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第70話 どんな腕でも……

 あの事件が起きてから、魔法学校はしばらく休みになった。そのため俺のバイトも、一時的に終わりにすることになった。


 バイトが再開する見通しは今のところ経っていない。


 そして、俺は久しぶりにギルドにやってきていた。


「水、飲みたいな」


 俺は機械の右腕をグラスに向ける。すると、手首の部分が折れ……。


 ウィーン。じょじょじょっ


 なんと、この腕、水筒の代わりに!


「…………」


 水をついだグラスを口に運び、一気に飲みほす。今では、この義手もけっこう慣れてきた。


 今のところ、半分以上の機能が本気でいらないのが問題である。


「あっ。カケルさんじゃないですか」


「おう。ルル」


 思えばバイトが忙しくて、こいつと会うことも少なかった気がする。


 ウィーン。じょじょじょっ


 俺は水の入れたグラスを差し出す。


「まあ、飲んでけよ」


「ナチュラルにすごいことやってますよね。それ」


「……生身の腕が恋しい」


「なんか、そんな気持ちが伝わってきますよ」


 隣に座るルル。そして、水を飲みほす。


「……でも、最後にあなたの本当の腕に触れないのは、なんだか寂しい気もしますね」


「……触る? まだ左手残ってるよ?」


「いや、同情で言っただけなんで、やめてください。なんか、変なことされそうなので……」


「……そんなに言うなら触っちゃおうかなー」


「そんなことしたら両腕機械になりますよ?」


「ごめんなさい。マジで反省してます」


 バタンっ!


「ロリっ子に触ると聞いて!」


「どっから沸いたし」


 ウィルがギルドの入り口に現れる。


「まったくー。皆のルルちゃんを独り占めしちゃだめだよカケr」


 グイっ


「……ん?」


 ウィルの足にロープが引っ掛かったようだった。


「うおっ!」


 ビュンっ!


 倒れそうになるウィル。そいつを脇に抱え、捕まえるステファニー。


「なあ。ウィル。そろそろ懲りた方がいいぞ?」


「……え? まだ何もしてな」


 そして、同じようにギルドの中に入ってくる少女が一人。


「ステファニーお姉ちゃん。今日は35秒だったよ!」


「おお! 新記録じゃないか!」


 アグネーゼがその数値が表示されたストップウォッチを手に持ち、やってくる。


 ……ついにウィルを捕まえるのにタイムを計り出したようだ。


「……あっ」


「……ん?」


 アグネーゼがこっちに気づくと、めちゃくちゃにらんでいる。


 ああ。これ、実はビッチじゃないこと言ったら殺されるパターンだ。こういう目で何かを伝えてくるところはエルに似ている。


「ところで、カケル君。その義手はどうだい? うちの母の技術はすごいかい?」


「……とりあえず、今度半分ぐらいの機能はずしてもらうように頼むわ」


「ははっ。了解」


 バタンっ!


「かっこいい機械があると聞いて!」


 元気そうに入ってくるチェナ。


「お前はまた単純な理由でここに来たな」


「フッフッフ。ワレがここに来たのではない。ここがワレを導いたのだ」


 何を言っているんだ? こいつは。


「チェナちゃああああん! ぼえっ!」


 ステファニーに殴られ、おとなしくなるウィル。そういえば、いつもは別の人物がこういう目にあっていた気が……。


 まあ、どうでもいいだろ。


 そんな中、ルルが俺に質問してくる。


「ところで、カケルさん。今日はなぜギルドに来ていたのですか?」


「ああ。実は待ち合わせしてんだよ。ここで……」


「……?」


 すると、ちょうどその人物たちがやってくる。俺はその人たちを出迎える。


「ようこそ。カール先生。レティシア先生」


「いやあ、悪いな。なんか誘ってもらっちまって」


「でも、たまにはこういう息抜きも良いですね」


 俺はみんなに二人を紹介する。


「みんな、この人たちは俺の働いていた学校の先生だ」


「よろしく!」


「よろしくお願いします」


 二人があいさつをすると、みんなも出迎えてくれた。


「わあ! 先生って、なんか頭良さそうですね!」


「うん! かっこいいぞ!」


 そんな中、ステファニーとアグネーゼだけ、なぜか固まっていた。


「どうした? お前ら」


「……レティシアの……姉貴?」


「…………あ?」


 今、たしかステファニーは……姉貴……と言っただろうか。


「え?」


 すると、レティシア先生はこちらに歩いてくる。


「いつも妹たちと仲良くしていただきありがとうございました。長女のレティシアです。よろしくお願いします」


「…………は?」


 一瞬、状況が飲み込めない。


「ええええええええええええええええええええええええ!」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「まさか、あの七姉妹のうちの一人だっただなんて」


「まあ、話す機会が無かったので仕方ないですよ」


 しかしまあ、七人の姉妹のうち、まだ会ってないのは次女と三女なんだが……。


「その二人はどういう人なんですか?」


「…………」


「え?」


「次女は社畜です。三女は……言いたくありません」


 なんだろう。残り二人もマトモじゃない気がしてきた。


「……ところで、なんで私たちは呼ばれたんですか?」


「いや、なんていうか、その」


 なんだろう。なんかあらためて言うと恥ずかしい。


「ありがとうございました」


「…………?」


 その時、レティシアさんは意外そうな顔をしていた。すると、やがて状況を理解する。


「そういう……ことだったんですか」


「ええ。ちょっとお礼がしたくて……。何か食べたい物があったら言ってください。この前は助けてもらったので」


「そんな……助けてなんか無いですよ。むしろ、あなたに協力してもらって……」


「いや……」


「…………?」


「本当は、俺がこの世界にやってきたから起きた出来事だったんです。だから、責任は俺にある」


 そう……俺に……。


「……いえ」


「…………?」


「ちゃんとタクロー君を説得できなかった私たちも悪いのです。だから……」


 レティシアさんは今まであまり見せなかった笑顔で言う。


「今回は、半分ずつ悪いことにしましょう。そして、一緒に楽しみましょう」


「…………」


 そんなレティシアさんはなんだか今まで見た中で一番美しいように思えた。


 そんなレティシアが見れて、俺は嬉しかった。


「そう……っすね」

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