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第74話 その気持ちの正体

「よお」


「……うん」


 俺が戻ると、エルはこちらを見つめる。


「……ん? どうした?」


「いや……ちゃんと戻ってきてくれたなあって」


「そりゃ戻るだろ」


「そうだね。戻ってくる。あなたはそういう人」


 なんだか、こいつの言っていることがわからない。少し電話をしに行っただけだと言うのに。


「……じゃあ……行こうか」


「次はどこに行くんだ?」


「…………」


「…………あ?」


 ガシっ


 エルは俺の右腕をつかみ、歩き出す。


「……行こう」


「……ああ?」


 なぜだか、エルに連れていかれることに安心感があった。


「なあ……本当にどこに行くんだ?」


「…………」


「…………ん?」


 歩き……たどり着いた場所はそこだった。そこは前に行ったことのある劇場だった。


「確か……今日は特にやっていないんじゃあ……」


「……行こう」


「あ?」


 そのまま、劇場の中に入っていく。やはり演劇をやっていないため、人はまったくいなかった。


「どうしたんだ? エル」


「……まあ、座ろうよ」


「……?」


 手を繋いだまま、席に座る。なぜだか、妙に緊張した。


 エルが隣に座っているからだろうか。だんだんと気持ちが不思議なぐらい高まる。


 だんだん耐えきれなくなってきた。


「なあ……エル! 本当にどうした?」


「ねえ。カケル」


「…………あ?」


 すると、突然エルは俺の手を離し、ステージの方に向かう。そのステージに乗ると勢いをつけて飛び、何度か回転する。


 その影響で、美しい青い髪が激しく光を反射する。その姿はまるで、水面の上を舞う天使のようだった。


 なぜだか、つかまれていない右腕が寂しかった。


 この気持ちに俺はだんだんと気づいていた。


「ねえ。カケル」


 彼女は微笑み、こちらに言う。


「……今日の私って、なんだか物語のヒロインみたいに綺麗かな」


 本当に……その少女は……。


 美しかった。


「ああ……」


 俺はこの気持ちを心の内で言葉にしていく。思えば、俺は憧れていたのかもしれない。


 要領が悪くても、必死に問題に立ち向かうこいつの姿に引きつけられていたのだ。


「きっと……そうだ」


 俺は、この人のことを好きになってしまっているんだ。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 腕をつかみ、劇場に向かう。そして、彼の隣の席に座る。


 この時、私は後悔をした。つかむ腕を間違えたのだ。


 もし左手をつかんでいたら、脈がわかり、彼が私のことをどう思っているのかが簡単にわかるからだ。


 …………。


 いや、本当はあえて右腕をつかんだのかもしれない。


 彼の気持ちに気づくのが怖かったから。


 でも……。


 せめて……彼が私をどう見ているのかを知りたい。


 そう思い、手を離す。そして、ステージに走る。


 ……あまり運動は得意ではないが、それでも彼に良いところを見せたい。


 そのステージの上で、美しく舞いたい。舞って彼を魅了したい。


 バっ! ダっ!


 何回か、回転し、地面に着陸する。その時の動きはなんだか、ぎこちないように思えた。


 それでも、彼に問いかける。


「……今日の私って、なんだか物語のヒロインみたいに綺麗かな」


 知りたかった。あなたがどう思っているか。


「……ああ。きっと……そうだ」


 彼は微笑み、こちらに近づく。


「……行くぞ」


「……へ?」


 そして、私の腕をつかむ。その左手で。


「ちょっ!」


 彼は走り出す。私を連れて。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「カケル! 待って! どうしたの?」


 彼は私を連れて、街を出ていく。そして、森を超え、草原を越え、その場所にやってきた。私はその風景を眺める。


「……これって?」


「ギルドの依頼をやっている時に見つけたんだ」


 そこには一面、花畑が広がっていた。日の光を浴びて光るその景色に、うっとりと見とれてしまった。


「すっげえ、綺麗だと思わないか?」


「……うん。すごい」


 生まれてから、街の近くにこんな場所があるなど聞いたことが無かった。


「…………」


 思えば、左手で腕をつかまれてしまった。……気持ちに気づかれてしまっただろうか。


「なあ……エル」


「…………なに?」


 そのあとの言葉を予測するのが、怖かった。何か、私が拒絶されるようなことを言うのではないかと……。


 耳を塞ぎたい。しかし、私は決めたんだ。


 彼が私のことをどう思っているか、それをちゃんと聞くんだって。


「……この花畑よりもお前の方が綺麗だ」


「…………へ?」


「それを確かめに来たんだ。今のお前、最高に綺麗だぜ」


 体に熱が伝わってくる。


 それはつかんでいる腕からだけではない。周りの空気がそれを伝えた。


 暖かかったのだ。その言葉が……。


 そのせいか、つい笑顔がこぼれる。もしかしたら、目が潤んでいたかもしれない。


「カケル……」


「ん?」


 ずっと伝えたかった。ずっと……それを……。


 あの日、あの夜からずっと伝えたかったその言葉を。


「私を助けてくれて、ありがとう」


 花畑に風が吹き、花びらが散る。


 その空には、青い空が広がっていた。

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