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将来の夢

作者: 池咲ゆき

 私には昔から苦手なものがあった。

 自身の将来の夢を語る授業だ。幼稚園、小学校、中学校いずれもこれに悩まされてきた。国語、図画工作、道徳、それぞれの学びは嫌いじゃないが、自己表現として、将来の夢を題材に何かをするのがとにかく苦手で、困ってきた。

 理由はとても簡単で、自身の「なりたいもの」が分からなかったからである。


 今でも鮮明に覚えているのは、幼稚園の頃のお絵描きの時間、授業参観の日に掲示するためだろうと思われるが、将来の夢を絵にするというお題があった。この頃はまだ自身の絵が下手であると認識していなかったから、描くことは嫌でなかったが、何を描けば良いのかさっぱり分からず、全く進まなかったのだ。将来の夢を描けばいい事は理解していたが、自分が将来なりたいものは何であるかが思いつかなかった。好きなものを突き詰めて職業にするという解釈も無ければ、憧れの職業があるわけでもなく、ついには「この世に職業は何がどれ程あるのか」という疑問にまで到達し、幼稚園児の頭で考えるには限界ともいえる謎を生み出してしまったのだ。

 そんな謎に到達した私がこの時とった行動は、隣に座っている子に何を描くか聞いて、似たような題材を描いてみるということである。カンニングのようなものだが、周りが気にしている様子もないし、隣の子の将来の夢をお題に、自身の絵を描き、しれっと提出したのだ。

 正直なところ、お世辞にも賢い子でなく、どちらかと言うと外で駆け回っている方が好きなアホの子であるが、何故かここだけ現実的な問題に直面していた。


 時は流れ、最終的には中学生になってもこの問題は解決せず、年々拗らせ続け、この世に数ある職業のうち、どれ程の仕事を知っているか、いや、全くと言っていいほど知らないのでは…好きとか嫌いとか憧れとか特にないのに何を選ぶのが正解か…という無限ループに陥っていた。むしろ悪化している状態だった。


 高校生になってからは、どちらかというと進路選択の方がクローズアップされていたので、将来の夢が分かっていなくても学びたい分野があったので、たとえそれが職業に直結していなくても、困ることはあまりなかった。


 それ程までに拗らせ続けた私が、着地点を見出したのは大学一年次の時である。

 20年に満たない人生の中で、十数年迷った挙句、一人でたどり着いた結論は「将来の夢は職業でなくてもいい」という事である。

 いっそ一周回って…とでも言えば良いのか、自分でも想定外の着地点だった。


 きっかけはとても簡単な事で、一年次の必修科目である英会話の授業である。ある日のテーマが夢の話であった。授業の内容も会話の詳細もさっぱり覚えておらず、今でも外国語は苦手なままだが、何の因果か、この時、この授業中、急に着地したのだ。

 周りの人と英会話をする事がメインであるため、深く考えずにポンポンと積極的に話すことに極振りした方が良いと考え、自他共に適当に言っている事が分かる物をチョイスする事にした。教科書に書かれていたtreasureという単語が目に入ったからという理由だけでトレジャーハンターと答えたのだ。我ながら適当過ぎる回答だが、授業としては会話が成り立てば良しとされるので、問題なく円滑に進んだ。

 その時ふと、「何故自分は職業を答えようと思ったのか」という点に気が付いた。そこで初めて、将来の夢は職業を答えるものだと、これまでずっと無意識のうちに思い込んでいた事を知ったのだ。


 「将来の夢」は別に職業を答えるだけの質問じゃない。自分が将来やってみたいと思った事を答えるべきで、それが一攫千金でも、世界を旅するでも、人助けでも、長生きするでも、友達100人つくるでも、富士山の上でおにぎりを〜でも何でも、誰かに迷惑をかける様な事でなければ何だって良いはずなのだ。


 何も思い付かず、悩み、空欄または周りの意見を反映した適当な職業を答えてきた過去の私に教えてあげたい。

 でっかい夢で無くてもいい。なりたい職業が無くてもいい。単純に、その時の自分が願った「自身の希望」を反映させればそれでいい。周りが職業を答えていようと何だろうと、自由に答えていいのだ。

 もっと早くこれに気付けていたら、あの課題は楽にこなせただろうか。いや、私のことだからそれでも苦戦したかもしれない。ただ1つ言えることは、この答えに着地できたのは、長年困り続けた自分が居たからということだけである。


 もしも、似た様な事で悩んでいる人がいるとしたら、もっと楽に構えて良いはずだと伝えたい。


 そんな私が今思う「将来の夢」は、2つ。

 「思い切り駆け抜けて、良くも悪くも最期にこれで良かったのだと思える人生を送ること」と「大事な人達の笑顔を引き出せる人でありたい」ということだ。

 よく考えるとここ数年、変わっていない様な気もするが、これが今の私が思う「私の」将来の夢である。

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