12話:パパが旅立ってから一年が経った
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なつはあつい。
どれすはおもい。
くうきのみず、おおくない。すごすらく。
でも、あつい。
ぱぱはあつい、かな。
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愛する我が子たちよ
良い子にしているか。
プロスタルトよ。
何かをする時は、誰かに伝えるように。
大人になるために君はそれを学んだ。忘れてはいけない。
シリアナよ。
きれいなお花、ありがとう。
パパはお仕事がんばるから、お勉強をずる休みしてはいけないよ。
ティアラよ。
パパも暑いよ。ここは風が少ない。我が家が恋しい。
お守りのおかげで元気に過ごしているよ。
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ぱぱは、げんきですか。
てぃあらは、げんき。
秋はくだものおいしい。
にわのくだもの、とって食べました。シリアナと分けました。
プロスタルトは、木に登って怒られました。
お花いっぱい咲いた。
ぱぱ、まだ帰ってこない?
シリアナ、さみしいっていってる。
てぃあら
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ティアラよ。
この短い期間で文字が上手になったね。君は賢い子だ。
だから君は隠しているね?
木に登って怒られたのは、プロスタルトだけではないと聞いているよ。
危ないことはしないように。
パパの今いる家も、花が沢山咲いているよ。君にもいつか見せてあげたい。
ガラスの家に、珍しい花が沢山咲いているんだ。遠く離れた森の中の国の花とかね。
パパは雪が無くなるまで帰れない。
パパの分までシリアナを抱きしめてあげて。
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パパ、お元気ですか。私は元気です。
お守り大事にしてくれて嬉しいです。
すっかり寒くなりました。雪が降りました。
雪玉を転がして、みんなで雪巨人を作りました。
パパが帰ってくるまで、溶けないで残っているかな。
リアは私のお尻をぺんぺんします。ロアーネは私のお尻を撫でてきます。
りんごジャムが爆発しました。
リアのおならって言ったら怒られました。
早く帰ってこないと、シリアナはパパのことを忘れそうです。
ティアラ
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ティアラよ。
本当に君が書いたのかと、私は驚いた。
君は忘れているようだけど、やはり君は貴族の出のようだ。
君の言葉や仕草はこの国のものとは異なるけれど、小さい頃から教育がされたものだね。
記憶を取り戻したら、君の国のことを教えてほしい。
さて君は変な遊びや嘘をつくようだね。
あまりみんなを困らせてはいけないよ。
リアやロアーネ様の言うことをよく聞くように。
パパはティアラのお守りを見て君のことを思い出しているよ。
ティアラが忘れないように、部屋にパパの肖像画を飾るように言っておくよ。
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月の女神も新しい衣へ。
花の神の悲しみも溶け、雪巨人は転がり大地の神へと還りました。
私は六歳になったようです。洗礼の時に五歳だったようですね。
私は言葉を沢山覚えました。
最初のむずかしい挨拶は、ロアーネが教えてくれました。
ロアーネは、エイジス教のえらい人なのに、あまり教えてくれません。私にはまだ早いと言います。
もっと沢山言葉を覚えないと、わからないって。
ロアーネも私のことを沢山聞きたいって言ってます。
私が太陽の国から来たって言ったら、太陽の国を教えてほしいと言われました。
だけどそれはむずかしいのです。
最近困ったことがあります。ロアーネと一緒にパパと相談したいです。
早く帰ってきてね。
パパの愛しの娘の一人 ティアラより
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ティアラよ。
凍りついた月の涙はすっかり流れ消え、山の帽子を残す限りになったね。
私も太陽の国のことを早く聞きたいよ。
短くてすまない。今すでに帰り支度をしているところなんだ。
