1話 椎名梨花は思い出した。
初投稿になります。
よろしくお願いいたします!
私は、思い出した。
ここが、私が、死ぬ直前まで「読んでいた」少女漫画であるということ。
そして私は、この少女漫画の主人公「椎名梨花」に転生しているということ。
よりによって、兄妹の禁断ものの、少女漫画の世界だと――!!
椎名梨花 10歳。
家族で公園へ遊びに行ったとき、転んで頭を打ちまして。
激痛と共に思い出したのは。
私は、佐倉陽菜。ごく普通の社会人だった。
一人暮らしをしているアパートで、明日休みだからと仕事から帰って早々ぐーたら。
その場にあった、昔買った少女漫画を読んでいたらインターフォンが鳴り…。
『はーい、どちらさまで』
『この泥棒ネコ!!私のタカシを返してっっ!!!』
と、突如刺された。
めちゃくちゃ腹いてぇえええと思いながら
「貴方のいう泥棒ネコというのは隣の部屋ですが…」と言ったような気がする。
そこから先は何も分からない。
意識が遠のく中、救急車の音や「違うの!違うのおおお!」という女の叫び声が聞こえた。
違うの、じゃねぇよ。オトコが住んでる部屋ぐらい把握しとけ!と思いながら。
ええ、私には、いっっさい非がないまま、突如人生が終わってしまった。
隣の部屋が修羅場だということは知ってはいたものの、私には関係がないと見ないふりをしていたのに!
まさかのまさかで、間違えられて刺されるとかこっちはこれっぽっちも思ってもみなかったわ!!
「りか、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶですよ、しんぱいしてくれてありがとうございます。おにいちゃん」
「…う、うん…?」
「梨花?本当に大丈夫かい?お医者さんに診てもらった方が…」
「これぐらいたいしたことありませんからだいじょうぶですよ、おとーさん」
「梨花がそういうなら…。今日はもう帰りましょうか。貴方、車を回して」
どうやら心配している家族の皆は首を傾げている様子だけれど。
…ハッ!!口調か!!しまった!!
家族に対して敬語使わない!中身別人だから混ざってもーた!!
ま、まあ、いいや。細かいことは。
車に乗せられて家に帰る中、私は思った。
にしても転生かー…。
転生と言えば、今流行りの悪役令嬢とか、チートで転生とか、こう、ファンタジーが多いけども。
各言う私も転生物が好きで読んでいたりするし、たいてい転生者って破滅フラグ回避のために動くもそれ以上のことが起きちゃってハーレムENDだったり下克上ENDだったりして、何かとすごかったりするんだよね。
私も正直な話、そっちがよかった!!
イケメンに囲まれてハーレムとか!!溺愛ENDとか!チート能力とか正直使いたかった!!!
少女漫画に転生して良いことといえば、前世の世界とほぼ同じだから生きやすいということか…。
ただ、それだけなら、私も多分、椎名梨花としての生を思う存分に堪能しようとだけ考えればよかった。
この少女漫画のジャンルは禁断愛!!!
義理の兄妹の愛を描く、少女漫画だからだ!!
