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第69話  シャーロット先生の診断

 図書館を出て、崩れた校舎を目前にすると、いろんなことが不安になった。


 そして、寝ていた生徒を通りすぎると、そこにはあの男が倒れていた。


「……カケル」


 私はカケルの側に近づき、その体を抱きかかえ声をかける。


「大丈夫? カケル」


 すると、カール先生がこちらに向かってくる。


「……どうやら、気を失ってるみたいだな。あばらとか、右腕とか、結構ダメージはでかいだろうよ。まあ、そろそろ救助隊が来て、助けてくれるはずだ」


「……そう……ですか」


 私はあらためてカケルの顔を覗き込む。


 そのカケルの表情はなんだか穏やかな雰囲気が感じられた。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「根元魔法ねえ。噂でしか聞いたことが無かったから、初めて見たよ」


「…………」


 シャーロットさんがカケルの顔を見て、考えている。なぜ救助隊と一緒にこの人もいるのだろうか。


「……物体の状態を変える魔法。主に、気体、液体、固体の三態を自由に変えられる。それが根元魔法『タレスの選定』なんじゃないかな」


「……それって普通の変形魔法と何が違うんですか?」


 彼女は少しニヤつきながら、話し出す。


「まず、普通の変形魔法ってのは、固体から固体に変形させる魔法のことさ。それなら、重心からの距離から重心からの距離、一定の値から一定の値に変化させるだけだから、計算が楽なんだ。でも、『選定』は固体から液体、気体に変化させるから、スーパーコンピューターを使うレベルの演算をしなくちゃいけないんだよ」


「……ふうん」


 きっと、カケルだからこそできた魔法なのだろう。


「そうとも限らないよ」


「へ?」


「たぶん、カケル君だって複雑な演算を行うぐらい極限状態だったんだよ。きっと……。だから、カケル君に限らずとも、死にかければできるんじゃないな。あははっ」


 ……なんか、笑いながらすごいことを言っている。大丈夫だろうか? この人。


「さて、そろそろ彼には起きてもらわないと……」


 グイっ!


 シャーロットさんは容赦なく、右腕の傷口に肘を押し込む。


「……いてええええええええええええええええええええ!」


 カケルは叫びながら、目覚める。


「何しやがんだよ!」


「あらっ。少し起きてもらおうと思って」


「もうちょっとやり方ってものがあるでしょうが! あんたが出てくる度にこの作品のシリアスさんが息しなくなるんだよ!」


「……ちょっと待って」


 なぜかシャーロットさんは校舎の方に耳を傾ける。


「……うん。前回、たぶんシリアスは一回クロト君の頭の中で撃ち殺されてるから大丈夫だよ」


「メタいこと言うなよ」


 メタい……はよくわからないが、クロトが何か関係しているのだろうか。


「ところで、カケル君」


「……はい?」


「君がやってた根元魔法で、この壊れた校舎を直せるんじゃないかな」


「いやいや……さすがに難し」


 プスっ


「…………え?」


 シャーロットさんの何かの薬を打ち込まれるカケル。


「おいおい。そんな程度の薬じゃあ、俺を死にかけの状態にすることはできないぜ」


「あっ……今打ち込んだのってレイラちゃんの料理だから」


「すっごーい! どんどん脳細胞が死んでくぞー!」


 さすがにレイラさんの料理は効いたのか、カケルは白目を向いている。


 そして、地面の土が一度液体に変わり、校舎の方に向かう。


「おお!」


 校舎がどんどん治っていくところに私は感激する。


「すごいよ! カケル!」


「……待てよ! 今なら、女湯と男湯の壁も取っ払うことができるんじゃないか?」


「悪用するな!」


 校舎が直ると、シャーロットさんは別の薬をカケルに打ち込む。


「今度はレイラちゃんの料理を解毒する薬を入れたよ」


 今、この人、完全に()()って言ったな。


「うへえー」


 なぜかカケルは笑顔になり始める。きっとそれぐらい頭がおかしくなってしまったのだ。


「……かわいそう」


「おーい。エル。なに憐れんだ視線を向けてるんだい?」


 カケルは突然、真剣な顔になり、シャーロットさんの話しかける。


「たぶん、校舎はそれなりに頑丈だけど、念のため専門家に見てもらって……」


「うん。わかったよ」


 それにしても、根元魔法というものは便利なんだなあ。カケルが死にかけた時にしか使えないのが、もったいないぐらいである。


 すると、カケルはブルーシートで隠された右腕に興味が向く。


「いやあ! ところでシャーロットさん! さっきから腕の感覚が無いんすけど……なんでですか?」


「…………」


「……え? なんで喋ってくんないの?」


 カケルはこちらを向く。すると、私は目をそらす。


「なあ、エル」


「…………」


「なんで目を合わせてくれないんだ?」


 カケルはどんどん焦ってきたのか、汗を流す。


「いやいや、だっとシリアスさんは今お亡くなりになられてるでしょ? なら、簡単に腕だって治ってるっての。そんな……まさか……」


 慌ててブルーシートをはずす。


「…………」


 ウィーン。ガシャン。ウィーン。ウィーン。


「……え?」


 そこにはメタリックに光る腕があった。


「…………シャーロットさん?」


「…………」


「これは?」


 その質問にさすがのシャーロットさんも顔を青ざめながら答える。


「実は……前の腕が、本当に使い物にならなくなってたから……その……ちょっと便利な腕を…………」


「…………え?」


 カケルは一瞬状況が読み込めてなかった。


「またまたー。いやあ、よくできた腕だなあ。たぶんどっかにめくれるところがあって、それめくると普通の腕に大変身……だろ? まったく最近のドッキリは手が込んでるなあ」


 カチっ


「……ん?」


 何かのスイッチを押したようだった。


 パンっ!


 すると、手首の部分が折れ、その中から小さな旗が出てくる。そして……。


『おめでとう! 君の腕は機械の腕に進化したよ!』


 ……と、シャーロットさんの裏声が流れる。


「……って……」


 カケルはプルプル震えている。


「なんじゃこりゃああああああああああああああああああ!」

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