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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【5章】宿命のライバル編(10歳春~)
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101話:青の街

 夢を観た。若い頃の、学生時代の時の夢だ。俺は知らない女子生徒と何でもない会話をしていた。どうやら俺はその女子に気があるらしい。俺たちは良い雰囲気でアイスを食べていたけれども、名も知らない間柄だった。俺はその娘に語り出す。学生時代の嫌な思い出。なぜそんな事を話しているのかわからないが、誰かに胸の内を聞いて欲しかったのだと思う。思い出すたびに胸が締め付けられ、脳みそが記憶の金庫を沈めたままにしろと叫ぶ。痛い記憶だけど、それもすでに思い出に感じてしまうほどに遠くなっていた。手にしたアイスは溶け出して、記憶も世界も溶け出して、気が付くと目の前からその娘は消えていた。

 全く関係ないけど思い出したことがある。同じ部活だったロリ顔ロリ体型の、俺の姿を見かけるといつも手を振ってくれた子、可愛かったなあと。しかしその姿は俺の知る姿ではなく、クソ生意気な合法ロリへと変わり、さらにそれは白い毛玉と変わる。

 ぽぽたろー!

 がたんと揺れて意識が覚醒する。列車の中。そしてここは女の子の太ももの中らしい。ああ、やっちまった。社会的に死んだわ私。さてどうやって謝ってごまかそうかと思案する。とりあえず埋めた顔を起こそうとするが、頭を起こすことができない。太ももに猛烈な魔力を感じて離れられない。柔らかい女の子の太ももはとても懐かしい香りがする。


「まだ寝てて平気ですよーっ」


 ゆ、許された……。それどころか女の子は私の髪を撫でた。そしてぼんやりした意識の中、私は女の子の太ももに顔を埋めても許される存在になったことを思い出した。この太ももはルアの脚だし、頭にはロアーネの魂が入り込んだぽぽたろうが乗っていた。

 知らない女子生徒は誰だったのだろう。



 エイジス暦1701年。春。

 私たちはベイリア首都リンディロンに降り立った。

 駅のホームではひと目見て「私と相容れないだろうな」と感じるいけ好かない男が待っていた。厚手の生地でだぼっとしていて洗練されていないが軍服なのだろう。

 彼は右手を耳に当て、電話をかけるかのような敬礼をし、ハスキーボイスで自己紹介をした。


「アルダナスコ・エンコロモ・マンクエラスだ。本日よりお前の護衛と監視を務める」


 マルクエラスが階級だろうか。偉そうだけど青年だからきっと大して偉くないはず。ふんふん。

 私は爵位や階級でいったらぷにぷに幼女だ。ぷにぷに幼女の方が偉いはずである。むふん。

 私が仁王立ちでふんすとしていたら、ルアが勝手に私のことを紹介し始めた。我こそがティアラ・フロレンシア・精霊姫(エスレアルプニ)なのじゃ。


「ふん。本当に翼ライオン(ドルゴン)を従えているのか。リボンなぞ付けているが」


 いけすかお兄さんがにゃんこのたてがみのリボンに手を伸ばした。にゃんこは「がう」と牙を剥いた。


「しつけのなっていない猫だな。そんなでは街に連れていけん」


 いけすかお兄さんが白手袋したままパチンと指を鳴らすように動かしたと思ったら、氷の檻が現れてにゃんこが閉じ込められた。

 にゃんこはびくんと驚き怯え、姿勢を低くししっぽをピンとおっ立てた。

 おーかっけー。私はぱちぱちと手を叩いた。氷の檻をぺちぺち叩いたけどびくともしない。こういう魔法を魔法学校で教えてくれたらよかったのになぁ。いや基礎しか習ってないだけなんだけど。そもそも属性魔法が使えないけど。


「ナスナスー! 私も檻に入れて!」

「ふん」


 いけすかお兄さんが再びパチンとすると、ずおんと氷の檻が生えた。一瞬である。しゅげー。


「ルアー! 捕まったー!」

「もーっ。なにしてるんですかーっ」


 いけすかお兄さんは腕を組み檻の中の私を見下ろした。


「妙な真似をしたら今のように檻に入れる。わかったか。お前は大人しく俺の言うことを聞けばいい。そうすれば痛い目には遭わん」

「りょ」


 お兄さんが両手をグーに握りしめると、氷の檻にぴきりとひびが入り、粉になって消え失せた。

 頭の上のポアーネが白毛玉のポアポアの身体をむにむにと揺らした。ポアーネは私の帽子となっている。さらにその上にはウニ助が刺さっており、妙なうにうにボンボンポアポア帽子だ。


『ロアーネもあのくらいできます』

『なに対抗意識してんの』


 にゃんこは『あいつ食ってもいいか』という視線を向けてくるが『あとでね』と言っておく。にゃんこはじゅるりとよだれを垂らした。

 ぽてぽてといけすかお兄さんの後を付いていくと、銀色のピカピカオープンカーが駅前広場におかれていた。オープンカーといっても昭和のスポーツカー風ではなく、馬車の幌がない四角い豆腐みたいなネコラル車だけど。

