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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【8章】メイド(仮)編(12歳秋〜)
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177話:メイドさんの資質

 結論からすると、シリアナのお腹に血は溜まっていなかった。

 侍女が触診すると痛がって嫌がる様子を見せた。しかしそれは血が溜まっているせいではなく、血も魔結晶化していたせいだったようだ。お腹の中に異物があることには違いないが、血が腐っていたわけではなく一安心だ。いや一安心なのだろうか。頭の偉い魔法使いや神官たちは悩んだ。体内に埋め込まれた魔結晶による人体の影響……。普通に考えたら魔力過多により魔法器官(マルデイズ)が壊れるだろうと結論が出た。魔法使いは魔素の吸収、魔法器官による消化、変換、そして放出で魔力を制御している。呼吸と同じだ。空気を吸って酸素の一部を二酸化炭素にして吐き出している。酸素を無理やり肺の中にぶおおおおと送り込んだら破裂して死ぬ。つまりそういう状態だ。

 私はしでかしたことを改めて反省してあわあわした。ぷるるっ。説明をする学者様方の前で漏らす前に、素早く土のナプキンがお股に装着された。さすがソルティアちゃんである。お嫁さんに欲しい。私のお漏らし問題は解決されたのだ。

 それはそうとして、それを摘出手術をするかどうか、意見は二分した。そのままで良いのではないか派は、異物反応を起こしていないのだから問題ないのではないかという意見だ。私のシリアナのお腹に作った魔法結晶、つまり私の魔力がシリアナに適合しているため、異変を起こしていないという話だ。つまり、問題があるならとっくに死んでいるということだ。ぶるるっ。土のナプキンが二重になった。


「では、しばらくそのまま様子を見るということでよろしいですかな? ロアーネ様」


 ぽぽしろうはぷるりと震えた。神官たちはぽぽしろうをロアーネが入ってる個体だと思ってしまったようだ。まあ大体同じようなものである。ぽぽしろうは巨大ポアーネからもがれた分体だ。彼もまたポアーネなのである。

 こうしてひとまず、シリアナのお腹の状態は現状維持ということになった。シリアナ自身もお腹のキラキラを気に入っているようだ。それには私も一安心である。傷を塞ぐのにやりすぎて魔法結晶にしてしまったのは一番気がかりなことであったからだ。

 しかしだ。メンタル問題の解決は中々難しいようだ。


「シリアナ様は相当強烈な殺意を向けられたようでス」


 これはそもそも魔法とは、という話であった。魔法とは道具であり、意思である。例えば包丁だ。包丁は料理のための道具だ。それを殺意を持って人に向けると人殺しの道具になる。私の魔法弾射出(マァジルアリシュテア)が馬鹿にされたのもそういうことだ。的当て気分で放った魔法は攻撃魔法であるが殺人魔法ではなかった。

 そして、シリアナに向けられたのは殺意のこもった殺人魔法だ。それは肉体だけでなく、精神にもダメージを与えた。包丁を手にした殺人犯が、殺意を持ってお腹に突き立てた。いくら暴走魔法少女でもトラウマにならないわけがない。そりゃ「なんでお前理解できないの?」とタルト兄様にも言われるわけだ。まあそれはカンバの精神魔法のせいなので……。私は責任転嫁した。

 というわけでシリアナは続けて療養することになった。そして私はメイドさんになった。


「きゅるんっ」


 私はメイド服でくるりと回転した。ふわりとロングスカートがめくれる。男なら誰もが憧れるメイドさんムーブだ。


「ララ似合ってない」


 少女の一言に私の精神は大ダメージを受けた。私ほどメイド服が似合う美少女はいないと自負していたのに。私は前世からメイドさんに憧れすぎて、メイド服屋に試着に行ったくらいなのだ。もちろん普段の部屋着もメイド服であった。メイド服を着ていると家事が捗るのだ。ちなみに私の掃除や料理スキルはレベルでいうと3くらいである。100段階で。