どうして分かったかというと。
転んで頭を打って脳内で流れ込んできたのは、この風景。
これってどこかで見たことあるような気がしたんだけど…
少女漫画の第1巻の第1話のシーンなんだよね。
漫画だと転んで頭を打って泣いてる主人公にお兄ちゃんが抱きしめるっていうシーンなんだけども。
で、私を心配してずーーーっと手を握って見つめているこのイケメンショタがお兄ちゃん。
椎名響。主人公の義理の兄にして、恋のお相手だ。
私、つまり椎名梨花は両親の親友の娘。
本当の母親は私が小さいころに病で亡くなり、本当の父親は交通事故で亡くなった。
元々身体の弱かった実の母親は病院生活が長く、私が産まれても病院で入院生活であったそうな。
そんな私を面倒見ててくれてたのが今の両親。実の両親とは小学校からの幼馴染だそうで、私のことも実子と同様に可愛がってくれていた。
余命がないと悟った実の母親は私を親友に託したのだそう。
実の母親はその瞬間に容体が悪化。それを仕事先で聞いた実の父親は大慌てで車を走らせた結果トラックと正面衝突して…。
親友の忘れ形見となった私は、今の両親に引き取られ、養子となった。
実子と分け隔てなく大切にしてくれる今の両親が梨花は大好きだったし、優しいお兄ちゃんのことも大好きだった。
そんなお兄ちゃんはこんなに可愛かったのにだんだんとツンデレになり、高校に上がったころには素っ気なくなるのだが…。
高校の修学旅行でパスポートが必要になってその時に血が繋がっていないということが明らかになる。
それから義兄、響が急に態度を変えて、事あるごとに誘惑してくるのだ。
壁ドンや後ろから抱き着くはほんの序の口。
隙あらば脱がそうとしてくるわ、他の男子に話しかけると部屋に閉じ込めて襲おうとするわ、耳元で囁くわ、両親が出かけている隙に押し倒されるわで俺様何様響様である。
―――こんな可愛いショタがなんであんな俺様になったのかはいまだに謎のままなんですけどね…。
「響、梨花。ウチについたよ。梨花はベッドで寝ていること。」
「梨花、何かあったらすぐに言うのよ。痛いとか苦しいとか些細なことでもいいの。」
「はい、わかりました」
「りか、ならぼくも…」
「もうわけ、じゃなくて…ごめんなさい。ひとりでねたいのです」
「りか…」
「そうね。響、梨花を静かに寝かせてあげましょうね」
「しずかにしてるもん!だいじょうぶだもん!」
「わたしならだいじょうぶですから。おにいちゃん、めっですよ」
「りか…」
ごめんショタ義兄!!!
この子犬のイケメンオーラはやばい。マジでやばい!ショタながらのこれは、むじかくこわい。
私は猛ダッシュで駆け込み誰もいない部屋の中で自由帳と、鉛筆を取り出した。
とりあえずこの世界についてまとめないと。
この世界は「たった1つの愛を君に」という少女漫画。
イケメン意地悪ドS義兄に誘惑される主人公!どうなっちゃうのー!?…というコッテコテの、王道ストーリーである。
主人公「椎名梨花」は「義理とはいえ、私たち兄妹なのに…」と思うも、少女漫画よろしく展開で1巻の中盤で義兄に落とされる。そこからは様々な愛の試練というべきトラブルに巻き込まれ監禁ヤンデレと化した義兄に振り回されつつも最終的にはゴールインし、めでたしめでたし。という話。
買った当初、ドハマリして何回も読み返したからストーリーは頭の中に入っている。
だって作画が神なんだもん!超絶美形で美形描かせたらナンバーワンの漫画家さんなんよ…!
キャラクター投票で毎回1位を取り続けるイケメンたち。
そんなイケメンに毎日のように誘惑されるなんて最高だった。
一人暮らしをする際に持ってきていたけど、なんだかんだで読む暇もないまま過ぎちゃって、時間が空いて思い出したときに読んでたけど…。
この歳になって読むと、ツッコミどころ満載だよね。
犯罪一歩手前なことも普通にやってるし、教頭も校長も金積まれただろと言わんばかりの放置プレイ。
女性恐怖症になるんじゃないのっていうぐらい義兄はコワイ女たちに襲われまくりだし(次の話にはケロッとしてる義兄のメンタルどうなってんの)
学校が金持ちボーイに乗っ取られても次の次の次の話には何事もなかったかのように平穏を取り戻し、主人公は誘拐されまくりだけど警察も動かないし家族も心配のそぶりも見せない(学校帰りの感覚で出迎えてる親…)
とにかく色々な所でツッコミ満載。
買った当初では見えなかった違う見方で読んでしまっているので、ある意味楽しめるというかなんというかと…。
アレですよ、昔はキャー!イケメン兄に迫られる主人公素敵ー!って思ってたのが、この歳になって読むと、色々と思う所はあるよねって話。
長期連載だったけれど、1話1話が分かりやすいんだよね。この漫画。
…1巻の中間ぐらいで恋仲になる二人だけれど…現れるライバルが!!多いっ!!
