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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【7章】悪魔の子編(12歳春〜)
172/228

172話:月のない森の死闘

 じゃぼんぬ。妹シリアナは水を出した。しかしそれはバケツ一杯分程度で、いつもの異常な暴走している幼女のそれではない。シリアナは「いつもこんなもんだよ?」と言うけど、そんなわけがあるか。


「じゃあ手を繋いで?」


 なになに? なんなの? 私はシリアナの手を握ると、シリアナの手からダムの放流のように水が噴き出した。


「にょわああああ!!!」


 私は全身の水分が噴き出す感覚に襲われた。その後に血液を抜かれたかのように頭がくらくら、目眩がした。


「あ、ああああ……。らめ……あな……こわれたうよお……」


 私の魔力が身体からぶりゅぶりゅ抜き取られている。身体が熱い。ガクガクと痙攣する。

 アイシアもブルブルしながら称賛の声を上げている。


「凄まじい水魔法だ! これが泉の二つ名の由来か!」


 ちあうけど。反論してる余裕はない。


「このままじゃ痩せちゃうよお!」


 私は痩せた。お腹すっきりぷにぷに幼女である。しかし抜けたのは内臓脂肪のように溜まった魔力だけなので、皮下脂肪は据え置きである。


「やっぱティアラ(ララ)の魔力が一番使いやすいね!」


 なんということだ。妹シリアナの暴力的な水魔法は私の魔力を使っていたとでもいうのか。私は衝撃でお股から水魔法が漏れた。


「いくよー!」


 シリアナの水魔法が、龍のようにとぐろを巻いて空へ登った。それにシリアナは乗り、私は巻き込まれる。

 アイシアが地面で何か叫んでいるが、声はすでに遠く、聞き取れない。

 私は震える手で無線会話機(エリクソン)を取り出した。


「なーあーにー!?」

「そのまま攻勢に出ましょう!」


 私がシリアナに伝えなくても、幼女はすでにそのつもりだ。私は水龍から振り落とされないようにシリアナにしがみついた。むにょん。む、胸がある……。なんということだ……ソルティアちゃんよりもありそうだ……。


「やー! くすぐたいー!」


 水龍は急に高度を下げ、山火事の炎の壁の中に突っ込んだ。水龍はじゃぼこんと地面に激突してえぐり、周辺一帯を消火した。湯気が沸き起こりサウナ状態と化した。むれむれてぃあら。

 髪の毛を使って着地した私たちの目の前には、いかにも怪しいマスクの男がいた。マスク男は慌てた様子で飛び退いた。


「くそ! 何が起こった!? 蜘蛛の魔物!?」


 はい。蜘蛛の魔物です。

 私は魔術師(マジスタン)らしき男に魔法弾を射出した。しかし男は軽くそれをパアンと軽く弾いた。ちょっと話と違う。


「まさかこいつは、ここに来るとは。お前が蜘蛛の精霊だな? そんないかにも学校で学びましたみたいな魔法は俺には効かないぜ」


 はい。蜘蛛の精霊です。

 私はこくりと頷くと、男は手の魔術符(マギラカルタス)から火炎放射を噴き出した。ぺらぺら話し出した癖に会話する気はないらしい。


「ノアノア!」


 シリアナはいかにも学校で学びましたという風な仕草から、適当過ぎる魔法語(ラヌエム)(ノア)とだけ叫び、じょばばと水をジェット噴射させた。水流は火炎放射を打ち消し、男は地面に転がった。


「なんだそのデタラメは!? はは! だがしょせんは水魔法。攻撃手段にはならん!」


 男は起き上がり再び火炎放射を噴き出した。おそらく、シリアナの魔法はただの暴走で、二度目はないと思っている。暴走なのは事実だが。


「とあー」


 男の足元から間欠泉のように水が噴き出した。男は空高く打ち上げられた。そこからどこからともなく翼ライオン(ドルゴン)が現れて、男にがぶりと噛み付いた。いったいどこのにゃんこの仕業なんだ……。

 しかし空のにゃんこに向かって森の奥から光線が放たれた。


「にゃんこぉー!?」


 光線はにゃんこの翼に命中し、にゃんこは咥えた男を口から離し、旋回しながら落下した。


「助けに行くよシリアナ!」


 私はシリアナを髪の毛で掴んで、蜘蛛モードで森を駆ける。山火事の煙でとても煙い。ハンカチで鼻と口を抑える。目がちりちりしぱしぱする。

 薄目を開けたままにゃんこの落下地点へ向かうと、煙の奥から弓を持った女が駆けてきた。女は私の姿を視認すると足を止め、弓をつがえた。


「蜘蛛の魔物!?」


 はい。アラクネーです。私はくねくねした。

 魔力を帯びた光を放つ矢が放たれた。私はとっさに髪の毛を盾にしてガードをする。バギンと音を立てて矢は髪の毛で止まったが、矢尻が私眼の前にこんにちはした。ぶるぶる。

 うっすら髪の毛から隙間を開けて前方を確認するも、弓女の姿はない。どこへ隠れた。音はしなかった。視界も悪い。まずい。水がなく、私の魔力もなく、汚染された場所だ。シリアナは水魔法が使えないようだ。

 どこだ。どこにいる?

