本当に気持ち悪いかもしれない。皇女は背後にふにゃふにゃした湯気のエフェクトを出していた。うーん。この皇女、魔力漏らしすぎじゃね?

 私もロアーネから髪の毛から魔力漏れすぎと言われていた。こんな感じに見えていたのか……。

 食後のシャンパンをちびちび飲む。

 牛肉ステーキ、実に美味しかった。皇女のせいで焦げてたけど。

 さてはて、皇女とのデートは続く。

 外へ出てシュランドに出迎えられると、皇女はすんと顔を澄ませていた。すんというより、つんっという感じだ。こんな感じか? つんっ!

 シュランドも私たちのその態度に何も言わない。やはり私たちの復讐計画を盗み聞きしていたのだろう。ふふふ。美少女二人に嫌われていることを恐れよ。男は美少女に「嫌い」と言われるだけで死ねるのだ。私も反抗期シリアナに言われて大ダメージを受けたからな。


「皇女様。次の予定は――」

「オチンプラよ。オチンプラにいくわ」


 赤髪ツインテツリ目皇女様が突然卑猥なことを言い出して戸惑う。おろおろ。お下品ですわ~!

 着いたでかい建物の看板にオチンプラと書かれていた。なんだ店名だったか。思わず下品なことを考えるところだったわ。おちんちんぷらぷらみたいな名前しやがって。


「ナニココ」

「お店よ。なんでも売ってる大きいお店」

「おお」


 つまり百貨店か。皇女はエスコートなしで勝手に馬車からぴょいと飛び降りた。再び私の手を掴んでいたので、私も引っ張られる。今度は髪の毛を使って着地した。私が精霊姫とバレているなら髪の毛を操る能力を隠していても意味はない。それにしても身バレ早すぎて全くスパイメイドじゃない。スパイ失敗、失格である。


「あら。意外とトロくないじゃない」


 ふふん。私は得意げになった。しかし風が吹く度におぱんつ丸見えである。レストランで飛んできた魔力の火の粉のせいで、胸元の防御力もだいぶ薄くなっていた。ハレンチだ。ハレンチ警察が来てしまう。

 そんな有様なので、まずは前衛的すぎる私の服を買うことになった。既製品の服を買うのは初めてかもしれない。オルビリアの私はファッションリーダー的存在だ。私の着るドレスは職人が全力を尽くして作られる。さらにそのデザインは、精霊姫カードのイラストとして使われ、広く庶民に伝わるのだ。オルビリアでは私のドレスを作ることが最上の誉れとされていた。私は職人の一人も知らないが。

 ショーケースの中に並ぶ白くしゅっとした細身のドレス。これは大人用だ。身長が20センチほど足りない。私の身体には少し大きめだが子ども服も売られていた。それもかなり質が良い高級品のようだ。なるほど。おそらくこれは皇女に着てもらうために用意されたものだ。皇女がそれを選び、私が着た。店のオーナーはにこやかに「お似合いですよ」と言ったが、なんで皇女じゃなくて侍女が着るんだよボケがという雰囲気を感じた。

 お会計はツケである。皇女の買い物にツケというのは変かもしれない。店は皇女に会計を求めるようなことはしないが、おそらく後に宮殿に請求されるのだろう。

 皇女はふらりとアクセサリーを見て周り、オーナーはどうぞ奥の部屋へと案内する。そこは豪奢な応接間。私は侍女なのに皇女にソファで隣に座らされた。美人のお姉さんがチョコチップクッキーをテーブルに置き、「こちらは流行りのお菓子でございます」と言う。まさか広めた者が目の前にいるとは思うまい。ドリンクは甘酸っぱいお茶だ。ローズヒップティーだろうか。買ったばかりの服を汚さないように気をつける。洗濯メイドのトカータの仕事が増えてしまう。

 もぐもぐしていると、店長が箱を持ってきた。箱をぱかりと開けると、店の中にあったものよりひときわ大きく美しく水色に輝く魔法結晶のアクセサリーだ。お得意様やお金を持った客だけ引きずり込んで、高い買い物をさせるのだろう。防犯面の問題もあるか。

 皇女はそれを「いまいちね」と一蹴する。「あなたの方が似合うんじゃない?」などと、私の首に当ててきた。私は「中の石がしょぼい」というと、皇女はキャハハと甲高く笑った。その様子を見た店長の額に汗が一筋流れ、オーナーが店長を見るその額には青筋がむきむきしている。

 店長は「これは失礼を」と慌ただしく奥の部屋に引っ込んで、しばらくしたら黒塗りで金装飾の箱を両手で慎重に抱えて運んできた。そして「当店の最高級品でございます」と言ってぱかりと箱を開けた。箱から黄金の光が漏れ出した。中の魔法結晶は小ぶりながら朝日のようなまばゆい黄色い光を放っていた。アクセサリーは指輪か。

 ん? 指輪は知らないけど、黄色い魔法結晶はこれ見覚えがあるな?


「先日の雪巨人(ニックキジオン)を溶かした魔法結晶でございます」


 皇女は驚きを見せた。皇女の背景エフェクト魔力がぽふんと花火のように弾けている。

 店長は得意げな顔をしていた。オーナーもにっこりしている。

 皇女は恐る恐るそれに手を伸ばした。咎めるものはいない。


「きれい……」


 皇女は素直に感想を漏らした。そうでしょうそうでしょうと店長は持ち上げる。


「でも、お高いんでしょう?」

「はい! もちろん!」


 皇女相手とはいえ無料とはいかない。国宝級と思われるそれは美術館に置かれるべきだろう。

 皇女の目はその魔法結晶のように爛々に輝いている。これはいくらだろうともう買い取る気なのだろう。それを見たシュランドが待ったをかけた。


「皇女様。今は余裕はございません」

「どうにかしなさい。これほどのもの、一度で支払えなんて言わないでしょう?」


 店長は「ももももちろんでございます」と額の汗をハンカチで拭き取る。オーナーは引き攣った笑顔を見せている。

 ううむ。どうやら皇女の財政は悪く、別のところに売ろうと考えていたというところか。分割払いは不安だが、それを断るだけの不敬もできないと。

 しかしどうも気になる。私ははいと手を挙げた。

 誰も皇女の隣に座るちんちくりんを相手しなかった。仕方がないので私は勝手に皇女に耳打ちをする。ぼそぼそ。


「それのどこから貰ったかを聞くでござる」

「どういうこと?」


 皇女は変な顔しながら、店長にこれの入手経路を聞いた


「それは極秘でございます」

「あら? わたくしに言えないだなんて、何かやましいことでもあるのかしら?」


 すると青くなった店長はオーナーを見て、オーナーの顔は笑顔を五割増しにしながら赤くなった。


「いいえいいえそんなことは。私共が現地で適切な価格で買い取らせて頂いたものでございます」

「そう」


 皇女は聞いたわよといった顔で私を見た。


「高そうでござるなあ。子どもにいくら渡したでござるか?」

「子ども?」


 皇女は顔にクエスチョンマークを浮かべ、その後に引き攣った笑顔のオーナーの顔を見てもう一度、「子ども?」と言った。


「ですから適切な価格で――」

「それ。私が宿の子どもにあげたものじゃ。いくらで買ったのじゃ?」

「あなたが、あげた……?」

「これ一枚でもはしゃぎ回りそうな子どもじゃったのう」


 私はチョコチップクッキーを一枚手にとって見せた。

 皇女はそれを見てにこりと笑った。


「それではさぞ高かったでしょうね。わたくしたちも適切な価格で買い取らせていただこうかしら?」

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