第61話 王様、対、王様
相手の雰囲気もわかり、俺とアーロンは王様のところに向かう。
「ねえ。カケル。君は怖くないのかい?」
「え? 何が?」
「だって、相手は王族だよ? ちょっとでも無礼なことしたら大変な目に合うよ?」
「まあ、大丈夫だろ」
俺を誰だと思ってる。
何度も異世界を旅してきた男だぞ? 今さら王族だとか貴族に対して怯えるほど未熟じゃない。
まして、相手はマリアの父親。頑張れば、蹴りを入れられる。
「んじゃあ、そろそろ行くか」
「うん」
俺たちはだいぶ歩き、王宮の中心部に位置する部屋の前にたどり着く。そこには大きな扉が立ち塞がっていた。
「よいしょっと」
「ええ!」
俺はいとも簡単にその扉を開ける。
ドーンっ!
そこにある黄金に輝く椅子に座る男が一人。
「……ほっほっほ。これは知らない客が来たなあ。アーロン。あまり勝手なことはしてほしくないのだが……」
「ええ。まあ」
金色の髭を動かし、話し出す。
「いやあ、やっと娘の結婚相手を見つけて気分が良いんだ。だから、今じゃあどんなことも許せるのだよ。それで? その人は誰かな?」
俺は王様の前に歩き、ひざまずく。
「お初にお目にかかります。王様。私は異世界からやってきたカケルと申します」
「ほう。異世界から」
「はい。今では約350個の世界を旅して、数多くの文化を目にしてきました」
「……ふむ。なかなか興味深いことを言うのお」
「そうですね。こちらをご覧いただけると嬉しいです」
俺は豆電球、レモン、銅貨、亜鉛の破片、アルミニウムの導線を生成魔法で作り出す。レモンに銅貨と亜鉛を差し込み、導線で豆電球に繋ぐ。
すると、豆電球は明るく光り出す。
「おお! これは、魔力をまったく感じないが、どうなっているんだい?」
「いえいえ。これは化学と呼ばれる異世界のちょっとした小技ですよ」
やはり、この世界では魔法がよく用いられる代わりに化学面においては疎いのだ。
ゲーム機が魔法で動いていること、学校の授業で力学はあるのにそれ以外の現象はすべて魔法で解決されていることから、これはわかる。
このように結構簡単に作れる電池は逆に珍しいのだ。まあ、明らかに魔法の方が便利なため、あまり利便性が無いのだが。
国王を驚かせるには十分だろう。
「……これは驚いた。異世界ではこんなものがあるのか」
「ええ。しかし、この世界に来て学んだことも数多くあります。魔法は別の世界にもありましたが、この世界特有のものも見て、とても勉強になります。ですが……無礼を承知で言います。この世界の文化は非常に古いのです」
「……なに?」
ここまでは順調だ。豆電球を見せたことで、話に説得力を持たせた。
「私が巡ってきた世界では、王政というものが存在しない世界がありました。その世界は活気にあふれ、民が幸せに生活していました。ですから、この国の政治は多少遅れている……と考えているのです」
「遅れている……だって?」
「ええ」
よしっ……食いついた。俺の考えでは、この人は決して独裁を好んでいるわけではない。
独裁者ならば、まず王宮には簡単に知らない人間を上げないように警備を厳重にするはずだろう。
それに、化学なんて不可解な現象を使う人間を野放しにしておいたら、自分の立場が危ういと考えるはずだ。それなのに、この王様は逆に化学に興味が沸いている。むしろ、それを国の発展のために使い、国民に豊かさを与えるつもりなのだろう。
そんな王様に民主制を進める。今すぐ独裁制をやめさせるほどまではいかないとは思うが、少なくともマリアの結婚を先送りにするのには十分なはずだ。
「このお考えをどう使うかは王様しだいです。ですが……一つだけ意見を言わせてもらってもよろしいでしょうか」
「……言うがよい」
俺は勇気を振り絞ってそれを言う。
「マリア姫の結婚についてもう一度お考えいただきたいのです」
「…………」
王様は少し黙り、やがてそれを言う。
「悪いが、それはできない。娘は必ず結婚させる」
その言葉を予測できなかった。ここまでの理由を述べて断る理由を俺は見つけられなかったからだ。
「なぜ!」
「これは決定事項だからだ!」
「…………」
何も言えなかった。
何も言えない自分に腹が立ってきた。なぜ、王様の考えていることがわからない。
俺は全力で思考を巡らせる。その時だった。
「お父様!」
扉を勢いよく開け、マリアが入ってくる。
「わたくしも、結婚には反対です!」
「……なぜだ? 言っておくが、あの男は非常に良い男だぞ?」
「そんなことはありません! あんな(相手を責めることもできない)男は私の望む(非常に容赦ない)人とはほど遠い人物です。私の求める(もっとゾクゾクさせるような)人じゃありません! だから、結婚など(激しいプレイができない状況)は嫌です!」
ああ。なぜか、こいつの言っていることが違う意味に聞こえる。俺もだいぶ洗脳されているなあ。
「悪いが、お前の意見など聞くことができない」
「…………」
だんだんと自分だけじゃなく、この王様にも怒りが沸いてきた。なぜ、娘の意見を聞いてやらない!