 セオリーは樹の上だ。しかしこの一帯の森は枯れている。さらに周囲から山火事も迫ってきている。登るか?


「下だ!」


 私は髪の毛で逆立ちをした。私のドレススカートはめくれてお股があらわとなる。私の身体を、光線のような矢が掠めていった。直後。ずどん。背後から爆発音が響く。

 やべえなこいつ。やべえ。

 しかし一瞬の煌めいた矢の発射源から位置は判明した。女はその場から動いていなかった。女は煙で視界の悪い中、光魔法で姿を歪ませて、そして目の前でゆっくりと弓をつがえて放ったのだ。


「トリックが割れればなんともないさー!」


 私は髪の毛でフルプレートアーマーのように全身を多い、女がいた場所へ駆けた。そして足がもつれて転んだ。私はごろごろと転がり、丸まったまま女に激突した。揺らめく光は消え、女は空中で一回転をして、膝立ちでずさーっと着地した。

 そこへ横からにゃんこが飛び付いた。がぶぅ。

 女は「ぎぃぃいいい!」と痛みに堪えながら叫んだ。

 にゃんこは女をぶんぶんぶんと振り、ぽいっと空中に放った。そして口から炎を吹き出し、女を黒焦がした。こんがり。

 しかし、どさりと地に落ちた女はまだ生きているようだ。山火事作戦の最中だ。炎耐性のお守りでも持っているのだろう。弓も燃えずに形残っている。

 光が揺らぎ、女は再び煙の中へ姿を消した。くそ、めんどくさい。

 弓女に気を取られていたら、今度は背後からシリアナの悲鳴が聞こえてきた。しまった。この場に来た敵は一人だと思いこんでいた。シリアナと離れてしまった。

 シリアナどこだ!

 煙の中でさらに日暮れだ。離れた場所で燃える炎は揺らぐ影を濃く落とす。

 すぐにシリアナを救出したいが、消えた弓女も放っておけない。にゃんこ、頼む!

 にゃんこは「ふぐわぁあ!」と吼えた。初めて聞くにゃんこの怒りだ。

 私は弓女をにゃんこに任せて、後方のシリアナの元へ戻る。

 シリアナの姿が見えなかったのは、地面に倒れていたからであった。ドレスの腹部が赤く血が滲んでいる。

 この場に不釣り合いな白いコートを着ている男がいた。血塗られた短剣を手にして立っている。男は私を見て、不敵に笑う。


「お前が!」


 私は言い放ち、男に向けて手を向ける。

 男は私に短剣を向けた。短剣の刀身が私の腹部に向かって伸びてきた。その伸びた刀身は私に触れる前に、砕け、塵となって霧散した。


「ブッ殺す!」


 私の手に少ない魔力をかき集める。そのままはなってもいりょくたりないよー? 確実に、一撃で殺す。だからね、あーにぇにまかせて。

 その少ない隙で、白コート男は防御魔法を張った。

 関係ない。殺す。


「死ね!」


 手の中で魔力が反射を繰り返し、増幅していく。やり方なぞ知らん。だが出来ることは知っている。その威力も。

 魔力のレーザーは白コートの男を貫いた。

 男は死ぬだろう。それだけじゃ足りぬ。奪う。

 私は髪の毛で跳び、髪の毛を固めて殴った。男は膝から崩れる。髪の毛で頭に絡みついた。有線接続。私の魔力を注ぎ込み、そして引き抜く。

 白コートの男が声にならぬ声を挙げる。耳障りなので髪の毛で声帯を締めた。まだ落としはしない。

 根こそぎ。根こそぎだ。

 白コートの男は急激に老けていく。心動細動を起こしている。もう死ぬ。死んだ。

 吸い取った魔力によって、私の髪の長さが倍になった。ウェディングドレスの裾のようだ。


「ふふ。これで大丈夫。やれる」


 シリアナの傷は深い。しかし腹部だ。致命傷だとしても、まだすぐには死なない。

 あきらめるなー。

 シリアナの腹部に髪を巻く。

 なおすぞー。


月の光は命を与えんラヌテリカエンテリウス眠りゆく高潔(メリカテリアンスル)使徒の導き(マスメリカアステラ)安らぎの揺り籠(ルアタルサマスルル)


 光の膜ができる。しかし魔力が浸透しない。

 魔力あってない。だめかも。もうだめぽ。使えねーなポンコツめ。ぽんこつじゃないもん。

 神官魔法じゃだめだ。とりあえず魔力を固めて血を止める。延命して帰ろう! 特攻は失敗だった。おーいにゃんこー!

 にゃんこが「んあ〜」と力無く鳴いた。足を引きずり血だらけの姿で現れた。にゃんこ! よくやった! よく生きて帰った! よーしよしよし!


『頭からまる噛りしたんぬ』


 にゃんこは血に濡れた牙を見せた。こわっ!

 私はシリアナとにゃんこを髪の毛で抱えて本陣に逃げ帰った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まぜかわ。 なぞろりに死ぬほど吸われる。 ぬこ、長文で話す。 [気になる点] ……もう、人体錬成で分離しちゃってもいいかな? [一言] シリアナを、シリアスをなんとかしないと……っ!
[気になる点] 混ざった影響か、地の文が幼かったり老成してたり分裂してたりですごいことになっとる
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