118話:戦争の火種
ベイリア帝国の南部であるヴァイギナル帝国が独立するとか言い出して、またきな臭くなりはじめた。
それはともかく大豆である。
私はベッドで男の娘を思う存分堪能したあと、のんびりお昼寝をした。夏だけどこの辺りは涼しいので抱きまくらがあるとちょうど良い。ベイリアの軍服が厚手でかっちりしてるのも気候のせいなのかな。
「そうだ、これを返さなきゃ。もう無くしちゃだめだよ」
私は百合の虹魔法結晶花のアクセサリをリルフィに手渡した。
「姉さまが取り返してくださったのですか!?」
ふふん。まあ色々とあったのだ。手紙には書けなかったけどね。検閲あるし。
しかしやはりこれは魔術師に奪われたのか。許せん! 犯人は殺す! もう死んでるんだった。
リルフィが言うには、学校の式典に付けていった時に奪われたらしい。フロレンシア家の護衛をかいくぐって強奪するとは凄え奴だな。まあ、森の中でゾンビー軍団にやられたようだけど。
「しかしそうすると、奴らの目的は一体……?」
「お金が欲しかったからではないですか? これ、凄く値打ちがあるものみたいですし……」
盗んだはいいけど高すぎるものゆえ、売れなかったとか? しかし、その後に危険なベイリア東部の森へ逃げ込み殺された理由が……。逃亡といってもそんなとこ逃げても意味ないし。
『あったじゃないですか。ロアーネたちとノノンを引き会わせましたよ』
え? 漆黒幼女と何か関係が?
『殺し合いしたことを忘れたのですか?』
したっけ……。何かじゃれあってただけな気がするけど……。あまりにもぽんこつ幼女過ぎて毒気抜かれたというか、ロアーネと同類だったというか。
『ティアラ様の同類でしたね』
ポアーネの白い身体をもにゅもにゅと揉みしだいて引き伸ばす。
いやいやそんな話はいい。それはともかく、大豆を広める計画をしなくては。
『ダイズって東洋の豆でしょう? 豆なら他にいくらでもあるじゃないですか』
「ダイズっていう豆はそんなに凄いのですか?」
凄いんだよ。茹でて塩をかけるだけで美味い。乾燥させれば保存もできる。ヤフンでは大豆から加工した調味料を何にでもぶっかける大豆依存症ばかりだ。ヤフン人は足りない動物性タンパク質を大豆の植物性タンパク質で補っている。
『なるほど。肉の代わりに豆を固めて食す国の話を聞いたことがありますね』
え? 大豆ハンバーグは未来の話だと思うけど、この世界ではもう代替肉にでもなってるの!?
「だけど、そのダイズという豆を食べたら胸が大きくなるのでしたら、その国の人はみんな胸が大きいのですね」
は!? 私はここで誤ちに気付いた。ヤフン、前の世界の日本では世界有数のペタンコ大国であった。やはりそれは戦後の食糧事情が大きく影響したのであろう。胸が大きい男もそんなに多くなかった。つまり、大豆で巨乳化はガセということになる。
そんなバカな! まだ計画は何も始まっていないのだぞ!
『始まる前に気付いて良かったじゃあないですか』
いやだめだ。私の口の中はすでに枝豆……若い大豆を茹でたものとビールの口になっている。ビール大国のベイリアなら枝豆は確実に広まるはずなのだ!
「話を聞いてると、大豆は凄い豆に聞こえます。なぜこの辺りでは広まっていないのでしょうね」
はっ!? そういえば……。まさか、大豆はこの辺りでは育たない……? そんなばかな……。私はこの世界に絶望した。
『もうヤフンに行って好きなだけ食べればいいじやないですか』
それだ! よし!
「ヤフン国って凄く遠いですよね? 行けるのですか?」
行けるさ! どこにだってな!
『乗り物酔いは?』
無理だ……。船旅とか地獄すぎる……。
「空の旅はどうでしょう!?」
空だと!? もうあるのか旅客機が!?
「気球を大きくした飛行船というのがあるみたいですよ!」
なんだと!? 飛行船……飛行船かぁ。なんか海から行くのと大して変わらないような……。
ベッドでごろごろしていたら、翼ライオンのにゃんこがうにゃーんとベッドに飛び乗ってきた。ぐえー!
