第77話 奇妙な看守と、個性豊かな囚人たち
「タクロー?」
硬いベッドで横になる俺。面会をして疲れたのだ。
「ねえ。実は妹のことを思っていたら、小説が一つできあがりそうなんだ。題名は『異世界で妹を思い続けていたら、妹がいっぱいできていた件について』……だ!」
マジで読みたくない。今、読んだら吐きそうになる自信がある。
さっきもさっきで甘酸っぱい青春の話を聞いてしまった。
何が水面の上の天使みたい……だよ。何が花畑よりも君が美しい……だよ。気色わりいんだよ!
まったく……。
「…………」
なんだろう……。
「違あああああああああああああああああああああう!」
「どうした? 急に」
オルゴールが俺に聞いてくる。
「俺ってシリアス要員じゃなかったっけ?」
「…………」
すると、そいつは真顔で俺を見つめる。
「いつから、お前は自分がシリアス要員だと錯覚していた?」
「初登場から、あからさまなギャグ要員に言われたくないな」
「なんだと!」
「シスコン魔王とか、ギャグ以外のなんだってんだ!」
お互いに殴りかかる腕を押さえる。そんな時、またもやコラードがやってくる。
「悪いが、今日はもう面会できる体力、残ってないぞ」
「違う違う。看守を連れてきただけだよ」
すると、コラードに着いてきて、俺たちの前にツインテールの少女が現れる。
「こんにーちはー。サラです」
「あ?」
なんだか、こいつ、どこかで見たような……。
「もしかして、魔法学校に通ってたか?」
「はい。今は学校がやってないので、バイトに来たんです」
バイトで未成年の子に、看守をやらせる? 大丈夫か? この世界。
「……こわい……」
おや。さっきまで取っ組み合いをしていたオルゴールがサラから離れた位置に逃げている。
「……どうした?」
「……その子……こわい……」
何を言っているんだ?
とりあえず、俺は手を鉄格子から差し出す。
「まあ、よろしくな」
「ええ。よろしくお願いします」
グギっ
「……え?」
俺の手首がえぐい方向に曲げられる。ちなみに、俺の手首はそこまで柔らかくない。
「いてえええええええええええええええええええええええ!」
「……鉄格子から手を出さないでください」
ゴギっ
すると、サラ看守は手を元の状態に戻す。ちなみに痛みはそのままである。
「あんまり、好き勝手やらないでくださいね」
……こええよ。こいつ。
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次の日、俺たちはサラ看守に連れられ、食堂にやってくる。
「おい! お前! それ返せ!」
「んだと! これは俺が正式に手にいれた物なんだよ!」
なんだか、柄の悪そうな連中が喧嘩をしている。意外にも、刑務所って感じがする。
「さて……今日の料理はなんだ?」
どうやら、今日のメニューは魚と味噌汁と米と知らないデザートと……。
なんか……黒い何かだった。
「……看守。これは?」
「あー。それは教会のシスターさんからもらった料理です」
え? 炭かと思った。
食えんの? これ。
「……このデザートはなんだ?」
それは、なんだかプリンと杏仁豆腐を足して2で割ったみたいなものだった。
それを見て、オルゴールは言う。
「へえー。プルプルがあんのか」
「……なんて?」
「え? プルプルだけど?」
なんだ? そのふざけた名前のスイーツ。
「おい! てめえ! だから、俺のプルプル返せよ!」
「だから! これは俺がじゃんけんで手にいれたプルプルなんだよ!」
……喧嘩だと思ったが、ただじゃれているだけだった。
もしあれが喧嘩だとしたら、喧嘩のレベルが小学生じゃねえか。
「よいしょっと……」
とりあえず、一通り料理をそろえ、椅子に座る。オルゴールも正面に座る。
「なあなあ、あんちゃん」
「……あ?」
俺の前に、知らない爺さんが現れる。
「……ここのルールには気をつけた方がいいぞい?」
……なんだ? それ。
爺さんはそう言うと、俺たちから離れていく。妙な爺さんだった。
「まあ、いいや。とりあえず、飯を食うか」
バシっ!
「……え?」
俺の手が鞭で叩かれる。その勢いで箸を落とす。
「……お前」
突然、見知らぬ大柄な男に話しかけられる。
まさか……不愉快になるような行いをしたのだろうか。
「ふう……しょうがない」
俺は一度、席を立ち、目の前の男をにらみながら言う。
「何の用だ? 悪いが、食事を邪魔されるのは嫌いなんだ」
その言葉を聞くと、男は口を開く。
「…………は」
「…………は?」
「箸の持ち方がなってない! ちゃんと持て!」
ええ! そんな理由!?
「ほらっ! 手伝ってやる! 箸を持て!」
「いや、ちょっと! 別に箸の持ち方ぐらいどうでもいいだろ!」
「そういった細かいところから直していかないと、重要な時に大変な目に会うぞ! しっかりと基本を身に付けろ!」
「あんたは俺の母ちゃんか何かかよ!」
男は思いっきり俺に箸を持たせようとする。
「おい! オルゴール! お前もなんとか言ってくれ!」
しかし、オルゴールは礼儀正しく箸を持ち、食事をし始める。
「オルゴおおおおおルうううううううううううううう!」
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「いいか! ここでは作法というものを大事にしている!」
「…………」
この大柄な男はブラウンと言うらしい。
「でも、なんであんたみたいな人が捕まってんだ?」
「はっはっは! ついうっかり、魔法学校の女子生徒のケツを触ってしまってな! それでここにいるんだ! いやあ! つい魔が差してしまった!」
「理由が残念すぎだろ! たぶん、お前この世の女、全員の敵になったぞ」
すると、さっき話しかけてきた爺さんがやってくる。
「いやあ。やっぱり歳を取ると、食い物が喉を通らんわい」
「…………爺さん。あんたはなんで捕まったんだ?」
爺さんはその言葉を聞くと急に目が鋭くなる。
「それはもう、語ってるぞ」
「……は?」
…………。
……なんだか、股間のあたりがスースーする。
「探し物はこれかの?」
すると、爺さんは、イチゴ柄のパンツを取り出す。それは俺が常に履いているお気に入りのパンツだった。
「なんであんたが持ってんだ? 俺の宝物」
「ワシは人の下着を一瞬で剥ぎ取る能力を身につけていての。これでよく可愛い子の下着を奪い去ったもんじゃ」
「とりあえず、あんたもしょうもない理由でここにいることはわかった」
なんか……。
「刑務所というより、変態収容所だな。ここ」
あとあと知ったが、囚人の大半が爺さんやブラウンと同じような理由だった。