「ララー、ぽぽしろう取ってー」

「はいお嬢様」

「ララー、窓開けてー」

「はいお嬢様」

「ララー、水ー」

「はいお嬢様」


 私は妹の下僕となって動いた。

 私は遊んでいるわけでもふざけているわけでもない。メイド修行は大真面目である。

 兄妹、姉弟、姉妹(きょうだいしまい)でメイド修行するのは普通のことらしい。シリアナも弟アルテイルくんの世話をしていたようだ。つまりだ。私は本来貴族で行われるようなメイドさん修行が行われていなかったということだ。なんということでしょう。タルト兄様には「お前にメイドは無理だろ……」と言われてしまいました。悔しいのでおでこにデコピンシュテアをお見舞いです。


「そもそもお前には婚約者がいただろう」


 いけ好か軍人のことか。なるほど。私はすでに嫁入りが決まっていたため、メイドさんになる必要はなかったと。待てよ、それならやはり私がメイドさんになる必要が改めてできたということではないか。


「お前がメイドになるには三つの欠点があるだろう」


 三つも?

 しかし私はメイドになる必要があったのだ。それは……ティンクス帝国に潜入するためである。

 そう。敵の本拠地はわかったのだ。ならば平穏と安寧のためにぶっ潰しに行く! シリアナのためにも!


「まず属性魔法が使えないだろう。それでどうやってメイドとして雇われるつもりだ?」


 なんだと!? タルト兄様は魔法どころか魔力全くないくせに! 正確には魔力が吸収できない体質のようだが。身体に魔黒炭(ネクラタル)でも詰まってんのか。

 それはさておき、私はメイドさんの資質を問われている。そう。この世界のメイドさんとは魔法ありきなのだ。

 メイドさんの魔法の三大属性は、火、風、水である。

 火のメイドさんはお料理担当。原始的なキッチンコンロでも火力調整完璧。お湯も作れちゃうんだ!

 風のメイドさんはお掃除担当。手の届かない場所の埃も風を起こして外へ掃き出そう!

 水のメイドさんは洗濯担当。前世のメイドさんは一日の大半が洗濯していたというほどの洗濯は重労働。それが服を洗濯槽に突っ込んで魔法で水で渦巻きぐるぐるするだけでいいのだ!

 その他の属性のメイドさんはあとは氷くらいだ。

 氷のメイドさんは護衛担当だ。有事があった時に氷の壁で攻撃を防ぐ。傷口を氷で止血する。氷使いはベイリア帝国では軍人が多い。雪解けの泥を凍らせて歩きやすくできるためだ。そのため氷のメイドさんというと南方の暑い地域のイメージが強い。暗森人(ガタナン)クラスメイトのビリーも氷魔法使いであった。

 電撃魔法というと完全に軍事用途だ。メイドさんにはまずいないし用途はない。

 他にカンバの精神魔法はあるが、普通はメイドさんではいない。もっと重用されるはずの魔法だ。うちではなぜか画家してるけど……。

 そうそう、昔だと光魔法のメイドさんも多かったらしい。もちろん暗所を照らすためだ。今は魔道具があるので光魔法の使い手は少ない。お年寄りの魔法だ。


 そして私は精霊魔法だ。植物とかワサワサさせられます。ワサワサ。


「二つ目の欠点は?」

「お前はアホだ」


 なんだと? 自分で考えろってことか? ふうむ。完璧美少女すぎることだろうか。


「アホなことが欠点だ」


 なんだと!? 私は髪の毛でぴょーんと跳ね跳びタルト兄様の背後に回った。そして髪の毛でチョークスリーパーをする。タルト兄様は「ぐえ」と鳴いて私の髪の毛にタップする。勝った。マッチョ化したタルト兄様に私の髪の毛は通じる。魔法は筋肉に勝るのだ。


