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第79話 草原で奏でる演奏

 その日はよく晴れていた。


「ルンルルンルルン」


 気分が良かったので、草原に出掛けた。そして、その草原に寝そべり、雲を眺める。


「……ああ!」


 まるで、その雲の形がチェナちゃんのパンツのようだ!


 ブワっ!


 風が勢いよく吹いている。その勢いに流され、パンツの雲が動いていく。


 そして、一時的に風がやんだ。


 …………その時だった。


「……なんだ? この音」


 何かの楽器の音だった。あまり音楽には興味が無かったので、楽器の種類まではわからなかった。


 音の方向を眺めると……。


「…………ん?」


 その橙色の髪を持つ女が歩いてくる。そのバイオリンを弾きながら。


「……お前、誰だ?」


 俺が声をかけると、その少女は演奏をやめる。


「…………」


「…………」


「…………誰?」


「……いや、お前こそ誰だよ」


 その時。


 再び、風が強くなる。


 ブワっ


「……あっ」


 その少女のスカートがめくれ、緑色のパンツがあらわになる。


 ……そして風がやみ、再びパンツはスカートの中に隠れる。


「…………」


「…………」


「へ」


「へ?」


「変態」


「違う!」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「俺はオルゴールだ。お前は?」


「……ユキナ」


「ユキナ? そうか。ユキナか。よろしくな」


「……うん」


「…………」


 なんだろう。おとなしいな。こいつ。


「なあ」


「…………?」


「その楽器。なんて言うんだ?」


「…………」


 ユキナは自分の手に持つその楽器を眺める。それはひょうたんのような形をしていて、美しく光っていた。


「……バイオリン」


「バイ……オリンか?」


 バイオリン……。


 そういえば、昔、ある勇者のパーティにそんな楽器を使っていた人物がいたような……。


 まあ、50年も前なので覚えていないが……。


「んで? なんでこんなところで演奏していたんだ?」


「…………」


 しばらく無言の時間が続く。そして、少女は答える。


「……練習……したかったから」


「へえ」


 なんだか、その時の俺はバイオリンという楽器に興味が湧いてきていた。


「なあ」


「…………?」


「もっとその演奏、聞かせてくれないか?」


「……うん」


 彼女は細長い弓を右手に持ち、弾きはじめる。


 それは軽やかで、重い、激しく、落ち着いた……。そんな不思議な演奏だった。


「…………ああ」


 俺は気がついた。バイオリンだからこそ興味が湧いたのではない。


 彼女が弾く演奏に興味が湧いたのだった。不思議な、誰も産み出せない彼女の演奏に。


「…………」


「……どう……だった?」


「…………えっ」


 気がつくと演奏が終わっていた。だが、いまだに俺の脳内を彼女の演奏が駆け巡る。


「いやいや。すげえいい音だったよ」


「……でも……違う」


「…………え?」


 彼女はバイオリンと弓をそれぞれ手に持ち、遠くを見つめながら言う。


「……少し……物足りない」


「……どういうところがだ? 十分すごかったじゃねえか」


「……まだ……先に進める」


 すると、彼女は草原を歩き、進んでいく。


 そんな彼女の演奏がもう聞けなくなるのは、なんだか寂しい気がした。


「なあ!」


「…………?」


 彼女は振り向き、俺の方を向く。


「明日も……この草原で待つ! ……」


 ……また、演奏を聞かせてほしい!


 その言葉がうまく言えなかった。


 だが、彼女は一言言う。


「……また、明日……」


「……ああ」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #

#


 それから、毎日、暇な時はその場所を訪れた。やはり、彼女の演奏はとても美しかった。


 だが、日を重ねるごとに、美しさに磨きがかかっているようだった。


「なあ」


「……?」


「お前って、日頃は何してんだ?」


 バイオリンを演奏する彼女が、他に何をやっているのか気になった。


「……お母さん」


「……?」


「……お見舞い……行ってる」


「……そうか」


「……バイトして……お母さんの怪我……治したい」


「…………」


 なるほど。


 ここを訪れる時以外は、必死に働いているのだろう。そして、その母親の怪我を早く治したいのだ。


 それで、たまに暇な時だけバイオリンを弾く。それが彼女の日課なのだ。


「……そうだな」


「……?」


「明日……俺もその母親に……」


 それを言いかけたが、魔王としての威厳がそれを邪魔した。


 魔王である俺が、人間を助けてはいけない。これは決められたことなのだ。


「……早く治るといいな」


「……うん」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「ふーん」


 俺はその話をするオルゴールを笑いながら見つめる。オルゴールはめちゃくちゃ恥ずかしそうにしている。


「……で? その後はどうした?」


「やめろ! マジで恥ずかしいから!」


 オルゴールはベッドに飛び込み、ふとんの中に隠れる。


 ……たぶん、こいつは……。


「まあ、お前はお前のペースで頑張れよ」


「…………」


 オルゴールはふとんの中で呟く。


「……そういうわけにも……いかねえんだよ」


「あ? どうした?」


「なんでもねえ!」


 俺はオルゴールの発言を不思議に思う。


「……まあ、なんかあるんだろ」


 オルゴールに渡された小説を読み始める。


「…………」


 それは意外にも、読める文章をしていた。


「……なるほど……」


 というのも、さっきの話に近い出来事が小説の中にも描かれている。


 わかりやすいな。オルゴール。

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