3話 椎名梨花は今頃気づく。
「梨花!これ可愛いね!」
「駄目だよお兄ちゃん、お小遣いなくなっちゃう。」
「うーん、でも…そうだよねぇ…うーん…」
強くなると決意して、5年が経ちまして。
私、椎名梨花は家族でお出かけ中でございまして。
可愛らしく飾られたクマのテディベア。飾られているショーケースを見ている義兄は可愛らしく首を傾げている。
家族が一致団結して義兄を守り、お姫様扱い…とまではいかないけども、守ってあげるからオーラで義兄を見守り続けた結果…!
「梨花はどう思う?」
ショタ義兄をそのまま成長したかのような、可愛い義兄に成長中でございますっ!!!
やばい、この笑顔守りたいいいい…!!
ある意味凶器、別の意味で私の方が昇天しそうなこの愛らしさ…!!我が義兄ながらおそるべし!!!
ここまできたらもう、俺様何様響様とはさよならじゃない!?
漫画にあった「中学時代の素っ気ない態度」もなく、我が義兄は私を見守り続け、NOT恋愛の優しいお義兄ちゃんへとランクアップですよー!!
育成成功!!ぱんぱかぱーん!椎名響は優しいお義兄ちゃんへと成長した!!
でも俺様何様響様に成長するトリガーってなんだったんだろう。
義兄を守って優しい義兄へと進化したんだから、その逆だったんかなあ
私が、義兄に守られてて、ってことなんかな。その辺りもうちょっと詳しく連載して欲しかったけどないものねだりしてもしょうがない。
大事なのは……
これで、ようやく私の平穏な日常が!!椎名梨花としての平凡で平穏な生活が送れるというもの!!
バイバイ修羅場!!バイバイ面倒くさい恋愛模様!!いらっしゃい平穏な日常ーーーーー!!!
(ちなみに幼少期時代の敬語口調は止めました。流石に家族にはね)
「でもこんな大きいの置く場所ないんじゃない?小さいのなら、ほら、あっちにあるよ」
「あ、本当だ!見に行ってみよう!」
そんなにこにこ笑う義兄の姿を見て黄色い悲鳴を上げる人なんてもういない。
義兄の姿は黒髪に、黒い瞳に伊達眼鏡。
とりあえず目立つ金髪と藍い瞳を隠せばいいのではないかということで、黒のウィッグ(なるべく前髪が長いやつ)を付けて、黒のコンタクトで隠す。さらに伊達眼鏡をつければどこにでもいる普通の男の子の完成です!!
―――なんで今まで気づかなかったんだろう!?うちの親は天然か!
…今更気づいた私も私なんだけど。
本当にな!?なんですぐに気づかなかったの私!?!?
今までのことが嘘のように平和になったんですよ!?!?
変装すごっ!!!
…つまり、みんな、義兄の王子様的な容姿にコロッとやられてたということだ。
所詮そんなものなのだ。
そして私は今では護身術を習っている。
剣道は怪我をするからダメ、空手もダメ、柔道もダメ…というわけで、自分の身を守るのなら護身術なら、というわけで、ママンの身内の方に協力を頂きまして、護身術を習っております。
お母さんの身内は合気道の師範だけれど護身術も教えられるというので、教えてもらっているのだ。
まあ、あくまでも正当防衛でね。こっちから手を出すと不利になっちゃうからね。
あくまでも私は義兄に手を出した人たちがいたらその力を発揮するとかいう感じ。
今まで何人もの誘拐犯やストーカーを撃退したことか…もうすっかり義兄の後ろに待機する癖がついちゃった。
私より本気出した我が両親の方が強かったけど…我が子を守る親はつよい。(二人の背中には龍が見える)
これがファンタジー世界だったらなあ…義兄に結界やら守りアイテムやら色々装備させまくって守らせることもできたのに。
そこがネックだよねぇ、現代世界だとそんなものないもん。
「響、梨花。そろそろ帰りましょうー!?」
「夕飯は外でBBQでもしようか!」
傍でお母さんとお父さんの声がする。
「はーい!梨花、行こう?」
「はーいっ」
買い物袋を持った義兄の手を引いて、私たちは車が止めてある外の駐車場に戻った。
…その時だった。
「こっちにこいっ!おとなしくしやがれ!!」
「嫌ですわ!!離しなさいなっ!汚れた手でゆかりの手を握らないでください!!」
「私はどうなっても構いません!アリスだけは見逃してください!!」
「二人揃って価値があるんだよ!!いいからこいっ!!」
金髪の長い髪をした少女と、黒い長い髪をした着物の少女が黒いガタイのいい男に誘拐されかけていた。
周りの人たちは気が付いていない。人が多すぎるし車の音もある、少女の叫び声がかき消されている。
二人とも上等な服を身にまとっていたことから何処かしらのお偉いさんのご令嬢か。
…このままでは二人とも、連れてかれてしまう。
こんな光景はたくさん見てきた。義兄は誘拐されかけて、助けて、また誘拐されかけて、助けて。
何度も義兄はごめんねって、迷惑ばかりかけてごめんね、って。泣いていたこともあった。
でも気にしないでって何度も言った。
大切な家族がどこぞの誰とも分からないような輩にさらわれようとしているんだから!
