141話:我々人類はうんちまみれになる覚悟で環境問題に取り組まなくてはならない……。
私のお腹が膨れ上がったのはネコラル蒸気のせいではないか。この仮説を信頼と安心のネタバレロアーネに聞いてみた。
『それもあるかもしれませんが、そこまで大きな影響はまだありませんよ』
「なんで?」
『リンディロンで魔力病で苦しむ人はまだ多くありませんから』
魔法が使えない人が魔素を取り込みすぎてなるあれか。ママが妊娠した時に苦しんでいたやつだ。
あれ? でも私それにならなかったけど?
『ティアラ様は魔力許容量が異常なのです。例えるなら、大酒飲みワームですね』
うわばみ?
『そして例えるならオルビリア婦人は、酒づまりお腹痛い痛い病でした』
急性胃炎?
『つまり下戸なわけです』
まって、なんで酒の例えが続いてるの?
『わかりやすいかなと思いまして』
かえってわかりにくいよ!
それだと魔力を吸収できないタルト兄様は口がない人じゃん!
『言い得て妙ですね。魔力吸収できないとなると、取り入れる口がないか、吸収する胃が機能していないか』
すると、魔力器官が限界を迎えたロリババア時代のロアーネは肝臓が壊れたわけね。
『言い方ひどくないですか?』
酒で例え始めたのはお前じゃろがい!
そして地味に酒で理解し始めてきた自分が嫌だ。
つまり、リンディロンの街の人は、少しずつ酒を飲んでいる状態に過ぎない。おそらくこのままあの霧の街の状態が続けば、街の人に影響が出始めるだろう。だから対策は必要だが、私がデブったのとは要因はまた別という話だ。
待てよ。魔法器官がアルコールを分解する肝臓だとすると、魔力そのままを放出することしかできない私はいったい……?
『おしっこが酒臭い少女ですね』
最低だこいつ!
私は教会の冷蔵庫にポアーネを放り込んだ。
さて。
オルビリアの街でもネコラルを使った工業化が始まっている。工場地域ではあのかぁんかぁんとネコラルを叩く甲高い音が鳴り響き、碧い蒸気がもくもくもこもこ空に漂っていた。
事の大きさはタルトよりもパパに伝えるべきだと私は考えた。タルトを信頼していないわけではない。私の侍女を寝取ろうとしているタルトが悪い。ぷんすこ。
「ぱぱぁー」
「いらっしゃいティアラ。兎狩りは楽しかったかい?」
「ソルティアちゃんとざくっとぶしゅっとしたよー」
私はナイフをぶんぶん振る仕草をした。
パパは娘の成長に対してこれでいいのかと戸惑った顔をしていた。なので話を切り替える。
「で、今日は大事な話があるんだけどもー」
「なんだい。言ってごらん」
私は、私には侍女ルアが必要なことを熱弁し、いかにおっぱいで癒やされているかを伝え、タルトとルアの婚約を破棄して、ルアは私と結婚するようにパパに嘆きながらお願いをした。
パパは娘の成長に対してこれでいいのかと戸惑った顔をしていた。なので話を切り替える。
「これが本題だったけど、これは一旦置いといて」
「うんうんなんだい? 言ってごらん」
私はパパににゃんにゃんパラダイス宮殿を作ろうとしたらコロシアムができていたことを嘆いた。あれはあれで楽しそうだけど、私はかわいい女の子と触れ合う広場を作りたかったのにぃ!
「にゅにゅ姫ちゃん、それじゃないですよ」
「おっと」
こほん。私は困り果てたパパの表情から察し、聞きたいことを話した。なんだっけ?
