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第75話 牢屋に行く今日この頃

「……んがっ」


 俺はその馬車で起きる。腕を縄で巻かれ、動けない状態である。


「…………ああ」


 俺、タクロー。18歳。出身地は地球。


 西暦6XXX年に異世界へやってきた。


 そして、わずか数ヶ月ですっかり罪人である。


「やあやあ。おはよう」


「……あ?」


 隣には、小柄な男が座っていた。


「お前、何者だ?」


「ボクはコラード。今は君を連行するためにここにいるんだ?」


「…………」


 すると、俺の方に近づき、なぜか体を密着させる。


「着くまでボクと遊ぶ?」


「……きしょい」


 なんだ? こいつ、女みたいなことしやがって。


「……あれ? もしかして、ボクが女じゃないって気づいてるの?」


「は? ……気づくって何がだ?」


「…………え?」


 それを言うと、そいつは興味深そうに俺を見つめる。


「君……ウィル君やカケル君とはまた違ったレベルで鈍感だね。重症だよ」


「……誉めてんのか、けなしてんのか、どっちかにしろ」


 なんか、ずいぶんと奇妙なやつに絡まれてしまった。


「さて……じゃあ、君はこれから刑務所に行って、牢屋に入れられるんだけど……大丈夫かな?」


「ああ。かまわない」


 当然のことだ。あれだけ被害があったんだ。仕方のないことだろう。


「……そうだねえ。1ヶ月したら、出れるよ」


「そうか。……1ヶ月…………あ? 1ヶ月!?」


「うん」


 なぜそんなに短い? あれだけのことをやったのに!?


「君は運がいいんだよ」


「あ?」


「……あの学校の校舎はカケル君が直してくれたみたいだし、何より怪我人が少なかった。それに、学校の人たちが全力で擁護してくれたんだよ。そのおかげで、出所してからも学校に通えるように手続きはしてあるし」


「……そう……なのか?」


 まさか、こんなことをした俺を擁護してくれるなんてな。


「確かに……運がいいな」


「……君。見た目のわりには素直な性格してるよね」


「そうか?」


「悪く言うと、くっそアホなんだけどね」


「殺すぞ?」


 すると、馬車が止まる。どうやら、その刑務所にやってきたようだ。


「んじゃあ、行こうか」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 そこは石の壁で囲まれ、警備が厳重だった。警備員が何度も見回りに来るようなところだ。


「君はこの部屋かな」


「ああ」


 俺が牢屋に入ると、そいつは鉄格子を通して俺に伝える。


「しばらくしたら面会があるから、それまで待っててね」


「……わかった」


「んじゃ。頑張りたまえ。囚人番号、252番君」


「…………」


 囚人番号、252番。それが一ヶ月間俺を表す番号だ。


「まったく……」


 まあ、こうなったのは自分の責任だ。おとなしく労働にいそしむとするか。


「うう……」


「…………あ?」


 目の前のベッドに男が涙を流しながら寝ている。そういえば、相部屋でもう一人いると聞いていた。


「……おい。お前」


「ばなじがげんなよぼ! あああああああ!」


「…………」


 なんだ? こいつ。


「チェナちゅああああああああああああああああん!」


「……お前、大丈夫か?」


「うわあああああああああああああああああああん!」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「取り乱してすまない。俺はオルゴールだ」


「おう。そうか。俺はタクロー」


 泣くのをやめたその男は、かっこつけながら自分を語る。


 いや、かっこつかねえよ? さっきの見たら。


「今では、魔王をやっている!」


「……魔王?」


「そうだ!」


「……嘘つけ」


「ほんとだ!」


 こんなのが魔王だったら、この世界平和すぎだろ。


 てか、すでに刑務所に入れられてんじゃねえか。


「まあ、見ていろ! 我が奥義、暗黒魔法を!」


「…………」


 暗黒魔法。確か、魔族の人間によって扱われる伝統的な魔法だっけ?


 なんか、あのローブの女に覚えろって言われたっけな。複雑だったから面倒だったわ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 オルゴールの体が黒い粒子で包まれる。やはり、炎舞魔法と似たように体にまとって使うのな。


「せいやっ!」


「へぶしっ!」


 俺の顔面を殴られる。前にカケルに殴られた場所が痛む。


 ……って!


「なに殴りかかってんだ!?」


「うおっ!」


 俺はオルゴールを持ち上げ、壁に叩きつける。


「いやあ……実際に殴った方がわかると思って」


「んじゃ、自分でも殴ってろ」


 それにしても、なぜ魔王であるこいつがこの刑務所に?


「お前、何やったんだ?」


「フッフッフ。いいだろう。俺がここにいる理由を教えてやる」


 なんか盛大に話し始めたな。


「あの日はむしゃくしゃしていてな。それで、酒を飲んだやつらに絡まれたんだ」


「……それで?」


「ついうっかり喧嘩してな。そこを捕まえられた」


「魔王、小者すぎるだろ」


 ただ喧嘩しただけかよ。


「んで、二週間ここにいることになった」


 ……なんで魔王よりも罪が重いんだ? 俺。


 てか、全体的に刑務所に入れられても早く出れそうな世界なのか? ここ。


「ところで、さっき言ってた……チェナって誰だ?」


「よくぞ、聞いてくれた!」


「…………」


 魔王は笑いながら話し出す。


「チェナちゃんは、我が妹よ! 実は中二病をこじらせていてな。それが実に可愛いんだ! なんか言葉のチョイスが可愛いんだ! やばいんだ! 心臓がドキドキしちゃうんだ!」


「……おう」


 一瞬でこいつがシスコンだと気づけてしまった。


 そんなところにあのコラードとかいう男がやってくる。


「やあやあ。そろそろ面会の時間だよ。タクロー君」


「…………ああ」


 正直、このシスコン魔王にかまっているのはもう疲れた。面会の時間が休憩の時間になる気がする。


「……あ?」


 なんかオルゴールがこちらを見つめている。


「君とは友達になれそうだな!」


「…………」


 こっちから願い下げだ。バカ野郎。

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