「三つ目は?」

「けほっ……。お……が、お前がオルバスタの姫であることだ」


 なるほど? タルト兄様が言うには、どうやら格の高いお姫様はメイドさんにはならないらしい。リアとルアも王族(ベヌン)のお姫様だが、パパンの築城趣味で資金繰りが危ういことや、お隣ヴァイギナル王国はオルバスタの下となっていることから、なるほど私の侍女になっていたのも納得だ。

 つまり私がメイドさんになるには、私より格上が相手となる。そして私より格上となるとベイリア帝国では公爵(マイキュン)とか皇族(ルピアス)とかそういうランクになってしまう。私はパパンの侯爵(ジュパン)を大したことないランクだと思っていたが、そうでもないらしい。ただの田舎領主だと思っていたが、広大な土地を治め、帝国とほぼ対等な立場にいるのだ。キュン。私、やっぱりパパのお嫁さんになる……。


「ところで、私がメイドさんを目指すもう一つの目的を、タルトに話して置こうと思う」

「なんだよ改まって、怖いな……」


 私が何か仕出かす前に言えと言ったのはタルト兄様であろう。私はタルト兄様をおもんぱかったのだ。


「メイドさんになってティンクス帝国へ行こうと思う」


 タルト兄様は胃を押さえてうずくまった。何か悪いものでも食べたのかな。

 慌ててタルト兄様の婚約者兼侍女となったルアがタルト兄様を抱きかかえた。むっ。そのおっぱいは私のだぞ。

 負けじと私はソルティアちゃんに抱きついた。薄い……。これが格差社会か。



 さて。私は懐かしい人物を呼び出した。スパテーナである。スパテーナは今でもおじいちゃん博士に付いていた。おじいちゃん博士は私が安易に名付けたババ・ブリッシュ法「うんことネコラルと排気からパンを作る方法」の研究と、ゴラム兵器研究を続けている。スパイされ放題状態だが、スパテーナは腕に墨を入れた魔術師(マジスタン)の振りをした帝国に仕えた魔法使い(ウマァジ)なので問題はない。おじいちゃん博士は元オルバスタ侯爵でベイリア帝国の政治や軍部といろいろあって面倒になった偏屈おじいちゃんなだけで、敵対関係ではないのだ。なのでスパイ行為されても問題はない。ベイリア帝国にはせいぜい、上がってくる情報の照合や精査くらいだろう。ティンクス帝国には嘘の情報を流してくれていればいい。いや本当に嘘を流してるのか? 私はスパテーナを信じられなくなった。


「スパテーナ……お前は本当に信用できるのか?」

「呼び出しておいてそれが第一声!?」


 スパテーナは図太くなっていた。いや元から図太かったかもしれない。

 彼女は一方的に私に愚痴り始めた。火魔法が使える彼女は、糞便のガス抜きを燃やす仕事もさせられていたらしい。そのことに彼女は憤慨していた。糞だけに。

 それはさておき、本題に入る。


「ティンクス帝国にメイドさんとなって侵入する。手伝え」

「テーナをスパイに使うですって!? 断固拒否します! 平和な生活を手に入れたというのに!」


 お前たった今、糞便管理生活は嫌だと言ってたじゃねえか。


「ただでさえややこしいことになってるのに、これで私がティックティン派に行ったらどうなると思ってんの?」 


 どうなるって……?

 ええと、テーナは元々ベイリア帝国に忠誠で、ティンクス帝国からベイリア帝国にスパイとして送り込まれてることになっていて、それでおじいちゃんの兵器のスパイしていて、それでさらにティックティンにいくのだから……?

 ふむ。一周回って普通のスパイだな。


「三重スパイだよ三重。それが元々ね?」


 じゃあ四重スパイか。なんだかんだでスパテーナはぽんこつに思わせて私たちオルバスタに潜り込めているのだから優秀なのだろう。きっと。なぜか不安しかない。

 決行は春。それまで私のメイド修行と、侵入先の情報集めだ。

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