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これは夢だろうか。それとも現実だろうか。
汽車の車窓を横切る流線型の風景は、落日の灯火をうけて鮮やかな黄金色に染め上げられている。
窓の鍵を取り外してから取っ手を少し持ち上げてみると、ここぞとばかりに隙間から風が吹き込んできた。
勢いよく吹く風をまともにうけながら、ひらひらと眼前を舞う髪を左手でそっと抑える。
あの日、私は確かに死んだはずだった。
鮮やかな橙に匂う黄昏に伸びる岬の突端の真下では、岩を食むようにうちつける轟然たる荒波が息巻いていた。
あの時もこうして岬の鼻先で吹きすさぶ突風にまともをなぶられていた気がする。今と同じように髪をかき上げながら飽くこともなく赤く燃える水平線を眺めていた。
それから私は、岬の先にある宙へと足を踏み込んだ、はずだった。
しかし、わたしは今もこうして生きている。この不思議をどのように伝えたらよいのだろう。この心の晴れやかをいかにして表現すればよいのだろう。
全てはあの島から始まった。私の冒険譚にして最大の奇譚があそこから始まったのである。