助けるのは当然!何度だって助けるって!!
つまり、こんなの見たら
ほっておけるわけ、ないでしょうがーーーーーっ!!!
気が付いたら私は。
全速力で走って。
誘拐犯の背後に回って。
「せぇええのぉおおっ!!」
「うおおおおおおおっっっっ!?!?!?」
と掴んでぐるっと一本背負い投げっーーーーー!!!
「な、なんだこのクソガキ!?!?」
私に気づいて相手が拳銃を構えようとしたとき。
「――はい、ここまでですよ」
「警察も呼んだし警備員がすぐに駆け付ける。無駄な抵抗は止めることだね」
母が相手の手から拳銃をはじいて、その隙に父が男たちを拘束し、にこりとわらっていたのでした。
(義兄はその間警備員さんと避難してました)
なんかもうウチの両親チームワークよすぎいいいっ!!
解放された二人の少女はフルスピード解決に唖然としていたけれども…。
その後、駆けつけた警察官に連れていかれた誘拐犯たち。
「いやーははは、流石椎名家。手慣れたものですねぇははは」
「そんなことはないよ。当たり前のことをしているんだしふふふ」
「それほどでもないですわ、本職にはかないませんものおほほ」
お決まりな会話を警備員と両親はしておりました
その警備員さんは知り合いです、はい、義兄誘拐未遂の時にお世話になりました警備員さんです。
一般人となんでそんな会話に!?と驚かれている人たちもいるんですけど、ウチではこれが普通なんです、うん。
そして、黒服の方々がゴージャスな貴婦人たちを引き連れて慌てて駆け寄ってきました。
「お嬢様あああああ!!!」
「アリスーーー!!!」
「ゆかりーーー!!!」
母親と涙の再会。慌てて探した感が凄いあるから、おそらく目を離したすきに連れてかれてしまったんだろう。
二人の少女たちが簡単に説明し、私たちに振り返った。
「本当にありがとうございましたっ!このお礼は必ずさせて頂きます!お望みのものなら何でも!!」
「現金なら小切手でこの場で!宝石や高価なブランドものならすぐにでも全部買い占めさせて頂きます!!」
母親二人がめちゃくちゃ必死で頭を下げている。
でも我が家の両親は…
「お礼は結構です。僕たちは別にお礼が欲しかったわけじゃないですし」
「そうですよ。子どもを持つ同じ親同士。当たり前のことをしただけですわ。
それにお礼をいうならウチの娘に。この子が最初に見つけたのですから」
ですよね、そうですよね。
義兄を守るために団結した我が家なので、お礼何ていらないんです。むしろスルーする方が無理なんですから。
…って!私を前に押し出した母。まてぇい!!私かいっ!?
「ふうん、貴方が…。ではお礼は何がいいかしら?なんでも言っていいのよ。むしろ天下一の羽咲家のご令嬢を助けたのですから!」
「ええ。江戸時代から続く名家、橘家のご令嬢である私の命を救ったのです。貴方にはそれ相当の褒美を与えなければなりません」
えへんと胸を張る高価な洋服を着た金髪ロングの少女と、礼儀正しくをお辞儀をしながらも扇で口元を隠す黒髪の和服少女。
お、お礼、ねぇ…うーむ…両親に助けを求めるようにちらっと横目を見たら…
「ぜひお礼を!お礼をさせてくださいませぇえええ!!!」
「そうですわ!!土地でも最高級の車でもなんでもおおお!!」
「「だからいらないって言ってますからあああ!!!」」
そのご令嬢たちの親たちによるお礼したい攻撃にあっていた。
向こうは大切な娘を救ってくれたからそれ相当のお礼を…と思ってるからなあ…。
…あ、それでママン私を前に出したの!?娘が断ればいいって話!?まじかよ!?!?
………ママンの目が「あとは頼んだわよ梨花ちゃんっ!」って言ってるし…ええー…。
警備員に保護されている義兄は首を傾げてた。訳が分からないよね、うん、そうだよね、ごめん義兄。帰ったら説明するから!
うーん、適当に何か言う?お菓子とかならまだいいか…だめだ。金持ちは店ごと買い占めそうだし。
突然言われてもなあ……
「…あの、別に私、お礼とか欲しくて助けたわけじゃないんです。」
「なんでですの!?今までの方は、お礼をするといえば態度が変わったかのように大喜びしますのに!?」
「そうです!!今までの方は欲望に満ち溢れ汚らわしいほどに態度を変えて忠実になったというのに!?」
あ、なるほど。困っている金持ち令嬢を助けてお礼をワザと貰う、金持ちあるあるだと思っているようだ。
親の方はそうは思ってないだろうけど(世間知らずそうだし)娘の方は世間知らずというわけじゃなさそうだし、大方面倒くさいので、お礼を渡してさっさとこの場から立ち去りたい一心なんだろう。
助けてくれたことはありがたいですけど…と『お礼あげるから関わらないでオーラ』が凄いし。
お嬢様もお嬢様で苦労してるんだろうなって思う。
こうやって思うのも、中身がアラサーだからなのかもしれないなあ。
だから、言った。
ハッキリと。
「ほっておけなかったから助けたの!!だって怖いじゃない!!泣きたくなるぐらい怖い目に遭ってるのに無視なんで出来るか!!
