表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/113

第88話 『rainy』 ~好きでいたいと思った~

 辺りは夕日に照らされ、赤くなっていた。


「何の用ですか? カケルさん」


 俺は再びルルのもとを訪れた。あの光景を見たからだ。


「少し……話してもいいか?」


「え?」


「歩こう」


 俺はルルの手をつかんで歩き出す。


「ちょっと……カケルさん!?」


 急に手をつかまれて動揺するルル。そんなルルを連れて、その場所に向かう。


「突然どうしたんですか!?」


「お前に見せたいものがあるんだ」


「……え?」


 そして、そこにたどり着いた。


「……ここは、空き地?」


「ああ。よく子どもが遊びに来ている空き地だ」


「……あれ?」


 ルルは、その空き地を見て、ひどく怯えていた。その理由を俺は知っている。


「カケルさん」


「どうした?」


「私って……ここに来たことがあるんですか?」


「……ああ。そうらしいな」


 今ので、俺の予想は確信に変わった。


 きっと……記憶を失う前のルルがここにやってきたのだ。そして、あの光景を見た。


「……これを見てほしい」


 俺は魔法を使い、その場所で俺が見て、聞いたものを映像として映し出す。ただ、写真を作った魔法を応用しただけの物である。


 その空き地に数人の幼い少年たちが映される。


「おい。ハル! そのホモウってやつ、きもちわるいんだろ!?」


「ちがうぞ! ホモウはかっこいいヒーローなんだ!」


 一人の銀髪の少年と、他の少年たちが言い合っている。


 その光景を目にして、ルルは震えていた。少女は思い出していったのだ。記憶が無くなった理由を。


「あ……ああ……」


「……ルル」


 その少女の瞳からは涙が流れていた。


「……私は……弟がいじめられているのを見たから……記憶を無くしてほしいって頼んだんですね」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 今日はギルドに行き、依頼をこなそうと思う。まあ、単純にやることが無いから、暇なのである。


「……雨」


 私が家を出ると、外は雨が降っていた。道の横に咲いているアジサイが梅雨の時期を表していた。


 そして、傘をさし道を歩く。


「……あれ?」


 ふと普段はあまり気にしない空き地に目が行った。そこには、数人の子どもがいた。


 その中に、弟のハルがいた。私はそんな彼らの様子を遠くから伺う。


「ハル。何やってるの」


 弟が私からもらったホモウのフィギュアをかかげ、話し出す。


「ホモウはかっこいいんだぞ! みんなをしあわせにするヒーローなんだ!」


「何言ってんだ! 変な棒で戦うヒーローなんてかっこわるいだろ!」


「そこがいいんじゃないか!」


「よくねえよ!」


 すると、少年たちは弟を蹴り始めた。


「えっ。……ちょっと!」


 私はそこに駆け込み、弟の前に立ち塞がる。


「うちの弟を蹴らないで!」


「やっべ。こいつの姉ちゃんだ!」


 私を見ると、その少年たちは逃げていく。


 駆け込む時に、傘を放り投げたため、体は雨でずぶ濡れになる。しかし、そんなことは気にせず弟に話しかける。


「大丈夫?」


「うん。こんなのへっちゃらさ。いつものにくらべたら」


「……いつもの?」


 その一言が私に嫌な想像をさせる。いや……想像ではない。事実だ。


「いつも……蹴られたり殴られたりしてるの?」


 自分で言っておきながら、その言葉に恐怖した。


 私が弟にホモウのことを教えたから……弟はいじめられた?


「だいじょうぶだよ」


「……そう」


 弟は私に笑顔を向ける。それと対称的に、私の心は深く沈んでいく。


「……帰ろう」


「うん」


 弟は明るく振る舞っていた。しかし、その様子を見るたびに私の心はどんどん暗くなっていく。


 そして、家にたどり着く。


「ハルは先に入っててくれる?」


「へ?」


「私はまだ行くところがあるから」


「……うん。わかった」


 弟は家の中に入っていく。それを見届けると、私は歩き出す。


 雨の中、濡れながらも歩き続けた。


 私自身がこういう趣味で何かを言われるのはもう慣れていたし、普段はあまりそういったことは言わないようにしている。


 だが……。


「……まさか……ハルが……」


 私のしていたことで、弟にも影響が出ていたなんて……。


「ああ……ああ」


 そのことが何よりもショックだった。


「……誰かが」


 私は考えた末に、その結論にたどり着いた。


「……誰かが私のせいで傷つくぐらいなら……こんな趣味やめたい」


「じゃあ、やめさせてあげようか?」


「……え?」


 そこには、ローブを着た女性がいた。その女性は私の頭に左手をかざし、右手で私の手をつかんだ。


「……あなたのその趣味を……あなたの中から消してあげる」


「……何……を」


 その時……。


 頭に雷が落ちたかのような、そんな激しい痛さを感じた。


「……あ……ああ……」


「きっと……あなたなら幸せになれるわ」


「……う……ああ……あ……」


 やがて、女性が手を放すと、私は倒れる。


「……カ……ケル……さん……」


 そして、手の奇妙な紋章を見ながら、だんだんと意識を失っていった。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「それから、しばらく経って、目が覚めたらこうなっていたんです」


