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第8話 ウィル、襲来

「…………」


 そこは明るい世界だった。


「なんだ? ここ」


 確か、俺はあの暗黒物質(ダークマター)を食って、気を失って……。


 ああ、そうか……。


 俺はこの光景に何度も見覚えがあった。


 そう……俺は死んだのだ。死んだ時、いつもこのような世界にやってきていた。


「げっ……」


「……あ?」


 俺に若干引き気味の女が目の前にいる。


「おう! タナカじゃねえか! あの世界はお前の担当だったのか」


「…………」


 そのピンクの長い髪を揺らしながら、椅子に座る。こいつはタナカと呼ばれる。女神の一人である。


「……あなた、よく精神を保ってられるわね」


「は?」


「普通、350回も異世界に行ったら、そろそろ記憶を無くしてほしいとか、言うでしょ」


「まあ、俺はわりとバカだからな」


 その女は指を振ると目の前にお茶がでてきた。


「ほら、飲みなさい」


「あざーす」


 ごくごくごくっ


 やはり、神様の飲んでいるお茶は違うな。


 まあ、さっきやばい物を食ってきたってのもあるんだが……。


「ところで、次はどの世界に転生させてくれるんだ? 希望を言うと、次は頭のおかしい奴らがいない世界でお願いします」


「それは無理よ。だってあなたが頭おかしいから……」


「ですよねー。…………あ? 今なんて言った? この女神」


 俺の様子を見て、女神は呆れている。


「まあ冗談はさておき、あなたはまだ死んでいないから……」


「え? そうなのか?」


 女神はコクリとうなずき、答える。


「あの料理を食べて、あなたは今、仮死状態になっているわ」


「え? マジで?」


 そんな効果があるのか? レイラさんの料理。ある意味天才だな。


「まあ、私に会いたくなったら、彼女に料理を作ってもらうのもいいかもね」


「嫌だね。体が動かなくなるとか、怖すぎだからな。一回試せばわかるわ……」


「知ってるわよ……」


「え?」


「よく貢ぎ物としてもらうわよ。彼女の親やさらにその親……先祖代々受け継いでいる物体Xを私は何百年も食べ続けているわ」


 ……あの料理は血筋による物なのかよ。それで、こいつはずっとあれを食べ続けているだって?


 俺が言うのもアレだが、正気の沙汰じゃない。


「神様ならどうにかできないのかよ。例えば、ちょっと料理をいじっておいしくするとか……」


「やりたくないし、やっても意味ないわよ。あれはそのぐらいじゃどうしようもない物だしね……」


 そういえば、レイラさんはタナーカ教とかって宗教だっけ? もしかして、こいつを祭っているのがその宗教なのか?


 で、こいつもなかなか自分の信者から貰ったものを食べない訳にはいかないと……。


「……なんて言うか、お前も苦労してるんだな」


 なんだか、こいつに同情するわ。あれを食うなんて……。


 時間が経って、急に眠くなってきた。


「……そろそろあっちの世界の体が目覚めるようね。んじゃ頑張ってね」


「……お……おう……」


 そして、俺は目を閉じる。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 気がつくと、俺はベッドの上で寝ていた。その近くにはジルちゃんが椅子に座っていた。


「……大丈夫ですか? もしかして、レイラさんの料理が美味しすぎたんですかね」


「…………」


 さすがに不味かったと言う勇気は無かった。


「ふごっ!」


 トンカツが俺のところに乗ってくる。


「おお! 心配してくれたのか。お前は偉いなあ」


 俺はトンカツを撫で回す。


「ちょっと待ってください!」


 なにやら横の少女も絡んでくる。


「私の方がカケルさんを心配していました。私も撫でてください」


「……オーケー。落ち着こうか」


 今ここで少女の頭を撫でるのは不味い気がする。少なくとも、レイラさん辺りに見つかったらアウトなんだが……。


「そういうのは、好きになった相手にしてもらいなさい」


「いてっ……」


 俺はその少女にチョップする。少女は頭を抑えながらも、こちらに笑顔を送る。


 バタンッ!


