表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/113

第71話 自分のことはよく見えないものである

「こんにちは……カール先輩」


「よお。ウィル」


 僕にとって、その人物は騎士学校時代からの先輩だった。彼は僕の隣に座る。


「まさか、教師をしてるなんて」


「まあな。ところで、お前の方はちゃんと騎士として働けてんのか?」


「うん。今じゃあちゃんと……」


 この人の前で、あまり騎士の仕事の話をする気持ちになれなかった。


 カール先輩は、かつて国直属の騎士として働いていた。よく仕事で一緒になる時もすごく助けてくれた。


 でも、ある時、邪神と呼ばれる人間を相手にした時、脚に怪我をしてしまった。その影響で、騎士をやめなければならなかったのだ。


「大丈夫だっての」


「…………え?」


 カール先輩は明るく話してくれた。


「確かに、騎士として働いてた時は楽しかった。その分、怪我でやめなくちゃならなかった時は本当に絶望した。でも、その時のことがなけりゃ、今、こうしてアホな生徒どもや先生たちに会えなかったんだ。だから……結果的に良かったんだよ」


「カール……先輩……」


「今では……少しあの邪神に感謝してるレベルだ」


「……それはポジティブすぎなんじゃないですか?」


 そんな会話をしていると、ステファニーが近寄ってくる。


「二人は知り合いだったんだな」


「そうだよ」


「へー」


 ステファニーはニタニタ微笑みながら、こちらを見る。


「どうしたの?」


「いや……良さそうな先輩がいたんだなあって」


 すると、カール先輩がステファニーに話しかける。


「へえ。お前、なかなか可愛い顔してんじゃねえか」


「……へ?」


 ステファニーは言われたことをすぐに理解することができなかった。


「ふえ!?」


「なんなら、俺がもらっちまおうか?」


 これには僕も怒らずにいられない。


「ちょっと、先輩。僕の彼女に手を出さないでください」


「ふえっ!!?」


 ステファニーはまたもや驚く。どうやら、こういうことを言う僕に驚いているようだった。


「あ? んじゃあ、勝負と行くか? どっちがこいつを幸せにできるか。試してみるか?」


「ええ。いいでしょう! でも、僕が勝ったら、ちゃんとステファニーから手を引いてくださいね」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 ギルドで食事を済ませたあと、ルルと話す。


「んで? 最近、調子はどうだ?」


「……何の調子ですか?」


「いや、特に決めた調子じゃないが……。最近、何かあったか?」


「そうですねえ」


 ルルは頬杖をつきながら、話す。


「チェナやトンカツちゃんと市場に出掛けたぐらいですね。なかなか楽しかったですよ」


「ふーん」


 どうやら3人で遊んでいるらしい。トンカツのあの性格は少し心配だったが、仲良くやれているなら良かった。


「いやあ、あのお爺さんの売る本にはセンスがありますね。つい私とチェナは見とれてしまいましたよ。でも、なぜかトンカツちゃんは見ようとしませんでしたね。なんででしょう」


 前言撤回。ものすごく心配になってきた。


 そういえば忘れていたが、こいつは普通ではなかった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ……なんだか、大きな声が聞こえてくる。


「うおりゃああああああああああああああああああああ!」


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 どうやら、ウィルとカール先生がうで相撲をしている。その二人を交互に見つめるステファニー。


「わっ……私のために争わないで!」


「あいつ。あれ言いたかっただけだろ」


 そして……。


「ふんぬ!」


 ウィルがカール先生の腕を押し倒し、勝利する。


「やったあああああああ!」


 腕を上げ、勝利をよろこぶウィル。


「うっひょおおおおおおおおおおお。ルルちゃん。ありがとおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 最後のが余計だったのか、ウィルのことをにらみつけるステファニー。たぶん鈍感なウィルは気づいていないが、あれは嫉妬の眼差しである。


 ……いや、さすがにあれは気づけよ。


「……ウィル」


「ん? どうしたんだい? ステファニー」


「……なんで、オレが怒ってるか……わかる?」


「…………ん???」


 そう言い残すと、ステファニーはギルドの外へ出ていく。


「ちょっ……待って! ステファニー! なんで怒ってるの! ステファニー!?」


 焦るウィルはステファニーを追うために、ギルドを出ていく。


 まあ、あの二人ならすぐに仲直りするだろう。


「……あの。カケルさん」


「……どうした?」


「カケルさんって彼女作らないんですか?」


「…………」


「…………?」


 作りたい気持ちはもちろんあるのだが。


「できると思うか? 俺に」


「……それ、聞いちゃいます?」


「うん」


 正直、作れる気がしない。


 いや、さすがに4000年生きて、できたことはある。


 しかし、その思い出がひどい物である。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「ねえ。カケル」


「ん?」


「あなたって、なんでそんなに鈍感なの?」


「…………え?」


「今……ヤリたいの」


「…………は?」


「もう……あそこがムズムズするの」


「ちょっと待て! 俺たちまだ付き合って3日なんだけど!」


「我慢……できない……」


「……ん?」


「ここであなたの初めてを奪ってやる」


「……ちょっと! 落ち着け! ああああああああああああ!」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「必死の抵抗の末に……俺は逃げ切った。それが13回目あたりの世界だった」


「……よくその話、14歳の少女に向かって言いましたね」


「今、思えば、抵抗しなけりゃ良かった」


「正直すぎて、いっそ清々しいです」


 さすがにあんな変態の女はいないだろうが、それ以来恋愛に関してはトラウマである。


 唯一好きになったのは、サエぐらいなものだ。


「そういえば、カケルさんは何をやっていたんですか?」


「……俺か?」


「ええ。学校で働いて何をしていたんですか?」


「そうだなあ。……生徒たちに勉強を教えたぐらいだな。あと、放課後はエルとよく図書館にいたなあ。結構情報が集めやすいから、勉強が進みやすいんだよ」


「…………」


「……ん? どうした?」


 なぜか、ルルは立ち上がる。


「……ん!」


「……え?」


 俺は腹に蹴りを入れられ、地面に倒れ込む。なんだか、尋常じゃないほどの痛みだった。


「…………」


 ルルは無言のまま、ギルドを出ていく。急にどうしちゃったの? あの子。


 俺のところにアグネーゼが歩いてくる。


「……カケルのお兄さん。あなたも大概ですよ」


「……何が?」


 いろいろと理由がわからないままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