148話:不可侵秘密幼女条約
「くらえー! 最強精霊姫砲!」
べちーん。最強精霊姫砲。相手は死ぬ。ノノンは死んだ。
「ぬむー! ずるい」
戦争カードゲームで私は限定配布激レア精霊姫でノノンの死兵を粉砕して勝利した。
「ノノンカードもつくって」
「リアとキンボに手紙と写真送るかー。でもクリトリヒ帝国も隣で戦争起こってて大変そうだしなあ」
「わかった。そっちには進軍しない」
ぎゅっ。幼女同士ちっちゃいおててで握手。ここに不可侵秘密幼女条約が交わされた。
「いつまで遊んでるのー? お風呂の時間だよー」
「あいっ」
リルフィに呼ばれたので私とノノンは浴場へ向かう。シリアナも呼んで幼女四人。いや、リルフィは男の娘だけど。
『ぽしろうもいるけどー?』
そうそう。シリアナが抱えているぽしろうもいた。ぽしろうはぽしろうという意識を持った白毛玉幼女になっていた。ロアーネの意識が無くなるとこうなるのか……。
しかしぽしろうはお風呂に入れると溶けるので、リルフィが氷漬けにしてからの持ち込みとなる。断じていじめではない。『わーい』と喜んでるし。
お姫様ーズなのでメイドたちがずらりと入浴を手伝うと思いきや、お手伝いメイドはルアやソルティアなど顔見知り侍女だけだ。リルフィの身体は秘密だからね。
そんなリルフィの身体を私は髪の毛で石鹸を泡立ててもしゃもしゃ洗う。幼女特権である。シリアナはノノンに興味津々であわあわにゅるにゅるしている。記憶のビデオ撮影しておこう。違法性はない。
そしてざぶんこと湯船に飛び込む。幼女はダイナミズムで生きている。私は飛び込む前に泡でつるぺたーんとすっこけた。そのままつるつるの髪の毛で床を滑って頭からにゅるっとお湯に入った。ぷかー。
シリアナはさっそくノノンに魔法を見せつけている。お風呂のお湯に乗って宙でとぐろを巻いて飛んでいる。びゅんびゅんである。
「なに……あれ……」
無表情不思議ちゃん少女のノノンがシリアナの魔法に驚愕していた。待ってシリアナなんなの。この表情筋死んでる系少女を驚かせるって相当だぞ。
そしてお風呂は渦を巻き洗濯機状態になる。ぐるるるるる。おかげで汚れが綺麗に落ちる。まあ美少女なので水を被るだけでふんわりフローラルぴかぴかぼでーなのじゃが。
さて今度はお風呂からあがり、再びシリアナのぐるぐるの風で脱水が始まる。びゅるるるる。しゃきん。
「なに……それ……」
またノノンが言葉を失った鯉みたいになってる。
最後にもこもこタオルでくるまって終わりである。ネグリジェを着たリルフィを髪の毛で捕まえてベッドインだ。すやぁ。
しかし反対側にノノンがいた。
「リルフィは私のだ。あっちいけ」
「やだ」
リルフィ不可侵条約破棄。戦争が勃発する。
「もー喧嘩だめだよー」
休戦協定。リルフィは分割統治される。
人は愚かだ。さもそれが最適解のごとくはんぶんこにして争いの火種を残す。リルフィの右半身はノノン、リルフィの左半身は私のものになった。しかしお互い自分のものにすることを諦めてはいない。当の本人だって納得していない。だって人の身体はシンメトリーでも二分割にはできないのだから。
そして水面下の争いが始まる。より自分の身体を密着させ、自分の方へ引き寄せる。リルフィの身体の上で手を這わせ、お互いの手を握り合う。ぎりりりり。
「もー。僕でていくからね!」
リルフィは怒って私の部屋から出ていってしまった。なんてこった。ぷいっ。残された私とノノンは背中を向ける。仮初だが、ある意味奪い合うものを失ったことによって平和が訪れたと言えよう。へぷちっ。人肌が失われて冷戦が訪れた。いたしかたない。温まるにはお布団を被ってノノンの手を取るしかなかった。
「色々と聞きたいことがある」
「ノノンも」
こうして冷静になってみると、敵と対話をしてみようと気持ちは傾くものだ。
「なになに? 言うてみ」
「貴女の妹なんなの? 人間?」
いや知らんけど……。シリアナはシリアナって生物だし……。不思議幼女に人間を疑われるような幼女なのか……。
「ノノンの目からしても、ただの幼女ではないと?」
「彼女は神の器……」
ふむ。こいつが言うと本気か冗談かわからんな。神の器ってなんだよ。
「じゃあ私は?」
「ぷにぷに幼女」
なんでシリアナは「神の器」とかそれっぽいこと言っといて私は「ぷにぷに幼女」やねん! べしぃ!
