136話:婚約話
ふふーん。これは良い案だぞと、私は早速オルバスタ侯爵代理ことプロスタルト兄様ににゃふりパーク計画を提出した。
しかしタルトは私の手書きのぺら紙計画書をひと目ながめて、ぺらりと放った。ボツだ。
「にゃんで!?」
「猫人を見世物にする必要はない。猫人の仕事ならいくらでもある。ベイリア国中に鉄道網を作るからな。それと、お前の言ってたあうとばーん。馬車を高速で移動できる道も作る予定だ」
むう。私は唇を尖らせた。パパだったら抱っこして頭なでなで良い子コンボをしてくれたはずなのに、パパをベッド送りにしたせいで! タルトが代行になったせいで!
「で、後ろの変わった二人はお前の友人か? 妹が世話になったな」
ゴンゾーとビリーが改まり、胸に手を当て礼をした。
計画地の麓の畑を管理している二人を、私はオルビリア宮殿に連れて帰ってきた。
「そっちの黒いの。なぜ頭に黒いポアポアを乗せている?」
「これポアポアちゃうます。髪の毛です」
「そうか」
さすがのビリーも侯爵代理には真面目に受け答えるようだ。
「隣はヤフン人だな。ダイジュ計画への協力感謝する」
「ははあ。もったいなきお言葉でごぜえます」
ゴンゾーも真面目だ。彼は元々真面目であった。
さて、お目通りだけで終わるかと思ったら、タルト兄様は彼らをお茶会に招いて他国や魔法学校の話を聞きたいと言い出した。タルト兄様は戦争時も家に留まり外へ出なかった。魔力を身体に取り入れる力がないので魔法学校にも通っていない。それでタルト兄様は外の話を聞きたかったようだ。
こら、私のお漏らしの話はよせ。後でそのアフロしばくぞ。
「ビリーは南の大陸から来たのか」
「はい。わたし戦士として商人に買われました。スパルマ国で軍人と戦ったですね」
「ほう。確か、ティアラの友人にスパルマ国の元軍人がいたな?」
マヨソースロードのカルラスか。彼は革命軍に憎しみを持っていたが……ビリーの境遇ならば馬が合うかもしれんな。
そしてゴンゾーもスパルマ国のヤフン人街から流れてきて商人に拾われたらしい。
彼らはまだチェルイ町の商会で働き、ダイジュ畑計画にお金の匂いを嗅ぎつけすぐさまゴンゾーをオルバスタへ送ったそうだ。
さて、話はたけなわ。お茶会は終わりにして解散した。しようとしたところで私と侍女ルアは呼び止められた。
「そうだティアラ。代わりの侍女の当てはついたか?」
「かわり?」
私はルアをちらりと見た。ルアは口に白手袋をはめた手を当てて、すっと目をそらした。ルアにしては珍しい、嘘や隠し事がバレた……という反応でもない。気まずそうな様子だ。
え? ルアは私の侍女から外れるの?
え? ルア病気? いやそんな様子はなかった。
それ以外の要因……。私の侍女をするのが嫌になった。いやそれはない。私はぱーぺくとぷりちー美少女だからな。自画自賛はともかく、私とルアはぷにぷにの仲だ。私たちの絆は嘘ではない。
するとやはり、またヴァイギナル王国の独立の件か。ルアはヴァイギナル王国の王女だからな。ぐぎぎ。
「ヴァイギナル王国か……面倒なことだ」
「そうだ。すでに知っていると思うが、叔父上がかの国の政権を握っている」
へ? 知らんけど。ルアが目を合わせてくれない。ううむ。意図的に隠されていたというより、へっぽこのなこの子に教えたらすぐに情報をお漏らししそうだなとか考えていそうな顔だ。ふっ。長年の付き合いのおかげか、ちょっと髪の毛をルアの頭皮にちょちょいと有線接続すると、ほんのり思念が伝わってくるのだ。
へっぽこと思われてたの!? 心外! しかたないかも!
「叔父上には跡取りがいないだろう?」
「ふむ? ふむ」
叔父上とはリルフィのパパのことだ。一人息子のリーンアリフは死んだことになっているので跡取りがいない。
「そしてヴァイギナル王にも息子がいない」
「ふむ」
ヴァイギナル王はリアとルアのパパのことだ。頭がちょっとおかしい人だ。だから独立とか言い出した。……いや待てよ。叔父上がさっきなんとかかんとか……。
「そこで、俺が叔父上の養子になり、ヴァイギナル王との娘との婚約が決まった」
は?
