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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【7章】悪魔の子編(12歳春〜)
163/228

163話:進まない話

 ソルティアちゃんが慌てて戻ってきた。そして「少し休憩を入れましょう」と私の身体を抱えて部屋から出た。

 ソルティアちゃんは廊下で私の身体を下ろすと、屈んで私の目を見た。

 何かまずいことでもあったのだろうか。


「どしたの?」

「にゅにゅ姫ちゃん大丈夫? まだ漏らしてない?」


 あっ。私がぷるぷるしているのを見て、おしっこを我慢しているのかと思ったのか。ソルティアちゃんの早とちりである。


「おしっこしたいわけじゃないけど」

「ほんとに?」


 そう言われるとしたくなってきた……。小休止。

 さてはて。じょろろろろと出しながら考える。熊人の言葉だ。「手を引け」とはそのままの意味だろう。よそ者がいきなりやってきて「侯爵家の姫に言われて移民しにきた」と言われても納得いかなかったのだろう。そして彼は直談判にやってきた。

 あるいは、私の真意を確かめに来たのかもしれない。困った事に何も真意などない。このままでは何も考えていないぽんこつ幼女だと思われてしまう。


「まだですかー? 大きい方ですかー?」


 失礼な。私は美少女なのでうんちはしない。考えがまとまらないまま私はトイレから出た。

 ううんどうしよう。とりあえず甘いものが食べたい。


「それでしたら、先ほど頂いた蜂蜜をいただきましょう」


 わあい!

 応接間に戻ると、テーブルには巨大枝豆のチップスが置かれていた。そして隣の小皿に蜂蜜を絡め取る棒(ハニーディッパー)から濃い琥珀色の蜂蜜がとろりと垂らされた。

 ん? どゆこと? 枝豆チップスに蜂蜜をディップしろと? え、枝豆に蜂蜜……? 

 私も困惑しているが、熊人も得体のしれない黄緑色のチップスに、元々まんまるおめめの目をさらに丸くしていた。

 もぐもぐ。枝豆に蜂蜜……一体どんな味なのかと違和感あったがおいしい。蜂蜜の味だ。あまぁ。そもそも蜂蜜をかければ大体蜂蜜の味になる。つまりこの蜂蜜が美味しい。私が街中でつまみ食いしてる蜂蜜クッキーより濃厚でコクがある気がする。さすが姫への献上品だ。やるな森のくまさん。

 というか、蜂蜜を付けすぎた気がする。今度は少しだけ付けて食べる。ふむ。蜂蜜の味だ。この組み合わせは失敗ではないか? ひょいぱくもぐもぐもぐもぐ。

 は!? 気が付くと私は蜂蜜枝豆チップスを口を運ぶマシンになっていた。き、危険だこれ。

 飲み物はルビー色のスグリの果実水のようだ。なるほど! 酸味! 蜂蜜とクエン酸の組み合わせは素晴らしいものである。


「すぱぱっ」


 くああ。酸っぱさで額に汗がにじみ出る。今度は口の中が甘味を須める。ぱくぱく。ごくごく。

 こ、これは危険だ。

 私は強靭な意思で手を止めた。でもあと一枚だけ。もぐもぐ。


「ティアラ殿」


 何だよ。人のおやつの邪魔をするなよ。おっとダイエット中だった。ならばとがめられてもしょうがない。

 私を止めたのはくまさんだった。そうだ私は客の前であった。


「違うから。いつもこんな食べてないから」


 私は慌てて言い訳をする。もし暴食のぷにぷに姫との噂が立ったら、パパの評判も下がってしまう。

 仕方なし。おやつなら手を引こう。


「森はいま(よご)れちょるだす」


 私の手も蜂蜜で汚れている。べたべたである。ソルティアちゃんにふきふきしてもらう。


「姫は森を亡くすたるおつもりだすか」


 私はそっと目を閉じた。

 ふむ。訛りが強いせいかちょっと話がわからない。


「つまりは……」


 私は蜂蜜で得た糖分で頭をフル回転させた。血糖値の高まりでむしろ頭はぼんやりしてる。なんで私は森のくまさんと話をしてるんだろう。いつもなら二度寝の時間なのに。こういう面倒事はタルト兄様に持っていってほしいものだ。うとうと。


