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第63話 復讐を胸に秘めた者

「先生! 大丈夫なんですか!?」


 マリアは必死にシャーロットに問いかける。


「まあ、心配しなくて大丈夫だよ。私はこう見えて、この国じゃあ一番の医者だからね。ちゃんと腕はくっついたし、そのうち目覚めるでしょう」


 シャーロットはカケルの体よりも、その体を傷つけた矢の方が気になった。


「……これ、まだ未知の魔法が施されているね。いや、魔力を感じないことから、魔法であるかも怪しい」


「そう……なんですか?」


「おそらくトラウマを呼び起こす力……かな。それの影響で、彼はまだ目覚めないんだよ」


「……トラウマ……」


 ベッドに横たわり、右腕に包帯を巻かれた少年がそこにいる。


「うん。カケル君の場合、きっと今まで苦しい思いをしたことが多かったんじゃないかな。おそらく眠っているのもその影響だと思うよ。長年生きた影響がまさかこんなところで出てくるとはね。おそらく矢を撃った相手はこれを」


 体の調子は治ったとはいえ、カケルの表情はいまだに深刻な雰囲気を醸し出していた。何を思い出しているのか、それはマリアにはわからなかった。


「……師匠」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 ……何も聞こえない。


 そんな中で、俺は何かをつかむ。


 これは……光?


「そうか……」


 きっと、この光は俺の記憶の断片だ。今までだって、この光をつかみ取っていたのだから、すぐにそれだとわかった。


「ああ……」


 その記憶は俺にとって、最も悔しい記憶だった。


「ああああああああああああああああああああああ!」


 それは……俺がある国で王子だった時の記憶だった。そして、王宮を抜け出し、そこへ行った。


 それは……。


「獣人族の……集落だ……」


 俺は森で迷って、そこにたどり着いた。そこで、いろんな人と出会って、優しく接してもらった。


 ……アンジェリカ。


 彼女は赤茶色の髪を持ち、猫のような耳を持った少女だ。


 その子と、俺は仲良くなった。草原へ一緒に遊びに行ったことも覚えている。


「…………」


 でも、そんな楽しい生活は、長くは続かない。続くはずが無かった。


 俺が王宮に戻る時、うっかり兵士に見つかった。そして、俺が戻った時の足跡から王国に獣人族の集落が見つかってしまった。


「……ああ……あああ」


 当時の俺は知らなかった。獣人族が国から殺害対象になっていることを……。


「あああああああああ」


 知らな……かったんだ。


 彼女たちは……やがて惨殺された。俺が居場所をバラしてしまったがために……。


「……ああ……あ」


 それから、理不尽な世界を恨んだ。そんな世界を変えられない自分を恨んだ。


 そして、最後に理不尽を生む親父を恨んだ。


 なんで……獣人だからといって差別されなくちゃいけなかった。


 なんで……優しい人たちが殺されなくちゃいかなかった。


 なんで……アンジェリカは守ることができなかった。


「ああああああああああああああああああああああああ!」


 それから、俺は父を殺そうとした。


 たぶん、気が滅入ってたんだと思う。人を殺すのに、ためらいというものが無かった。


 それぐらい、すべてのものを恨んだ。


「……ごめん……アンジェリカ」


 結局、何もかもが親父の思うままだった。気が狂った俺はすぐに親父に殺された。


「……ちくしょお(ごめんよ)……」


 俺は……。


「……俺なんか(彼女こそ)……死んでほしかった(生きてほしかった)……」


 あああああああああああああああああああああ!


「……なんで……」


 どうして……。


「……いつまで……」


 どれだけ……。


「誰かを恨み続けなければいけないんだ」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 …………。


 目を覚ますと、そこは病室だった。


 夢の中でトラウマを思い出した……ということは、あの矢はきっと神の使いからの攻撃だったのだろう。


 あの能力は記憶操作の能力だ。そうとしか考えられない。


 まったく……神の使いへの警戒を怠ってしまった。一番注意しなければいけない相手だというのに……。


 それにしても……。


「…………」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、ちょう痛い!


「やあ。やっと起きたかい」


 シャーロットさんは俺の右腕に指を押し込む。


「あ痛たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!」


「うん。ちゃんと神経が通ってるから大丈夫だね」


「ちょっと待って! 俺、今、いろんなこと思い出しちゃってセンチメンタルな気分だから! あんまりひどいことしないでね! そろそろ泣いていい!? てか、突然のシリアスに体が着いていけてないんだよ!」


「もう……男らしくないなあ。ちゃんとしなさい。……じゃないと、そこの子に嫌われるよ」


「……そこの子?」


 俺は自分の左手を握る感触に気づく。その方向を見ると、あの王女様が寝ていた。


「……う……ん……」


 もしや、怪我をしたのを自分のせいだと思って……。


「その程度のことじゃないと思うよ。彼女はもっと大きな理由で君のそばにいるんだよ」


「……さりげに思考を読まないでください。だから、あんた息子にモンスターって言われるんだよ」


「ははっ。それは初耳だね。後でウィル君とお話しないと……」


 ああ。ごめんよ。ウィル。


「それよりも、少しはマリアちゃんに感謝した方がいいよ。君が怪我をした時だって、真っ先に彼女が私を呼んだんだから。きっと、目の前で人の腕がふっとんで怖かったと思うよ」


「そう……っすね」


 下手したら、大量出血で死ぬレベルだったからな。そんな俺を的確に助かるように導いてくれたマリアに。


 感謝をしてもしきれない。


「……まあ」


 俺は俺の心に誓ってやる。


「まあ、お前の側に誰かがいなくても……俺だけは一緒にいてやるよ」


 …………。


「さて……ところで、今は何曜日っすか。なんか、五日間ぐらい眠った気分なんすけど……」


「何を言ってるんだい? 今日は日曜日……いや、もう日をまたいだから月曜日か。朝になったら、君、出勤だよ」


「俺だけ、他の異世界の主人公に比べてブラックすぎない?」

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