「ちょっとカケルくうん!」


 そこには扉を開け、目が血走っているウィルの姿があった。セキュリティ、緩すぎないか?


「羨ましいなあ、カケル君。どうして君は幼女とそんなに触れあえるんだい?」


「きゃあ! 変態!」


 やはり今日のことがあったからか、ジルちゃんは近くの置時計をウィルに投げつける。頭に当たり血が出るが、ウィルは依然こちらを見ている。


 てか、血が出ていることでむしろホラーになってんじゃねえか。


「カケル君。ずるいなあ。皆のロリっ子を独り占めするなんて……」


「なぜそこで俺が巻き込まれている?」


「君を……襲うよ……ここで……」


「何を言っているんだ?」


「うおおおおおおおおあああああああああああああ!」


 ウィルは飛びかかってくる。そいつに蹴りを入れる。


 入れたのだが……。


 キーンっ


「あっ……」


 ちょうどその蹴りはウィルの股間にクリティカルヒットする。


 蹴りで扉の奥に飛ばされたウィルは倒れながら悶絶している。


「おう……うおう……」


「すまん。わざとじゃないんだ。本当だよ」


 すると、少女は怖がっていたからか、俺の腕をつかんでくる。


「お兄ちゃん。助けて!」


「おいおい。そんなことしたら、またあの野郎が……」


 案の定、ウィルのやつは目を見開きながら、こちらを見つめる。なんだか、痛みを克服しているようだった。


 てか、マジでこええよ。もう魔族って言っても勘違いするレベルだわ。


「……カケル君……君は……ここで始末するよ」


「落ち着けって! 自分を冷静に見ろ! はたから見たらマジで犯罪者の目をしているからな?」


「それが……どうしたああああああああああああああああ!」


 ウィルがこちらに再び向かってくる。その時だった。


「え?」


 ウィルの体が扉の向こうに持ってかれる。そこにはレイラさんがいた。


「……あなたがロリコン君でいいのよね?」


「……え?」


 レイラさんはウィルを連れていく。さすがのウィルも恐怖を抱いたのか、こちらに助けを求める。


「待って! カケル君助けて!」


「……ウィル。俺……お前のこと忘れねえから」


「カケルううううううううううううううううううううううう!」


 バタン


 扉はいとも簡単に閉められるのであった。


「ありがとう! カケルお兄ちゃん」


「……おう」


 若干ウィルに申し訳ないと思うが……いや、あいつの自業自得だな。


 すると、ジルちゃんはテレビのリモコンを持ち出す。


「気分転換に何か見ようよ」


「……そうだな」


 ピッ


『激烈魔人ホおおモおおおウ! 我がペ○スの前に屈しない物はいない!』


 ピッ


 俺はジルちゃんからリモコンを取り、チャンネルを切り替える。


「ねえ。カケルお兄ちゃん。ペ○スってなあに?」


「テニスかあ。ボールを弾いて点を得るスポーツだよ」


「へえ。そうなんだあー」


 ……激烈魔人ホモウは……アウトの作品じゃねえか。よく地上波でやってんな。このアニメ……。


 しばらく時間が経つと、ジルちゃんは寝てしまった。さすがに少女と同じベッドで寝る訳にはいかないので……下の階の長椅子にでも寝そべるとしますか……。


 俺は一旦下に降り、扉を開ける。


 ビシッ! バシッ!


「あっ! カケル君!」


 そこにはしっかりと痛い目にあっているウィルがいた。


「助けに来てくれたんだね!?」


「…………お疲れ様です」


「カケルううううううううううううううううううううううう!」


 パタンっ


 俺は静かに扉を閉める。


 ……仕方ない。部屋に戻って、床に寝るか……。


 床に寝そべりながら、俺は眠る。


 ……あれっ? 俺この世界に来て、マトモな場所で寝てなくね?

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