面倒くさいほどに!!
これが1話1話分かりやすいわけだった。
大体の話がライバルが二人の邪魔をして、解決して、また新たなライバル登場…ということを繰り返していたからな…(遠い目)
主人公にめちゃくちゃ惚れている義兄は、容姿端麗成績優秀スポーツ万能と言ったまったく非の打ちどころがない男なので、ホの字の女子がわんさかいる。
つまり、そんな義兄とくっついた椎名梨花のライバル。
過激なファンクラブは当たり前で、若い女教師も響狙いで、たしか2巻辺りで現れる教育実習生も響をショタ時代から狙ってたとかいう生粋のド変態だった。
過激なファンクラブの子たちはイジメテンプレ宜しくな感じだったのだけど、大人は大人の権力や色々駆使してるので、ある意味厄介。よくもまあ、無事でいられたね響…
バレンタインデーの話とか修羅場過ぎて読んでるこっちがめんどくせぇとなったことか。
二人が愛で乗り越えてやっとライバルがいなくなったと思ったら、今度は響のライバルが出てくる。
こっちもこっちで厄介で、隣のお金持ち学園から御曹司が出てきて金の力ですべて解決。
犯罪者一歩手前までやるからタチが悪いのだ。
椎名梨花の容姿は響と比べると大したことはない。
ごく普通の一般的な容姿。黒髪のセミロングのハーフアップ、スタイルも平均だし、とびぬけて才能もないので、特徴がない特徴、普通オブ普通である。
…なんだけれどもね。
お金持ちぼっちゃんに好かれる体質でもあるのかと言いたいほどとにかく誘拐される椎名梨花。
よく警察沙汰にならないよね!?お金持ちだから!?金でもみ消してんの!?うわーこっわー!!
最終的には少女漫画展開でライバルたちと和解して「血がつながってないから結婚できるんじゃね?」と最終話の手前で響が気づき、見事ゴールインしてENDである。
気づくの遅いわ!!って正直な話思ったよ、うん。血がつながっていないんだから禁断もないんじゃないの??って思ったけど話が成り立たないからだよなって思ったよ。
私が言いたいことは1つ。
道中のトラブルが 面 倒 く さ い 。
折角だから椎名梨花としての青春を!!謳歌したいんですよ!!
だけれどもあんな面倒くさいのは嫌!!
多少なりとトラブルはつきもの!!それはまあ分かるけど!!
人生波あり谷あり、色々と起こるのはあるけど!!
でも、あんな昼ドラ修羅場誘拐三昧は嫌ですっ!!!
私があの義兄に惚れなければいいのではなかろうか。
今の私は少なくとも義兄のすべてを(ある意味)知っているので惚れる要素がどこにもない。
いくらイケメンでも!!いくら溺愛されても!!いくら誘惑されても!!未来を知ってるこちとりゃ無理なんです!!!
そう思うと、成長したあの義兄マジめんどうくせぇええええ(ギリィ)
せめて少女漫画の世界なら…面倒見がよくてNOT恋愛で家族を大切にしてくれる優しい義兄ならどんなによかっ………
……………それだっ!!!
今は何も知らないショタ義兄…今のショタ義兄をそのまま成長させればいけるのでは…?
でもあの純粋なショタ義兄がそのまま成長すると…別の意味で危なっかしくないか。
飢えに飢えた野獣たちの中に放り込むような感じがするし。
でも万が一俺様何様響様に成長したら私の貞操が…平和な日々が……。
―――そこで考えた結論は。
わたしが つよく なれば いいのでは。
そうすればショタ義兄がそのまま大きくなって別の意味で危なくなっても守れるし
俺様何様響様に成長しても、逆に返り討ちに出来そうだし。
ようし!そうときまれば!!
「なににしようかなー!けんどう?からて?ごしんじゅつはおぼえておきたいしー…
わたしの、かれいなる、へいおんなひびのために、やるぞー!!」
えいえいおー!!
前世の記憶を思い出した椎名梨花は意外と脳筋です。
イケメン兄と違って普通オブ普通の女の子