「……そうか」


 最初、俺は二つの予想をした。それらはすべてはずれていたと思っていた。


 しかし、神の使いの動機を除けば、ある意味ではそれらは当たっていたと言えるだろう。


 その動機とやらも、だんだんとわかってきた。


「……私って……やっぱりこのままの方がいいですよ」


「……は?」


「だって……弟や……もしかしたらいろんな人に……カケルさんにだって迷惑かけるかもしれないんですよ」


「何言ってんだ?」


「へ?」


 ルルは自分よりも、他人のことを気遣う子だ。きっと、その性格を利用されて、神の使いに記憶を消去されたのだろう。

 そんな彼女に俺は言う。


「人間なんて、迷惑かけて当たり前だろうが。そもそも、魔王と戦った時だってな、お前が俺に振ってきたから、めちゃくちゃ大変だったんだからな」


「……えっ……ええ」


 俺の言葉に動揺しているルル。そんなルルに言う。


「それに……まだ映像は終わってねえぞ」


「……え?」


 再度、俺たちはハルと他の少年たちの方を向く。


「おい! きもちわるいんだよ! こいつ!」


「きもくなんか無い!」


「は?」


 ハルは口元に笑みを作りながら、言う。


「オレはほんとうにかっこいいと思うから好きなんだ! 好きなものを好きだといって何がきもちわるい!」


「は? きもちわるいものは、きもちわるいんだよ!」


 少年の一人がハルに蹴りを入れる。しかし、それをハルは受け止める。


「ボウリョクは好きじゃない!」


「なんだと!」


UMO(ウモ)で決着を着けるぞ!」


「……は?」


 ハルはそう言うと、ポケットから『UMO』と書かれたカードを取り出す。おそらく、この世界のカードゲームか何かだろう。


「さあ! はじめよう!」


「何言ってんだ!? ウモなんてやるわけねえだろ!」


「そうかそうか。ウモもできないのに、ケンカをふっかけにきたのか」


「んだと、ごらああ!」


 すると、少年たちは皆でそのカードゲームをし出す。


「……よーし! 残り一枚だ!」


「はい! ウモ言ってない!」


「なんだとおおお!」


 なぜか、少年たちは仲良くカードゲームをし始めた。しだいに、ハルもその中で笑い合っていた。


 そんな光景を俺とルルは見ていた。


「すごい……ですね」


「……ん?」


「……ハルは……すごいです。すぐにいじめてた相手と仲良くなってる」


「まあ、ハルはもともといじめられるような性格してないんだよ」


「……え?」


 俺は単純にハルと話して、思ったことをルルに伝える。


「ハルは……なんて言うか、ハル自信が周りを巻き込んでいく性格なんだ。それに、巻き込まれて悪い気がしないってのもすごいところだ。なんつーか、そんなやつの近くにいると、自然に相手を否定しようなんて思わなくなってくるんだよ」


「……ハルが……ですか」


 ルルはうつむき、冴えない表情をしながら言う。


「……私には……できないです。そんなこと……」


「……はい?」


「へ?」


「いやいや。お前、俺に会った時のこと忘れたのか?」


「……へ?」


 俺は率直にそれを伝える。


「あの時、最初はお前が腐女子だったことに引いてたんだぜ。でもよお、戦ってるうちに、お前の真剣さってのが伝わってきた」


「…………」


「そういった行動が、俺の価値観を変えたんだ。お前の好きなものを否定する気を無くさせたんだよ。だから……」


 俺は精一杯、自分ができる限りの明るい表情を作る。


「お前は……お前の好きなものを突っ走れ。周りを圧倒させるぐらいな」


「…………」


「今までだってやってきたじゃねえか」


「……あ……うう」


 少女は突然、涙を流し出し、その場に座り込む。俺は腰を低くし、そんな彼女の肩に手を添える。


「ルル……これから……どうしたい?」


「……へ?」


「……お前の進みたい道を聞いてるんだ」


「…………」


 少女は涙を拭く。しかし、涙は拭いても拭いても流れていく。


 それでも、ルルは口を開く。


「……カケ……ルさん」


「おう」


「……私……大好きなものを……取り戻したいです」


「ああ。任せろ」


 俺は立ち上がり、歩き出す。そんな俺にルルは声をかける。


「……カケルさん!」


「……おう?」


「どこに……行くんですか?」


「決まってるだろ? 神の使いのところだ」


 ルルに記憶操作の能力を使った理由。いや……それだけじゃない。


 わざわざ、この時期、この場所でその力を使ったのは、ある目的のためだ。


 ……フウウウウウウン!


 その時、街に警報が響いた。


「ルル」


「はい?」


「一度、ギルドに行っててくれ。そこなら、安全だ」


「……わかりました」


 ルルは走っていく。


 そんな中、放送が流れる。


『全王国の騎士に告ぐ! すみやかに王国に帰還し、国王を守護せよ! 繰り返す! 全王国の……』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