 いけすかお兄さんが運転席に乗り込み、ネコラルオープンカーはくぁんくぁんと甲高い金属音を奏でて、ケツからぷしゅうと碧い蒸気を吹いた。私たちは後部座席に乗り込んだ。にゃんこの重みでぎぎぎとフレームが軋んだ。

 乗り心地は椅子に座っているところを後ろから蹴られ続ける感じであったが、耐えられないほどではない。魔物素材の紺色のシートがお尻に痣を作るのを防いでくれそうだ。

 リンディロンの大通りは混沌としていた。中央のレールを小型のネコラル列車が走り、車線も交通ルールのない道を縦横無尽に猫人(ヌルポ)力車と馬車とネコラル車が交差する。

 そしてリンディロンの街並みはなんというか、青かった。

 クリトリヒの首都を超える都会の街並みは、四階はある建物が立ち並び、屋根の煙突からもくもくと碧い煙を吹き出している。その碧い煙が霧のように街を覆い、緯度のせいでただでさえ弱い日光がさらに弱まり薄暗くぼんやりした世界を作り出していた。そしてネコラルから発せられた大気中の碧い魔力が空にゆらめき煌めく。その様子は例えるなら人魚の国。機械都市と噂されていたベイリアの首都は水中の街のようだった。

 しかしこのネコラルスモッグ、身体に害はないのだろうか。


『ふぅむ。大気の魔力は濃くなっていますが、ポアポアの身体なので心地いいですね』

『身も心も人外になってる……』


 合法白毛玉はもうだめかもしれん。

 碧い煙は塵となって降ってくるようで、待ち行く人は日傘を差している。塵が積もり、頭を蒼くキラキラ輝かせている者もいる。なんかこの環境なら私の虹色の髪のキラキラもそんなに目立たなそうだ。



 車は建てたてほやほやの新築の屋敷に停まり、「ここだ」と私たちは降ろされた。

 いけすかお兄さんの後に付き、敷地に入る。庭師を雇っていないのか、花壇にはただ雑草がもさもさ葉を伸ばしていた。

 いけすかお兄さんが屋敷の戸をだんだんと打ち鳴らすが、中から反応がない。私とルアが顔を見合わせていると、いけすかお兄さんが勝手に扉を開き、ずかずかと入っていってしまった。私は慌てて彼を追いかける。……にゃんこも付いてきちゃったけどいいのかな。


 いけすかお兄さんは屋敷の中のメイドを無視するかのように進み、迷わず一室に向かう。戸をノックするが反応はなく、メイドが止めるのを無視して扉を開く。

 部屋の中は本と紙が雑然と散らばっていた。積み重なれた分厚い本は絶妙なバランスでタワーを築き、どこか触ろうとしたらドミノ倒しのように全てが崩れて散乱しそうな状態だった。

 メモ書きのような床の紙を踏んですってんころりんしないように気をつけながら、いけすかお兄さんを追いかけて部屋の奥へ進むと、白髪のもじゃもじゃが椅子に座り、ペンを走らせる音を立てていた。彼がこの部屋の主なのであろう。


「博士。オルビリアの精霊姫を連れてきたぞ」

「んんー?」


 博士と呼ばれた白いもじゃもじゃは、いま私たちに気づいたようで、頭をがしがしと掻きながら振り返った。ふむ。顔も白いヒゲと眉毛がもじゃもじゃで、なんか鼻もぷっくりした団子っ鼻でまさしく博士な風貌だ。


「君が精霊姫か。逢いたかったぞ」


 博士はインクまみれの手で私の手をぎゅむりと握って上下にぶんぶんと振った。

 さらに腕を大きく広げ、私の身体を抱きしめた。このジジイロリコンか!? 臭い。


「誰このジジイ。臭い」

「なんじゃと!? 口が悪いのはアルト似かね」


 あると?

 私の頭の上のポアーネがぷるるんと震えた。


『このジジイ、オルバスタ侯爵の父ですよ』

『ぬ?』


 ということは、この人が父方のおじいちゃん!?


「ふむ。アルトの娘にしてはあれに似とらんな。じゃが儂に似とる。ほら、目元とかそっくりじゃろうほれ」


 いけすかお兄さんは「知りません」とクールに答えた。

 まあ似てるわけないんだけどね。血が繋がってないし。泉から生まれた尿漏れ娘なので。


「おじいちゃんなの?」

「そうじゃぞ精霊姫! ささ、こっちへおいで」

「口臭い」


 おじいちゃんは私の手を引き、奥の部屋へ連れ込んだ。そして床の扉を跳ね上げると、地下室への隠し階段が現れた。おじいちゃんは光魔法で地下室を照らし、カビ臭い地下を進む。


「精霊姫に手伝って欲しいことがあっての。これを見とくれ」


 おじいちゃんは中が蒼くチカチカ光るフラスコを手にとって私に見せた。


「儂の研究の人造(ドルクル)精霊(エスレアル)じゃ」


 私のおじいちゃんはなんか、マッドサイエンティストなおじいちゃんだったー!?

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の若い頃の一人称は「俺」。割と男っぽいその辺の男の子だったのですね。 てっきりどこぞの親友♂に恋するお尻が大好きで天使な合法ロリ男の娘みたいに、小さい頃からようじょっぽい性格をしていた…
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