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第7話 聖なる料理とは

「金トリュフ、1000タルで引き取ります」


「マジで!」


 エルがその金額に驚いていた。俺たちは今、質屋に来ている。


「どうしたんだ? エル」


「どうしたもこうしたも無いわよ。1000タルって、けっこう高いわよ。それなりのパソコンが一つ買える値段よ!」


「へえ」


 まず値段よりも、パソコンがある方に驚いていた。中世ヨーロッパ壊れすぎじゃね?


 いや、おそらく日本円で十万円ぐらいなのだろうか? だとしたら、良い収穫になったなあ。


 ふごっふごっ


「おー。よしよし。お前のおかげでうまく暮らしていけそうだ」


 すると、その豚は俺の脚に擦りついてくる。


「なあ。お前、あの変態女王様が来るまで俺と一緒にいないか?」


「ふご?」


「まあ、強制はしないが……」


「ふご!」


「おお。一緒にいたいか! ならいいだろう! ところでお前の名前は何て言うんだ?」


 すると、脚に何か紙が巻き付いているのがわかる。どれどれ……。


「……M太郎?」


 ふん!


 俺はその紙を引きちぎる。その様子にエルが驚いていた。


「なに? ……急にどうしたの?」


「いやあ、名前がどこにも書いていないなあ。じゃあ新しい名前を考えないとなあ」


 エルは俺の行動に違和感を感じていたが、そんなに気にせず豚ちゃんの名前を考える。


 エルが名前を出してくる。


「……トンカツとかどう?」


「食う気満々だな。まあ、別に悪くはないか……」


 俺はトンカツを抱え、質屋を出ていく。エルもそれに着いてくる。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 エルと分かれた後、俺はギルドに依頼状を戻し、教会にやってきた。


「シスターさん、いるかな……」


 昨日、見習いの子に会い、その子に壁へ固定された後、誰も来なかったことからシスターさんは外出していたのがわかる。でなければ、その子はシスターさんに助けを呼んでいたはずだ。


「……豚も一緒に泊まること、許してくれっかな……」


 俺は教会の扉を開けようとする。その時……。


 バタッ!


 ガシッ!


「…………あ?」


 俺は扉から出てきた手に腕をつかまれていた。


「…………え?」


 その手は俺を教会の中に引きずり込む。トンカツは外に置いたままだ。


「ぐおっ……」


 俺は壁に貼り付けられる。腕が壁に固定されていた。


「急に何しやがんだ!?」


 ピシッ


「…………ん?」


 目の前には修道着を来ているシスターがいた。頭巾の隙間から除かせる紫の髪が特徴的だった。


 てか、女だよな? 女にしては胸が無いように思え……。


 ピシッ


「ひっ……」


 その女はその手に硬そうな杖を持っていた。それを手に叩き、軽く音を出している。


「あなたですね? ……うちの見習いの子にセクハラをしたのは……」


「セク……ハラ……?」


 ああ、そういえば昨日その子に服を脱げ……と言っていたのだった。


「頼む! 決して悪意があってやったことじゃないんだ!」


「……その証拠は?」


「友達にエルって奴がいるんだ。そいつに聞いてみてくれ」


「はあ……」


 そいつは大きくため息をつき、話し出す。


「その人なら、さっきここに来て教えてくれましたよ。どうしようもない変態だって……」


「へ?」


 なん……だと……!?


「そのエル……という方に事情を聞いたところ、カケルというオムツの変態と、ウィルという明らかなロリコンが仕組んだ計画だったようですね。すごく参考になりましたよ」


 あの野郎。俺たちを売りやがった。


「それに……あなたはとても信用ができない……」


「え?」


「確か、ギルドの試験では14歳の少女にふしだらな発言をしたとか……」


 がはっ!


 なんだろう……。この感覚は……。


「他にも、女性をドラゴンや鞭を使って脅して調教したりしたとか……」


 ぐへっ!


 今までしてきたことが全部自分に返ってきているような……。


「あなたは……女性の気持ちを考えたことがあるのですか?」


 …………何も言い返すことができない。


「あなたに女性の何がわかるって言うんですか!?」


 …………。


 …………。


 …………ポタッ


「え?」


 俺は自分の目から涙が落ちているのに気づいた。


 それにこの女性も驚いていた。


「……何を……泣いているのですか……?」


「いや、俺……実は何回も転生とか、転移とかしていたんすけど……その中で女に転生したことがあったんす。だから、少しだけど……気持ちわかるなあって……」


 そう……その時に俺は感じていたはずだ。女だから、つらかったことを……。


「すみません……。わかっていたのに、ひどいことばかりしちゃって……」


「…………」


 パカッ……


 その時、固定されていた腕が自由になる。


「え……」


「……わかれば良いのです。私の方こそやりすぎました」


 ……おや。


 もしかして、この人良い人なのでは?


 いや……素直に感動してんじゃねえよ。俺! ひょっとしたらこの人だってやばい人かもしれない。


 まずは……心を読んでみるか……。


――私はこの人を誤解していたようね――


「本当にすみませんでした」


――何かしなければ……――


「どうか、私に何かさせてください」


 考えていることが……普通だ!


 まさか、この人はマジで良い人なんじゃないか? この世界で初めてマトモな人間に会えたんじゃないか?


――私は……私は……――


「私にできることならなんでもしますので……」


――男っぽい女の子……めちゃくちゃ可愛い。想像しただけでも舐めたくなってきた!――


「俺の感動を返せよ」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「……本当に料理を作るだけでいいんですか?」


「ああ。別に構わない」


 俺はこの人に料理を作ってもらっている。この人はこのタナーカ教の教会でシスターをやっている。名前はレイラさんだ。


 実は表には出さないが、女の子が好きという人間……なんだよなあ。


「ねえ。オムツのお兄ちゃん」


「オムツのお兄ちゃんはやめてくれ」


 この子は昨日、今日と、変態行為を受けた見習いの少女、ジル。


「カケルさんは今までどんな世界を回ってきたの?」


「そうだなあ。犬ばっかりの世界とかに行ったこともあるよ」


「へえ。すごいなあ」


 ああ! なんだこの感覚は! 普通の少女と触れあえることがこんなにも素晴らしいことだったなんて……。


 これではまるでウィルみたくなってしまう。


「できましたよー」


 そう言っていると、レイラさんが俺たちに料理を出してくる。


 ……料……理……?


「レイラさん……これは?」


「何って……カレーですよ?」


 そこには黒と青と闇を足して2で割ったかのような未知の物が出来ていた。


「…………」


 レイラさんはさっきまでとは嘘のように清々しい笑顔をしている。こんな人の前で料理が不味いと言う勇気が俺には無い。


「おいしー!」


 ジルちゃんは普通に食っていた。まさか、この子は味音痴なのか?


 いや、そんなことは無い! きっと見た目がやばいだけで味はおいしいんだって……。


 大丈夫……だって……。


「俺はまだ生きるぞ!」


 パクっ


 …………。


 …………。


 …………あれっ。体が動かない。


「カケルさん? カケルさん?」


 なんだろう。だんだん意識が遠くなっていく。


「カケルさん! しっかりして!」


 ああ。どんどん深くなっていく。


 声が……聞こえない。

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