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第76話 面会のお時間です

「…………」


「…………」


 強化されたガラスを一枚はさんで面会をする。


 そこにはねずみ色の髪を逆立てた騎士が一人。


 いや、誰だ?


「俺はアーロン。国で王様の近くを護衛する騎士だ」


「…………」


 バンっ!


 アーロンとかいう男はガラスの板にへばりつき、こちらを威嚇する。


「……姫様に向けて矢を撃ったのはお前か?」


「…………は?」


 姫様って何だ? 矢って何だ?


「……知らないのか?」


「いや、知らねえよ。そんなの」


「そうか……それならいいんだ」


 ギロっ


 にらむ瞳から全然良くないことがわかる。


「じゃあ……矢を撃った神の使いがどういう顔かわかるか?」


「……知らん」


「本当か?」


「本当だ」


 マジで、あいつは顔を見せないし、名前も教えてくれなかった。利用できるだけ利用しといて捨てられたのだ。


 最初から、そのつもりで俺を異世界に連れてきたのだ。カケルとかいう男の力を見るために。


「……んじゃあ、もう話は無いな」


「いや、待ってくれ」


 男は俺をひき止める。


「せっかく時間があるんだし、姫様の可愛いところでも聞いてく?」


「…………いや、俺は」


「ありがとう。聞いてくれるんだね! 実はマリア姫がまだ10歳の頃……」


 それから、面会は一時間続いた。休憩時間だと思っていた面会はさほど休憩にはならなかった。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「……疲れた」


 あんなよく知らない姫様の話を聞くのは、結構きつい。


 いや、まだ10分ぐらいならわかる。なんで一時間も話してんの?


「……ただいま」


「おかえり! タクロー!」


 そこには何かを書いているオルゴールの姿があった。


「なにやってんだ?」


「いやあ、暇だからチェナちゃんの可愛いところをまとめておこうと思って……」


「…………」


 そこに原稿用紙を10枚ほど書き上げたオルゴール。


「でも、まだ一割もできてないんだよ。できたら、朗読してあげるね」


「誰かああああああああああ! 部屋変えてくれえええええ!」


 俺は牢屋の外に叫ぶ。すると、その思いが伝わったのか、コラードが現れる。


「コラード! 頼む! このままじゃなんか悟る気がする!」


「……うん? 状況はわからないけど……別の人が面会に来たよ?」


「…………え?」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「よう。元気にしてたか?」


「…………」


 そこには褐色の肌を持つあの先生がいた。


「……誰だっけ?」


「お前、マジでやめろ。教師としてメンタルがやばい」


 ……ああ、確か……カール先生だったか?


「んで? 何の用だ?」


「あ? 俺に何か言うことがあるんじゃないか?」


「…………」


 やべえ。そういえば、こいつのおかげで罪が軽くなってんだった。


「……ありがとう」


「……『助けていただきどうもありがとうございます』だろ? じゃあ、言ってみようか?」


 うぜえ。


「……タスケテイタダキドウモありがとうゴザイマス」


「はい、よくできました」


 性格の悪そうな笑みを浮かべながら、それを言う。


 なんでこいつ教師やってんだ?


「いやあ、それにしても、ちゃんと元気でやれてんだな」


「……まあ、それなりにな」


 まだ一日目だけどな。


「……それにしても、面会の時間、余っちまったな」


「…………ん?」


「実はこの前、後輩が彼女作っててさあ。ついからかっちまったよ。……この話聞く?」


「いや」


「それでなあ、後輩のウィルってやつが……」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「うるせええええええええええええええええええええええ!」


「急にどうした? タクロー」


 魔王が俺を心配してくるレベルで俺は発狂する。


「どいつもこいつも面会で、趣味の話しやがって! こっちは1ミリも興味ねえんだよおおおおおおおおおおおお!」


「大丈夫か? チェナちゃんの可愛いところを聞いて落ち着こう? な?」


「おめえもだよ!」


 すると、またコラードがやってくる。


「やめろ! もう面会はしたくない!」


「そんなこと言わずに行こうよ!」


「てか、面会まだあるの?」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「…………」


「よお。元気にしてたか? タクロー」


 そこには腕がメカニックになったカケルがいた。


 こいつは何の話をするつもりなんだ?


「いやあ、ちゃんとやれてるか、心配だったからさ」


「それはさっきカールから聞いた」


「……んじゃ、俺に何か言うことがあるんじゃないか?」


「……タスケテイタダキドウモアリガトウゴザイマシタ」


「…………」


 あれ? なんか落ち込んでるぞ? こいつ。


 いやいや、カールのやつと話題が被ってるから仕方ねえだろ!


「……んじゃそろそろ帰るな」


「…………」


 元気なく、帰ろうとするカケル。


「……待てよ」


「…………?」


 さすがの俺でも、そのまま帰すのはなんだかかわいそうな気がした。


「なんか話せよ。悩みとか……」


「…………」


 そう言うと、カケルは戻ってくる。


「……恋愛相談……していい?」


「……やっぱ帰れよ」


「ひどくね?」


 正直、そういう話をされてもよくわからん。てか、会って間もない俺にする話じゃないだろ。


「頼むよおお! ちょっとだけ! な!」


「……マジでちょっとだけだぞ?」


「ありがとう! タクロー。実はなあ……友達にエルって子がいるんだけども……」


「…………」


 それから、面会に使われる約一時間は恋愛相談で消費された。


 今思えば、早めに帰せば良かった。

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