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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【8章】メイド(仮)編(12歳秋〜)
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180話:お気楽な旅

 新年を迎え、すぐに雪解けの季節となった。私は盛大に出迎えられることなく宮殿を後にする。万が一にでも敵であるティックティン派に気づかれてはならない。私はお忍びでの出発となる。そういうわけで、世界樹ワープを使って月のない森(シバウナクルネス)に出発! スパテーナはワープできずにばちんと弾かれた。

 私は一旦にゅにゅっと戻った。


「なにしてんの……」

「それはこっちのセリフ! ダメじゃないこれ!」


 どうやらスパテーナは選ばれし民ではなかったらしい。ちなみにワープ成功者はシリアナ、リルフィ、ソルティア、にゃんこ等、私が心を許した者が多い。それが条件かと思ったら、意外にも骨助もワープできた。なに? また脳内ネタバレロアーネの声が聴こえてきた。また私の魔力の関係? なるほど。つまり私とスパテーナは身体を重ねるような親密な仲を育んでいなかったから弾かれたらしい。骨助はというと、そもそも私の魔力を注ぎ込んで生み出したようなものだ。

 まあそういうわけで、スパテーナを私と共にワープするなら、テーナがぶっ壊れるくらい私の魔力を注ぎ込んで私色に染め上げなくてはいけないわけだ。


「いやよ!」


 と、いうわけで、スパテーナは普通に馬で出発した。オルビリアで馬と言ったら太くてマッチョで角が生えてて毛がもさもさなものだが、スパテーナに用意された馬は速度重視でしゅっとしていた。サラブレッドまでいかずとも、それより少し小さめなアラブ種のような雰囲気だ。でも角は生えてる。魔獣馬の方が、魔法で意思疎通できるから魔法使い(ウマァジ)が乗るには便利のようだ。

 私はテーナが錬金術師(アヒルメスタ)の町にたどり着くまで現地でのんびりと過ごすこととなった。

 どんだけ飛ばしてきたのか、翌々日の朝には遺跡の門に着いたようだ。騎乗の馬とは別にもう一頭馬を連れていたので、馬を交換しながら乗ってきたのだろうか。すると、もう一頭の馬は私のために用意されていたようだ。


「ティンクス帝国での移動はどうするつもりだったの?」


 え? 普通にこう髪の毛で……。私が蜘蛛モードで馬と並走すると、テーナに「キッショ」と言われた。うん。これはスパイの移動方法ではないな。止めよう。

 そもそも私の虹色の髪を見られたら一発で身バレだ。私が全力で魔力を使った後は虹色の輝きは失せて一時銀髪になるらしいが、ずっと隠し通せるわけではない。

 じゃあどうするのかと思ったが、そこは「テーナにお任せを」とのことらしい。染め上げるのだろうか。私が思いついた方法としては、魔黒炭(ネクラタル)を溶かして髪に塗れば魔力が止まって黒く染まりそうだが、髪の毛が痛みそうで嫌だ。そもそも髪の毛に住んでる精霊が全滅するだろう。私はもう髪の毛操作のない生活はできなくなっていた。私の髪精霊を失うことは「ちょっち両手足の指もいでみる?」くらいの感覚である。


 さて。

 錬金術師(アヒルメスタ)の町は部外者が入れない厳重なセキュリティがあるが、念のために私を模した土人形が宿に置かれた。リアリティを出すために人形の髪の毛に魔力を込めて虹色の魔法結晶にした。ふう。今日もいっぱい出た。

 今回の旅はスパイ潜入なので、テーナと二人きりである。テーナの得意魔法は火だ。よって私のお漏らしを止める者はいない。垂れ流し後に熱風で乾かすタイプの処置だ。くっ。土魔法の従者が欲しい……! 私はソルティアちゃんなしでは生活はできなくなっていた。

 まあいざとなったら垂れ流し防止策はあるのだが、今回は出ること前提でバケツが用意されたので問題はない。問題だらけだが。あらあらまあまあ猫かぶりモードのアリシアちゃんに見られて漏らすのはとても恥ずかしい。


 さて。

 アリシアちゃんや熊さんに見送られ、テーナとの二人旅が始まる。まずは西の麓の町へ行くようだ。どうやら大学とかあってかなり栄えているらしい。錬金術関連なのだろうか。

 しかし観光はそこそこに、町はすぐに出ることとなる。

 ところで私の身バレ対策はガバガバのガバだ。大きな外套を被って髪の毛を隠しているだけなので、気づく人は「あの子、精霊姫じゃない? お忍びかしら」と感づいていた。おいおいテーナさんよお。一般人にも身バレしてるぞ。いいのかこれで。


「いいのよ。下手に変装する方が目立つんだから」


 そういうものなのか?