ノノンは「てれぺろっ」と笑った。キャラブレしてんぞ。
「貴女の聞きたいことは?」
「死兵グリオグラってどうやって動かしてるの?」
さっき無線通信で引っかかりを覚えたのがそれだ。死体を動かしているのは思念を乗せた魔力だと思われる。応用すれば魔道具トランシーバーが作れそうな気がしたのだ。
「貴女が髪の毛を動かしてるのと同じ」
「うそやん」
私は髪の毛をもしゃもしゃ動かした。私の髪の毛操作はすでに指を動かすのと同じような感覚になっている。脳みそで考えたことを何も意識せずキータイピングで文字入力するくらいの感覚で動かしている。つまりそのレベルで動かしている感覚なのか。
そもそも私の髪の毛がもさもさ動き出したのは精霊が宿ったからだ。思念を乗せた魔力で精霊に動かさせている。なるほど。言われてみれば私の考えた通りであるということか。
「じゃあ思念を飛ばす魔法はあるのか」
「受け手次第」
ふむ? ふむ。そうか。タルト兄様に思念送っても届かなそうだしな。シリアナ辺りだと飛んできそうな気がする。あれ、そういえばさっきノノンに襲われてるリルフィから『たすけて』と思念が飛んできたような……。
しかし思念魔法を無線機魔道具に応用するのは無理そうな感じか。魔力に声を乗せるなら有線がすでにあるから無線もできそうな気が。だけどそれなら電波使った方が早そうだ。どうにせよ知識も技術も足りない。遠くに飛ばすには電波塔が必要だっけ。魔力だと魔力塔? んああ……なんかそんなのがあったような……。すやぁ……。
あるな。世界樹だ。
世界樹は大量の精霊を飼っている。世界樹は月の女神と交信をしているらしい。
錆色飛竜は私が世界樹化させた木を狙ってチェルイ魔法学校を襲った。遥か遠くへ何か感じさせる魔力を飛ばしているに違いない。
そうだ。私をストーキングしていた世界樹の精霊ちゃんはどうしたっけ。ウニ助に取り付いてた……あれ? ウニ助どこいった? 最近……一年くらい見てない気がするぞ?
そんなウニ助。意外なところで見つけることとなる。
パパから森を貰ったので、私が生まれた聖なる泉、直訳すると輝く泉に行ってみた。懐かしいな泉。泉の側のパパと魔法練習した岩。そしてウニ助の木……。
「ウニ助の木が生えてる……」
知らない木にウニ助が成ってる……。うーん。私は見て見ぬ振りをした。まあ、世界樹ちゃんが入り込んだウニ助だ。迷子になったと思ったら木になっていたとしてもおかしくはないだろう。
「ここがねえさまの生まれた場所なのですね!」
リルフィが目を輝かせた。私はそっとかわいいリルフィのお尻を揉んでセクハラをした。
シリアナはいつもの調子で泉に飛び込んで、魔法で水流を打ち上げて空に飛んでいった。自由すぎる。
「この泉……」
ノノンがちゃぷんと泉の水を手ですくった。またそれっぽい発言が出そうだ。
「おしっこ漏らした?」
漏らしてないわ!
あ、いや漏らしたかも。昔のことだけど。えへへ。んなことどうでもいいだろ!
いや、こいつが言うことだ。何か意味があるのかもしれない。
「それがどうかしたのか?」
「そしたら……きたない。えんがちょ」
ノノンは心底嫌そうな顔で手の中の水を捨てた。
なんだよそれだけかよ! 昔! 昔のことだから!