「ねむい」

「……森を眠らせる、と?」


 ふむ。そんなこと言ってないけど。

 私はこくりと船を漕いだ。


「だけんど、そんな! 夢のよな話が! そげなことでだばあぐだつはんがぷにんしあはぷにがぷにぷによよいがよい――――」


 ハッ!? よだれじゅるり。

 私はベッドで目覚めた。なんだ夢か。


「あ。お目覚めですか?」

「んにゅ。そるちー、変な夢観たー。熊の人と枝豆に蜂蜜で裸踊りしてたー」

「んもー。熊の人に失礼ですよー?」


 ソルティアちゃんは私にかけられたブランケットを巻き取った。

 まだぼんやり頭の私は目をこしこしする。


「あえ? 熊の人が来たのは夢ではない?」


 どうやら寝落ちしてしまったようだ。


「裸踊りは?」

「そこは夢ですね」

「最後は風船になって爆発したのも?」

「そうはなりませんよね」


 確かに。現実離れしたことも夢の中では常識に感じてしまうのはなんでだろ~。

 さて、そんなことよりも。


「ふむ。どのくらい私は寝ていた?」

「一時間くらいですよー」

「まずいな……」


 食後の血糖値は一時間でピークとなり、脂肪に蓄えられてしまう。お散歩をしてエネルギーを消費しなくては。

 私は髪の毛でぴょんこらとベッドから跳ね降りた。


「熊の人がお待ちかねですよー?」

「じゃあ一緒に街を散歩しようか」

「何かお考えが?」


 うむ。彼は自分の土地を開拓しようとしている私をよく思っていない。だからこうして直談判に来たのだろう。当然である。しかしその前に歩み寄りは必要ではないだろうか。お互いのことをよく知らずに話し合っても良いことはない。総理大臣と大統領だってゴルフするのだ。

 それに散歩しながらなら目を合わせなくていいじゃん? 熊の顔を目の前にするの恐いねん。生やねん。生熊やねん。くまさんゆーとるけどぬいぐるみとちゃいますねん。

 私たちは応接間に戻ったがくまさんはいなかった。


「あれ? くまさんは?」

「姫様がいつお目覚めになるかわかりませんとお伝えしたら、庭を見に外へ出られましたよ」

「りょ」


 彼の座っていた椅子は大きく頑丈なものだが、彼の体躯には窮屈だったのであろう。そう考えると、話の続きは外でするのがやはり良さそうだな。

 私はお気にのお買い物ポーチを肩にかけて庭へ向かう。


 彼の住んでいる南西の森、月のない森(シバウナクルネス)。お勉強をサボっていた私でも、オルビリア近辺なのでそのようなものがあることは知っている。森と言っても平らではなく南北にそびえる山岳地帯の一帯である。

 月を意味するクルネスと付けていることからして語源はクルネス語だ。そんな月信仰のエイジス教が「月のない」と名付ける辺りから、異教徒の土地だったのではないかと思う。

 実際にやってきたのも熊人だし。

 熊の魔物が天敵な故郷のルアが見たら卒倒しちゃうかも。ふふふ。熊人さん迫力すごいし。

 あれ? 街の中に連れ出したらまずい?

 庭に出して平気?

 オルビリアには獣人を差別的に見る人は少ないが、半分は好意的ではない。それは文化の違う猫人が街で好き勝手したからであるが……。今では人の街に適応している猫人しか残っていないが、それでも最初の印象で快く思っていない人も多い。街中でうんこしてたし。

 宮殿にいる下働きや、庭師たちは信頼できる者しかいないが、それでも100%ではない。熊人の客を不快にさせるかもしれない。


「きゃああああ!!」


 外から悲鳴が聞こえる。

 まずい。妹シリアナの声だ! また何かやからしてる!

 急がねば。逸る心は、うっかり私に走ることを忘れさせた。私は髪の毛に乗り、カサカサカサと蜘蛛モードでカサりだす。

 ソルティアちゃんは置いてきた。私の姿を見た玄関の側にいたメイドさんがちょいびびりながら、がちゃりと扉を開いた。

 いた! もりのくまさんだ!

 そして熊人の肩に乗ってキャッキャとはしゃぐ妹シリアナがいた。なにしとん。私も乗りたい。


「んがっ!? こげなとこに蜘蛛の魔物が!?」


 熊人は私に臨戦体勢を取った。

 もうその流れはええって。


「ふふふ。違いますよ。わたくしの姉のティアラですわよ~」


 妹シリアナが外向け淑女モードになっててなんか気持ち悪い! 熊人の肩に乗ってる癖に!


「気持ち悪くないもん。気持ち悪いのはティアラ(ララ)の蜘蛛の姿だもん」


 なんだとこのやろー!

 私は髪の毛で熊人の身体をよじ登って肩に乗った。そして妹シリアナのほっぺたを指で突っついて攻撃した。シリアナも私のほっぺたを突っついて反撃をする。

 これが私たち姉妹の喧嘩である。膨らませたほっぺの空気をぷしゅうと抜かれた方が負けだ。ぷしゅう。引き分けである。


「アナの方が早かったもん。私の勝ち!」


 私は負けてしまった。真正幼女に勝てるわけがなかった。勝敗に抗議して泣かせてしまっても私の負けである。


「それじゃ、行こうか」


 私は熊人の頭をぽんぽんと叩いた。


「どこへだぇすか?」

「街へ」

「……このまま?」


 やれやれ。シリアナは門を指をさしてノリノリである。

 後ろからソルティアちゃんが慌てて追いかけてきた。

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