荒国(あらくに) 【月夜譚No.4】
かつての王は、獅子のように雄々しく、草花のように繊細な心の持ち主だった。彼が治める国はとても豊かで、人々の暮らしも華やかだった。
しかし現在、この国は昔の面影もなく荒廃していた。植物は枯れ果て、動物達は姿を消し、人々は飢えに喘ぎ苦しんでいる。
どうしてこんなことになってしまったのか、それは誰にも解らない。ただ一つ言えるとするならば、慈愛に満ちたあの王が変わってしまったということだ。声を荒げ臣下等に命令する様は、まるで別人のようであった。
かつては笑い声の絶えなかった町を見下ろし、少年は目を細める。その灰の瞳に映るのは、瓦礫ばかりになってしまった無残な光景だ。
荒れ果てた国を元に戻すことはできないだろう。しかし今より向上させることはできる。
その為に少年は立ち上がったのだ。この国を統べる者の末裔として――。