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第87話 記憶が失われた理由

「ただいまー」


「遅いわよ」


「へ?」


 トイレから戻ってくると、エルが頬を膨らませながら、こちらを見つめていた。


「一時間もトイレに行って、何やってたの?」


「は? 一時間?」


 ふと、時計を見ると、部屋を出る時は5時だったのに、もう6時になっていた。


「あれ? なんでこんなに時間経ってんだ?」


「なに? 寝てたの?」


 いや、寝てた覚えは無いのだが……。


 ……ん? そういえば、トイレからここに戻ってくるまでの記憶が無い……。


 ……なんか、忘れてるような……。


「まっ……いっか」


「……?」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 次の日、再びギルドを訪れる。俺はステファニーの横に座り、水を飲む。


「最近、ウィル見ないな。なんかあったのか?」


「少し遠くの遺跡に調査をしに行ってるみたいだな。まあ、そのうち帰ってくるだろ」


「そうか」


 あのロリコンなら、きっとルルやチェナにちょっかい出してたらそのうち現れるだろう。


「…………」


 俺は昨日のルルの件について考え始める。


 なぜ、ルルの記憶が無くなっているか。


 一つ目の予想は、神の使いに記憶を操作され、今の状態になった。


 ただ、これだと神の使いが記憶を消す理由が薄い。それをして、何のメリットになるのかがわからない。


 そもそも、そんなに簡単に記憶の操作が簡単だろうか。思った以上に記憶というものは繊細である。


 消されたはずのオクリの記憶が、殴られただけでよみがえる俺が良い例である。


 それに、神の使いがそれをした時にルルが抵抗しないわけが無い。ホモホモしいことに関わったら、すごい身体能力を発揮するし。


 二つ目は、ルルが精神的に嫌なことが起きて、自分で無意識に塞ぎこんでいる場合である。


 戦争のようなトラウマになる出来事を経験した者がなりやすい。異世界を巡る中、そういった人間を数えきれないほど見てきた。


 ……ただ、これもいまいち根拠が無さすぎる。


 まず、ルルのトラウマというものを見たことが無い。まあ、付き合いがまだ2ヶ月程度というのもあるが……そこまで、彼女が精神的に弱っているように見えなかったのだ。


 それが急に記憶が無くなる……とはいかないだろう。


「なあ、ステファニー」


「……ん? どうした?」


「……ウィルのことを……忘れたら、どうする?」


「は?」


 ステファニーはすぐに返答してくる。


「オレがウィルを忘れることは無い。なぜなら、もう思い出が心に刻み込まれているからだ。その思い出は一種の芸術作品なんだ」


「…………」


 爆ぜろ。リア充。


 そんな本音を押し殺しながら、俺はステファニーの話を聞く。


「でもまあ、忘れちまったら……なんだかオレもウィルも苦しいだろうよ」


「……ウィルもか?」


「ああ。だって、好きだった人に忘れられるんだぜ? 今までの思い出が全部無くなると考えると、すごく……こう……うまく言えねえけど、胸が締めつけられるようで苦しいんだよ」


「……そう……か」


 ステファニーは記憶を失った自分よりも、ウィルのことを心配していた。


「……まあ、ウィルならまたオレを好きにさせてくれると思うけどな」


「爆ぜろ。リア充」


「……え?」


 本音をぶちまけていくスタイル。


「……だが、記憶を失ったお前自身は苦しくないのか?」


「いやいや、苦しいに決まってんだろ。でも、それ以上にウィルの方が辛いと思ってる……そう考えているだけだ」


「そう……か……」


「でもさ」


「……?」


 ステファニーは遠くを見るような瞳をしながら、語る。


「……そういったウィルを見ると、すごく辛い。……そんな感じの意味で、どちらも苦しいんだ」


「…………」


 苦しんでいる人を見ると、こちらも苦しくなる。


 その考えが何か引っかかった。


「……ありがとうな。ステファニー。いろいろと教えてくれて」


「何言ってんだ。こっちのが助かってる。それに……」


 ステファニーはニヤけながら、それを言う。


「恋愛の情報に関しては、これからのお前に役立つしな」


「……ん?」


「……エルのこと、好きなんだろ」


「……は?」


 は? は? は?


「はああああああああああああああああああ!」


 俺は間抜けな声で叫ぶ。


「なっ……何を根拠にそれを!」


「いや、さすがにわかるぞ。エルの部屋に入る時、妙に緊張してたり……」 


「ぐっ……なぜ、それを」


「あと、たまにエルにあげたネックレスとかヘッドフォンを見てたり、エルの手に近づいた時、手が震えてたり、クロトによくエルのこと聞いてたり、エルがギルドにやってきた時に姿勢を直してたり、あと街を歩いている時に青い服があったらとりあえず買ってたり……」


「もう……やめろ。……死にそう」


 ちくしょう。さすが、姉キャラだ。妹に関わるものは、よく注意深く見てやがる。


「んで? いつ告白するんだ?」


「え?」


 そういえば、考えたことが無かった。


「……どう……すれば、いいんだろうな」


「は? 4000年生きた男」


「いや、わからないこともあるし、記憶も無い」


「キング・オブ・ザ・DT」


「違う」


 いろんな恥ずかしさが俺の頭をごちゃまぜにする。


「もう……エルのところに行ってくる!」


「へえ。まあ、頑張りたまえ。相談にはのってやるよ」


「うるさい!」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「ちくしょう。ステファニーのやつ。からかいやがって」


 まあ、すべて事実なのが一番恥ずかしいのだが……。


 そんなことを考えながら道を歩く。


 すると、目の前に空き地が広がっていた。それはとても広く、野球などをするにはうってつけの場所だった。


「……空き地ねえ」


 最初の世界では、よく遊びに行ったっけか。まあ、その頃はみんなテレビゲームに夢中だったからか、一人で遊ぶことが多かったけどな。


 ……一人で鬼ごっこ。やり方知りたい?


 残念、教えません。理由は俺が悲しくなるから。


「……やべえ。思い出しただけで恥ずかしくなってきた」


 周りに相手を想像しながら鬼ごっこをする……ってなんだよ! 結局、やってることは一人で走り回ってるだけじゃねえか!


 てか、教えちゃってるじゃねえかよ。


「早く通ろう。過去の記憶がよみがえる前に」


 そんなことを考えながら、俺は小走りになりながらそこを通る。


 すると……驚くべきものを目にする。


「……何やってんだ? あれ」

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