侍女ルアがやってきて、にゃんこをごろりと転がしお腹を撫でた。あ、ずるいぞ!
「大豆って、一年前に魔法学校で話していたお豆さんですかっ?」
む? 話してたっけ?
あ、そういえばヤフン人いたな! ゴンゾー!
「ええと、確か転送されてきた手紙がこの辺に……。はいっ!」
うん? ルアは後で読むボックスの下の方から封筒を取り出した。開封済みのそれを改めて読んでみると、私が大豆製品を欲しがった事でゴンゾーが大豆の普及を試み、文化祭の時に大豆の話をした筋肉魔法研究部が後押しし、農園を作っていた白衣お姉さんが協力したことによって、オルバスタの平野にて大豆栽培を試みる計画が進んでいた。
「もう始まってるー!?」
私がやろうと思ってたのに!
「あ、でもここほら、庭の白百合を育てていた所ですよっ」
「ということは?」
「お嬢様の魔力でお花畑になっていた土地ですねっ」
私の豊穣魔法(偶然&漏らした魔力を拡散しただけ)の土地が勝手に利用されてる!
まあいいか。それで大豆が食べられるなら。
いや待てよ……。
「ということは、枝豆の季節……」
いや、私の魔力の土地だとすでに育ち過ぎているかもしれない! これは急がねば!
ぴょいんこと私はベッドから飛び降りた。
「そんなに慌てておトイレですかっ?」
「おちっこじゃないし」
でも言われるとしたくなってきたから、リルフィ連れて連れションしよう。女の子同士は手をつないで連れションへ行くものなんだ。そう学校で習った。
ふう。で。
「私が食べたい大豆の食べ方の一つは、未成熟の大豆を茹でて塩をかけたものなのだ!」
つまり枝豆はロリショタ大豆なのである。
『例えが最低ですね』
未成熟の大豆を収穫させて送らせなければ!
わちゃわちゃと手紙を用意する私の手を、リルフィは掴んだ。きゅっ。
「待ってください。今はヴァイギナル王国との関係がこじれて、列車が止まっています!」
な、なんだと……? 何してんのルアパパ?
「枝豆のためならルアパパとの戦争も辞さない……」
すでに私の頭の中は枝豆をぽいぽい抓んで口に放り込み、ビールをきゅーっとすることでいっぱいなのだ。
『子供はビール飲んではいけませんが』
大丈夫だ。魂はおっさんだからな。おっさんじゃなかったらビールなんて苦いだけの麦汁なんか飲みたいと思わんからな。ビールを飲みたいと思う時点で大人なのだ。
「よし。滅ぼすかヴァイギナル」
「だめですよっ!」
ぽよん。おっぱいが頭に乗ってきたので私は全てを諦めることにした。
「あの、行くだけなら直接行けば良いのではないですか?」
ん? だからいま行けないっていう話をしていたのだが。やはりリルフィと言えど八歳児であったか。
「姉さまだけでしたら、にゃんこに乗っていけばすぐではないですか?」
『ぬーん』
にゃんこが私の脚に額をこすりつけてきた。猫の目の上にはフェロモンが出るためかゆいらしい。そしてこすりつけて俺のものマーキングをするのだ。猫知識は置いといて。
「もしやリルフィは天才なのでは」
「そんな、姉さまの方がすごいですよ! 僕もお手伝いできるように勉強がんばります!」
にこー。にぱー。えへへへ。
リルフィの長いプラチナブロンドを撫でくりしようとしたけれど、手がインクで汚れていた。危ない。黒髪にしたら今度はリルフィが漆黒幼女とキャラかぶりしてまう。
「呼んだ?」
「呼んでないけど……」
ベッドのシーツに黒く丸い沼が出来たと思ったら、ノノンがにょっきり顔を出した。
私はぐいぐいと手で押し返した。
「やめて」
ひゅぽんと出てきてしまったので、仕方なくベッドに座らせた。
「ええと、この黒い子がリルフィの髪飾りを取り返してくれたの」
「そうなのですか!? ありがとうございます!」
「うん。うん」
漆黒幼女はリルフィに手を伸ばし、ベッドに引きずり込んだ。
てめえ、戦争だ!
※にゃんこに乗って長旅は無理だよ?の部分がその直後の展開と齟齬を起こして頭がおかしくなっていたので一部削除修正