私はぽかーんとして冷めきった紅茶が口からだばーっと漏らしてドレスを濡らした。大変な粗相をしているのに、ルアは注意しようとしない。ルアは両手を頬に当て、目が≧≦となっている。
「や、やらんぞ! ルアは渡さん! ルアは私と結婚するんだい!」
「何言ってるんだ。女同士で――」
「精霊姫教は女同士の結婚を認める!」
ごぉーん。遠くで四時を知らせる教会の鐘が鳴った。その日より精霊姫教の教義に「女性同士の婚姻を認める」が加わった。
「んなこと言っても――」
「やだやだやだやだやだぁ!」
じたばたじたばた。私は外面もなく、床の上で両手両足をじたばたさせた。ばたばたばたばたばた。ちらっ。
「だめだ」
「ふーん。はーん。いやわかったぞ。さてはドッキリだな? 私を驚かせようといういたずらだな? もータルトめー」
「いいえ。本当の事でございます」
タルトの侍女が冷静に答えた。やだー! やだぁ!
「待てよ。ヴァイギナル王にリアとルアの他にも娘がいるってオチだろ。レアとかロアとか」
「ロアンスなら祖母ですけどっ」
ルアはそう答えた。ロアはいるんだ……。
クールビューティーな私の取り乱しっぷりに、タルトはあまり驚きもせず、いたって冷静に続けた。
「しかしすぐにという話ではない。それにほら。カンバもいるだろう」
カンバかぁ。カンバは成長せず、見た目中学生スレンダーのままであった。
私はスレンダー美人が好きだ。巨乳おっぱいお姉さんよりも、スレンダーぺたんこ少女を好む。
だがおっぱいは別腹なのだ。
私はすでに、無防備におっぱいを頭に乗せてくるルアがいないと生きていけない身体にされてしまったのだ。
「他に侍女候補はいないのか? 宮殿にはお前付きが他にもいるだろう」
確かに私の世話をしてくれるメイドさんはたくさんいる。仲が悪いわけでもない。しかし違うのだ。私は多くを許容してくれつつも「めっ」してくれるメイドさんがいいのだ!
「ルアの代わりと言うなら……リルフィがいい……」
「だめですっ。あの子はお嬢様に甘すぎですからっ」
男の娘メイドと甘々な生活したいんだけど! じたばた。
無理なことを言っているのはわかっている。今の私は無理を言って道理を引っ込めさせたいと思っているだけの幼女なのだ。
「お嬢様は姉さまの結婚の時もこんな感じだったのですかっ?」
「いや、そういう話は聞いてない。歳らしくない、もしくはわかっていないのではないかと噂されるくらい大人しかったはずだが」
だってリアとルアは違うもん。
リアはママぁって感じだったけど、ルアは妹属性を持ったお姉ちゃんだったのだ。そして私のハーレム要員なのだ。
「ルアはいいの!? こんな魔法使えないへっぽこタルトで!」
「おい。ぶっとばすぞ」
「ひっ」
タルトの逆鱗に触れてしまった。
さらに私の身体から魔力がピチンパチンと跳ねた。タルトの侍女が私に消しゴムの欠片のような魔法弾を撃ち込んだらしい。そういやあの侍女、私がビリっとさせて事件になってしまった侍女だっけ。相変わらず好戦的なやつめ。
それとは別に、ルアが私のほっぺをぷにっと押した。
「めっ。魔法が使えないというのでしたら、お嬢様のお母様も使えませんよっ。でもお父様と手を取り合ってオルバスタを発展させてきたじゃないですかっ。能力に魔法は関係ないと、タルトをオルバスタの跡取りに推したのもお嬢様ですよっ」
ぐぬぬ……。
「じゃあルアはタルトでいいの?」
「はいもちろんですっ。だってお嬢様のお兄様ですよ?」
あ、私への好感度がそのままタルトに移ってるぅ!
「じゃ、じゃあタルトはルアでいいのさ!? 他人に決められたこんにゃくでしょ! ルアのいいとこ言って! はい!」
「そりゃあ長年お前に仕えてるからな。信頼できる」
あ、私への好感度がそのままルアに移ってるぅ!
「それにまあ、その、美人だと思う。胸も大きいしな。それに仕事もできるし。後は、胸も大きいしな」
胸を二回言ったな? くそ! おっぱい! 男はみんなおっぱいか! 同意せざるを得ない。
「おっぱいか……。それじゃあしかたないな……」
「えっ!? なんでですかっ!? ちょっと私は納得できないんですけどっ!?」
ルアは胸を隠して恥ずかしそうにしながら私のほっぺをぷにぷにした。
だっておっぱいと言われたらしょうがないじゃないか。男の子だもの。