この手紙が届いたすぐに私も着くだろう。
会っていっぱい話そう。
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パパが旅立ってから一年が経った。おっとうっかり死んだみたいな言い回しになってしまった。
パパはお守りのおかげで今も無事だ。手紙によるとそろそろ帰ってくるらしい。手紙の時点ですでに帰る支度をしているとあった。
つまりそろそろ帰ってくる。
うずうず。
「うずうず」
「うずうず」
私とシリアナはうずうずしていた。近頃はお勉強も身に入っていない。
人形を使ったおままごとでの言葉と歴史の勉強でも、シリアナは馬に乗ったパパを登場させてみんな轢き殺してお城に帰ってきた。
そこへ私はフードを被った男を空から出現させた。
「ふぉっふぉっふぉっ。われは魔王アスフォートなり。パパをぶっ殺し、そしてわれも消えよう」
「だめー!」
「ぐえー!」
名乗りの途中だった魔王アスフォートは、空飛ぶ馬に乗ったパパの槍突貫であえなく撃墜された。
GM神である教師は頭を抱えた。
最近はずっとこんな感じなので、書き取りの授業が主になっている。パパへの手紙はその成果でもある。
国語は順調でまあ良いとする。
問題は算数だ。
シリアナを見ていると、子供の頭って思った以上にふにゃふにゃなんだなって感じる。大人とは脳みそが別物なのだろう。
例えばこんな問題がある。
同じ大きさのコップ二つに、同じ量の水を入れる。
それを違う形の、細長いコップと、太いコップに移し替える。
どちらの方が多いでしょう? と尋ねると、シリアナは水面が高い細長いコップを選んだ。
これはシリアナの頭がふにゃふにゃというわけではない。賢いタルトでも悩んだ末に、同じように細長いコップを選んだ。元のコップに戻すと、二人は揃って首を傾げた。
これは……幼女の振りをするのは無理だ。思考が違いすぎる。
勉強タイムが終わり部屋に戻った私は合法ロリに泣きついた。
「ロアーネどうしよう」
「そもそもティアラ様は出が普通ではないですし、神童になるしかないのではないかしら。神なんですし」
「ううー……リアー。ロアーネがいじめるー」
「リアにすぐ泣きつくのは止めなさい!」
私がリアのスカートに抱きつくと、リアはロアーネを「めっ」と叱った。
私はロアーネに「んべっ」と短い舌を出した。
ロアーネ曰く、「短くて小さくて憎たらしくて引っ張って伸ばしたくなる」とか。
「できるものはできるで仕方がないでしょう。ロアーネから教わったことにしなさいな」
「わかったロアーネありがと。すきーっ」
「ぎゅーっ」
「ぎゅーっ」
すっかり私は抱きつかれ慣れて、私も抱きつき慣れた。
私はロアーネやリアに、私が生まれる前の太陽の国の知識を持っていることを話していた。男だったということはロアーネにしか話していないが……。
転生の概念は私自身にもよくわからないし伝えることはできなかったが、魔法による知識の継承というものがこの世界にはあるらしく、そういう方向で理解してくれた。
そっちはまあ良いとして、問題は太陽の国から来た発言の方であった。
エイジス教では人は月の国から降りてくる。では太陽の国は何かというと、神の住まう国であった。天界だったかぁー!
つまりこの幼女、エイジス教の聖職者であるロアーネの目の前にして、「私は神の国から来た」と言いのけたのである。頭おかしいんじゃねえのこの幼女。わ、わちのせいじゃないもん……。ぷるぷる……。
貴族が森で拾ったとかいう幼女が「私は神だ」とか言い出したら、そりゃ監視もするわ。
今では添い寝する仲である。あ、秋頃からちょっと布団が冷たくてだな……つい……。
「あ、でも結局数を数える言葉を覚えないといけないよね」
「うげー」
そうだった。計算法がわかっても、数字に付随する言葉を覚えなければならぬ。算数の時間はサボれると思ったのに。
ふと、外が騒がしくなった。パパが帰ってきたのかな!?
窓から見えたのは、早駆け馬に乗った伝令だった。男の子を一人抱きかかえている。何者?
こそりとエントランスの様子を覗き見する。
「帰路の途中、アスフォートと接触し戦闘となりました」
なんですと!?
アスフォートってまさか魔王アスフォート!? なんでパパが本当に襲われてるの!? どゆこと!?
伝令が連れてきた男の子の胸元がキラリと紫色に輝いた。
パパにあげたお守りをその子が付けているんですけど!? どゆこと!?