そうそう。猫人のトイレの話だ。猫人はふかふかの土の上でうんちする。しかもこれは縄張り争いの意味もある。なので人間のトイレを素直に使わせるのは難しい。そのためのトイレしつけプログラムのマニュアルが必要だとパパに伝えた。
パパはまた変なこと言い出した……という顔をしていたが、ふむふむなるほどと理解を示してメイドさんにメモを取らせた。パパで良かった。タルトだったら「クソの始末くらい自分でしろ」くらい言いそうだ。
ふう。じゃあそういうことで。
「にゅにゅ姫ちゃん、ネコラル忘れてますよ」
「あっと」
そうだそうだ。忘れるところだった。パパに「ネコラル蒸気もこもこ出してるとみんな病気になるかもしれないよ」と伝えた。
「ん? ティアラ、それだけか? もっと詳しく教えてくれないか?」
「え? あとは私のおしっこがアルコールだったという話しかないけど……」
その場にいた全員が「何いってんだこいつ」という目で私を見た。私は慌てて「やっぱ今のなし」と取り消した。私は手に魔力を集め「忘れろビーム」を放った。みんな忘れた。良かった。危うく「精霊姫のおしっこはアルコール」というあらぬ噂が街に流れるところであった。
「ん……あーっと、やあティアラ。兎狩りは楽しかったかい?」
「忘れさせすぎた」
ネコラルの話に戻す。
しかし本当に大気汚染による魔力公害が起こるかどうかはわからんのよなあ。ネコラルの煙に魔力が含まれてることは知ってるけど、その理由はわからんし。なんでネコラルを叩くと蒸気が出るのかもわからんし。その辺は専門家に調べて貰うしかない。
だが、地球の歴史的に見て、そのままモクモクと煙突から排出するのは大抵良くないことである。
「なるほど。ただちに各所に調べさせるとしよう。よく教えてくれたね」
「えへへ」
「しかし、その間に工場を止めることはできない。ティアラの話だとすぐには影響はなさそうなんだね?」
「ママみたいな体質の人は影響でるかも?」
「おい! すぐにネコラル工場を止めさせろ!」
落ち着いてパパ。ママは工場に近づかず離宮のここでのんびりしてるから大丈夫だよ!
「煙をどうするか、か。太陽の国ではどうしてたんだい?」
「うーん?」
地球ではどうしていただろうか。フィルターとか?
なんかだいたい「大火力で燃やせば毒ガスは出ないはずだぜヒャッハー!」と脳筋解決だったような気がする。
私が首を傾げていたら、ソルティアちゃんが何か言いたそうにそわそわしていた。どしたの?
「はい! 煙が出ないように蓋をしたらダメですか?」
「かわいい」
私はソルティアちゃんをぎゅっとした。
煙が出るのが問題ならば蓋をすればいい。天才の発想である。
見知らぬかわいいメイドちゃんにかわいい発言をされて、思わずパパも笑みを隠せずにいた。
「じゃあそれで試してみよう。ね、パパ?」
パパはかわいい娘をどう説得しようか苦笑いで悩んでいる様子だ。
しかし私は本気である。臭いものには蓋をすればいいんだ。肥溜めみたいに。
ネコラル蒸気に蓋をする実験場はオルヴァルト高原に作られることになった。
蓋をすると言ってもただの蓋ではない。地中に排気するのだ。確か、地層を天然フィルターにする煙突があったような……。内圧がどうなるかわからん。全てがうろ覚えであった。
それと、問題がもう一つ。
「爆発したらどうなるべさ?」
「うんちが吹き飛ぶ」
実験なので広く安全な場所が選ばれた。そしたら候補地が肥溜めの近くになった。もしネコラルの蒸気が爆発を起こしたら、オルヴァルト高原はうんち高原となるだろう。しかし実験にはリスクは付き物である。我々人類はうんちまみれになる覚悟で環境問題に取り組まなくてはならない……。
さて。
私はもう一つやり残したことをこなさねばならない。私は教会の冷蔵庫からポアーネを取り出した。
「で、結局私のデブ化の原因はなんだったの?」
『食べすぎです』
「そうじゃなくて」
脂肪じゃなくて、魔力の貯まりすぎの方だ。察しろ白毛玉め。
『いえ、ですから、魔力が豊富に含まれているものの食べすぎです。エアマメでしたっけ?』
なん……だと……?
『普通は食べ物からの魔力吸収はほとんど行われず、糞便から排出されるはずですが、ティアラ様の吸収量は破格ですので、お太りなられたのでしょう』
私は美少女だからうんちしない。まさかそれが根本的な原因だったとは……。




