第８０話 オルゴールの悩み
「あいたたたたたたたたたたたたたたたた！」
作業をして休憩を試みるも、サラ皇帝に押さえつけられる。
「前にも言ったよね。勝手なことはしないで」
「いたいいたい！ マジで放してくれ！」
解放されたあとも、体の痛みが残る。本当に容赦ないな。
「なあ。タクロー？」
「あ？」
オルゴールが俺に話しかける。
「ここの鉱石って、なかなか綺麗なの多いよな」
「まあな。なんか、この刑務所自体、もともと鉱山の採掘場だったらしいし」
「……ユキナ、持ってったら喜ぶかな」
「…………」
俺はオルゴールの前に立ちはだかる。
「どうした？ タクr」
ドグシュっ
「ぶへっ！」
オルゴールの顔面をぶん殴る。
「え？？ なに？？？」
「お前……ふざけんなよ」
「は？？」
俺は心の内をぶちまける。
「なに女の子と文通なんかしてんだよ！！ 調子狂うわ！」
「……！！！？？？」
「こっちはこれから刑務所出たら、人生やり直そうとしてんだよ！ もっとこっちの気持ち考えろよ！」
「…………もしかして」
「……あ？」
「嫉妬？」
「殺すぞ」
俺は再び、オルゴールに殴りかかる。
「お前、マジで魔王の分際で女の子といちゃいちゃしてんじゃねえよ！」
「はあ！ お前だって時々サラ看守のスカート覗こうとしてんじゃねえか！」
「うるせえ！ それとこれとは関係ねえだろうが！ なら、てめえも覗けばいいだろうが！」
「あんなやつのパンツなんか見たくねえよ！ 馬のうんこのが１００倍マシだ！」
すると、急にオルゴールの顔が青ざめる。
「え？ どうした？」
「……ぐびが……ぐび」
なにやら、オルゴールの後ろに気配を感じる。
そこには、サラ皇帝がいた。どうやら、後ろから首をつかんで締めているようだ。
いや、握力。
「……ぐび……ぐびいいいいいいいいいいいい！」
「誰のパンツが馬の糞以下だって？」
「ぎええええええええええええええええええええ！」
「あと、２５２番。てめえも話がある」
あっ……覗こうとしてたの、聞いてたのか。
…………。
「そういえば、良い色の鉱石、見つけたぜ」
「……は？」
「サラ皇帝に似合うんじゃないかと……」
「……どんなの？」
よしっ。興味が向いた。これで俺に対する罰は忘れるはず。
最近気づいたのが、この看守……意外と記憶力が無い。
「ほらっ。これっすよ」
「…………どれ？」
「このピンク色の」
ゴシュっ！
俺は顔面を岩に叩きつけられる。
……なんで？
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「……おう」
俺たちは顔面に腫れを作り、食堂へやってくる。そんな俺たちの前にブラウンがやってくる。
「よお！ 二人とも！ 今日も元気そうじゃないか！」
「この姿を見て、元気そうに見え……」
すると、ブラウンも同じような顔になっていた。
「どうしたんだ？」
「いやあ！ ついうっかり、看守のケツを触ってしまってな！ それで大変な目にあった！」
「……お前は一生刑務所で過ごしてろ」
よくこの仕事やめないな。サラ皇帝。
「さて……俺たちもそろそろ食べないとな」
そう言い、出来上がっている料理を食べ始める。
「なあ。オルゴール」
「ん？」
「お前、このままでいいのか？」
「……何が？」
俺は唐突にオルゴールにそれを聞く。オルゴールは茶を飲みながら聞く。
「ユキナの母ちゃんのことだよ」
「ぶふっ！」
それを聞かれ、驚いたオルゴールは茶を吹き出す。
「なにを言ってんだ！？」
「いや……ちょっとな」
「それは……その」
助けたい。そう思っているのだ。しかし、魔王としての立場が邪魔をしている。
立場とかいうものは俺にはわからない。
だが……。
「……助けちまえばいいだろ」
「…………」
「立場なんて関係ねえ。お前はお前自身の気持ちを優先しろよ」
「……俺だってそうしてえよ。だが、刑務所から出て、ユキナの母に会わせろって看守たちに言うのか？ 言って、看守たちが認めると思うか？ 違うだろ？」
「…………」
「出所してからでも、遅くない。そう……遅くないんだ」
「……それで……いいのか？」
その問いかけにオルゴールは反応しない。
確かに、今、刑務所を脱獄して、無理矢理会うよりも……。
……出所してから、会いに行く方が合理的だ。だが……。
…………。
いや、本当はオルゴール自身が一番助けに行きたいのだ。だから、今こいつは悩んでいるのだ。
「んじゃ……先に行ってるわ」
「おうよ」
オルゴールは食堂を出ていく。俺はその様子を見届けることしかできなかった。
「よお。あんちゃんたち。喧嘩でもしたのかのお」
「…………」
「……プルプルは一人一つじゃぞ？」
「いや、そのことじゃねえよ」
さすがにデザートを巡って争いはしない。
「あの魔王もなかなか人間らしいのう」
「……爺さん。あんた、あいつが魔王だって知ってたのか」
「うむ」
爺さんは手を振るわせながら、茶を口に運ぶ。
「……ワシも昔は冒険者じゃったからのう。それは、バリバリ魔王城に攻めいったもんじゃ」
「へえ。ずいぶんと面白そうな話だな」
「もう５０年も昔の話じゃよ。今じゃあ、パンツを奪う力しか残ってないのじゃがな」
「…………」
それは……残っていることにしない方が良いのでは？ 不名誉でしかないと思うし……。
「まあ、あの魔王も昔に比べ、大人になったということじゃろう」
「……魔王に会うほどの腕前を持つ冒険者だったんだな。あんた」
「大したもんじゃないぞい。ちょっと音の魔法を使って援護するぐらいじゃ」
「ふーん」
爺さんはそう言うと、離れていく。
「それじゃあ、頑張るといいぞ。ちなみに、ごちそうさま」
「……は？」
俺は爺さんの肩をつかみ、手に持ったデザートのプルプルを指差す。
「……それを置いていけ。今すぐ」
「おぬしもやるか？ このワシと」
「……プルプルは一人一つ……じゃなかったか？」
すると、爺さんはイチゴ柄のパンツを掲げる。
「……男の証も守れないようなおぬしに人権があるとでも？」
「あ？」
「お？」
俺と爺さんが取っ組み合いの喧嘩を始める。
……俺も刑務所の空気に染まっていたようだ。