だからお礼はいらないの!!私にとっては当然のことをしただけだから!!」
当然のことをしただけだからね!?マジで!?
こちとりゃ義兄を助けまくってるからね!!だからこそほっておけるわけないでしょう!!
…そうしたら、二人のご令嬢は。
「「……(ぽかん)」」
ぽかんとしていた。
その隙に。
「ね!私たち当然のことをしたんだからお礼なんていらないよ!ね、お父さん、お母さん!」
警備員と一緒にいた義兄の手を掴み、両親の元へ駆け寄って。
この場から立ち去る状況を作る。両親はお互いにかすかに頷いて
「ええ、娘の言うとおりです。私たちは当然のことをしたまでなので。」
「では我が家はこれから夕飯にしますので、それではこの辺りで!!」
両親は静かに距離を取り、にこっとぺこり。お辞儀をして、立ち去っていく。
二人のご令嬢たちの母親ズは唖然としたままその場から動かなかったけれども。
「…お待ちになって!!そこの貴方、お名前は!?お名前はなんですの!?」
「せめて名前を…教えてくださいっ!」
二人のご令嬢がそういうので。
「梨花、椎名梨花!よろしくねっ!!」
―――今度こそ家に向かって帰るのだった。
「お腹空いた……」
両親がBBQの準備をする中で、私と義兄は縁側で座っている。
あああ~~~……どっと疲れたあああ……。
なんか脱力した猫のようになってるけど、気にしない。ぐてぇえええええする気分です。
「BBQにして正解だったねぇ。にしても梨花、よく気が付いたね。僕、全然わからなかったよ」
「まあ、ね…」
苦笑しながら義兄が問いかける。
そのあと、置いてけぼりだった義兄に説明をしたら「本当に無事でよかったっ…!!」と安心のため息。
そのあとに「危ないから今後はしないでね?何か気づいたら僕に言うこと(にっこり)」と言われた。
そういえばあのご令嬢の二人…漫画では見かけなかったような気が…。
登場人物にもそんな二人出てこないし…もしかして名前だけのモブ…!?
いや、そんなゴージャスなモブなんていない(真顔)
設定資料集、ドラマCD、外伝…いたかな~~~…ゴージャスな登場人物だったら記憶にあると思うんだけど…。
「…梨花、ごめんね。いつも迷惑かけているね」
「え!?急にどうしたのお兄ちゃん」
「だって僕が何度も誘拐されかけているせいで…」
「別にいいってそんなの!変装したらストーカーもいなくなって誘拐に遭うこともなくなったしいいじゃない!」
「……せめて家の中でなら外してもいいんじゃ……」
「だめだからね(にっこり)やっと普通に高校にも通えるようになったんだから。私が年中無休いるわけにはいかないしどうしたものかと思ったけど、金髪と藍目だけ隠せば案外どうにかなるもんだしさ」
「結局、所詮はそういうものだよね」
義兄が悲しそうな顔で笑う。
気持ちは分からんでもない。だって頭の可笑しいキチガイな女たちはつまり、義兄の容姿にホイホイされていった。
性格なんて知りもせず、知り合おうとせず、精巧なフィギュアのごとく手元に置いて観察したいだけなのかもしれない。
容姿さえ隠してしまえばなんてことはない。
いや、本当に、今更そこに気づいた私は一体って思うけど。
でも、これなら最速良い感じにいけるのではなかろうか。
俺様何様響様に成長しない!普通の優しい感じのお義兄ちゃん!!
うんうん、これで私の平穏な日常は手にしたのもどうぜ………。
「―――梨花」
「…はい?」
真剣なまなざしで義兄が見つめる。
「僕は梨花さえいればいい、僕は梨花しかいらない。……梨花は僕の傍から離れないよね?」
…………。
思考が止まった。
………このセリフは、覚えがある。
というか、思 い 出 し た。
『俺は梨花さえいればいい。お前しかいらない。お前は俺から離れていかねぇよな…?』
漫画の、響の、セリフ。
監禁エピソード回のセリフだ。
怯えた梨花を客間のベッドに押し倒して手を拘束して、囁くのだ。
………ずっと、俺様何様響様に成長しなければ、ショタのままの性格で成長すれば回避されるものと思ってた。
それをずっと回避するために、お姫様よろしく的な感じで義兄を守っていたけど。
……………もしかして。
俺様な性格じゃなくても、フラグに突入する感じ……?
うそでしょおおおおおおおおおおおおお!?
梨花は今更気づきました。
確かに俺様な性格ではなくなったけど、これはこれでタチが悪いのだと…。
椎名家両親は子どもガチ勢の親ばかです。子どもを守るためならチート化します。