 確かにお忍び旅行雰囲気を出しているせいか、私に気がついても話しかけてくる人はいない。いやそもそも気軽に話しかけてくるのはオルビリアの中心街の方々くらいか。お忍び雰囲気を出したらむしろ積極的に話しかけてくるくらいだ。変装がバレバレだから。

 あっ。そういうことか。もし私が一般少女の変装をしていたら、周囲は気を使って一般少女として扱ってくるかもしれないのか。もちろん私はお貴族様だからそんな気遣い無用なのだが、オルビリアの街での私の扱いの噂を聞いて、そのように接してくる人もいるかもしれない。

 なんということだ。そこまで見越していたとはテーナ……。やはり本職のスパテーナ……。


「それにしても、空気悪いね」

「ええ。聞いてはいたけど魔黒炭(ネクラタル)の影響……かなり酷いわ」


 口元を隠すためのマスクが役に立った。

 魔黒炭(ネクラタル)使用禁止を打ち出しているが、まだ完璧ではない。雪解け水は夜には凍りつくほど寒い。暖を取るために質の悪いネコラルを使い続ける住民はまだ多かった。そもそもネコラル自体も魔力汚染があるので、じゃあ燃料をいきなり全部撤廃したらどうなるかというと大変なことになるわけで。あっちよりマシ。こっちよりマシにしていくしかない。原始的に薪を使ったら伐採で自然破壊。石炭、泥炭を使ったら大気汚染。完全なるクリーンな街づくりは不可能だ。


 街からさらに西へ向かい、ベイリア帝国とティンクス帝国の国境であるレイテン川を渡河する。でっけー大河が流れているのかと思ったら、なぜか二本の川が流れていた。どっちがレイテン川だ? どっちもレイテン川のようだ。どゆこと?

 なるほど。川が二本というよりちょうでかい中州があるということか。川の上流なので中州というのは明らかにおかしいが、川と川の間の土地を表す言葉が思い浮かばなかった。なに? 脳内ロアーネが「ポタポタヤキ」と囁いてきた。それ煎餅や!

 でかい川を渡る。つまり船だな! 今生で初めて船に乗るぞ! わーい! と思ったら、川が二本に分かれているせいか一本の川幅は狭くなっており、普通に橋がかかっていた。がっかり。がっかりだよテーナ。こんな潜入経路を選ぶだなんて……。潜入と言ったら船に忍び込んでこっそりが王道だろうよ……。どうやって検問突破するんだよ……。

 あ、真正面から行ったわ。そして私たちは検問で並ぶ一般人を脇目に、貴族専用口へ向かう。

 私は髪の毛の一部をうにょんと伸ばして、テーナの頭にコネクトした。それで内緒話をする。


「(ねえテーナ。これじゃあ潜入じゃないじゃないか)」

「ひぇっ!?」


 テーナが驚いて後ろを振り返った。なんだよ。テーナは魔法を使った念話ができないのか? いや有線だけどさ。


「うわぁ。なにこれうわぁ……」


 テーナは驚きながら小声で喋り始めた。


「潜入だからこそ、正規の手続きで国境を越えるのが一番じゃない」


 まあ言われてみればそうである。ただ、私が思っていた潜入と違うというか、冒険感がないというか。山あり谷ありで乗り越えていくっていうか。


「山も谷もすでに越えたじゃない」


 いや、現実的な話じゃなくて。月のない森(シバウナクルネス)越えたけども。

 まあ、冒険に行くんじゃなくてスパイに行くのだから、問題が起きた時点で失敗なわけか。考えれば考えるほどテーナが正しい。ドキドキハラハラがないならただの観光気分じゃないか……と思ったが、むしろその方が良いことに気が付いた。トラブルなんか無い方がいいのだ。


「お嬢様。フードを取っていただけますか?」


 トラブルが起きた。何食わぬ顔をしてテーナの後を付いて検問を抜けようとしたが、紳士的に引き止められた。

 顔を隠して入国することはできないらしい。そりゃそうか。いやしかし、私は変装も何もしていない。流石に入国は別人として入らなければ不味いのではないだろうか。しかしテーナは早く脱げとジェスチャーしてくる。

 私はバサリと脱いだ。私のあまりの美貌のぷにぷに幼女っぷりに、紳士さんは「おお」と驚き敬礼した。


「精霊姫ティアラ様。ご尊顔確認いたしました。どうぞお通りください。ようこそティンクス帝国へ。良き旅と出会いを。月の女神のご加護を(リアポルロクルネス)

「うむ。そちも仕事がんばるでござる」


 トラブル起きなかった。普通に入国審査突破した。というか私そのまま本名で通っていいものなのか。これが本当に潜入なのか。


「もちろん。根回し済みだからね」


 なるほど。テーナの回答は簡潔だった。スパテーナに全てお任せすれば私は観光気分で良いらしい。本職に任せてにわか依頼者はお気楽に構えていればいいのだ。それが仕事成功の秘訣だ。タルト兄様にも常々余計なことはするなと言われている。なるほど。今回の旅の課題は「余計なことはしない」といったところか。私はこの旅で大人しくしていると心に誓った。

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