「…………っ!」
俺が口を開こうとした瞬間だった。
「お前のような変態など! 結婚できる相手が限られているだろうが!」
…………。
「…………え?」
王様のその言葉はその場の人間全員を凍りつかせた。
「お前が、幼い頃から女王様に憧れていたことなど知っている。そして、最近、ドMの変態に目覚めたのも知っている! そんな変態なお前が、結婚できる相手などそんなに多くいるわけが無いだろうが!」
「……!? ……!? ……!!??」
マリアは王様の放つ言葉に驚きを隠せていなかった。いや、マリアだけでなく、俺やアーロン、それぞれが別の意味で驚いていた。
……てか、王様、こいつが変態だって知ってたの!?
「こんなド変態な娘は早く結婚させないと、そのうち本当にもらってくれなくなっちゃうんだよお! ……本当に……自分の部屋で自分を鞭で叩いている娘とか……」
「……ちょっ……お父様……待って……恥ずかしい!」
さすがに皆の前で言われたため、顔がめちゃくちゃ赤くなっている。
……てか、こいつ部屋でそんなことしてんの!?
とはいえ、王様が娘を早く結婚させたい理由もわかった。要約すると、変態な娘が結婚できるかどうか不安なのだ。
「…………王様!」
「…………?」
ここで、俺は言うしかないのだ。
「……無礼なのはわかっています。ですが、言わせてください!」
「……師匠」
マリアは俺に尊敬の目を向ける。
「こいつはド変態だからこそ、結婚を焦るべきではないのです」
「……師匠?」
しかし、その目はしだいに不安のこもった目に変わる。
「考えてみてください! この変態が結婚して、それでその相手と長続きすると思いますか!? 相手がこいつのドMっぷりに耐えられると思いますか!? 無理に決まっているでしょう!?」
「ねえ! 師匠! さっきからひどいことしか言ってないんですけど!?」
王様も負けずに反論してくる。
「だが! それでは娘が結婚できずに寂しい人生を送ることになるだろうが! ただでさえ、ド変態でやばい人生なのに……」
「ねえ! お父様もそうとうひどいこと言ってるよ!? 結構傷つくよ!?」
俺と王様は互いににらみ合う。
「俺の友達にロリコンなのに彼女できたやつとかいますからね! きっと、それを受け入れてくれるやつに出会えますから!」
「その保証がどこにあるっていうんだ! こんなド変態娘をもらってくれるやつなんてなかなかいないわ!」
「もらってくれるやつがいない保証もないだろうが! もっと自分の娘を信じてやれよ! ドMだけど……」
「娘を信じるって言って、結局結婚できなかったらどうしてくれんだ。ゴラあ!」
ガヤガヤ! ガヤガヤ!
俺と王様の論争はやがてただの口喧嘩に発展していく。その中でマリアはいろいろと自分が周囲からどう思われているかを自覚する。
体育座りをし、顔をうずめるマリア。そんな彼女にアーロンは声をかける。
「大丈夫ですか? 姫」
「もう……恥ずかしすぎて死にたい」
だんだんと言い争いが発展する中、俺は王様に対してあることを言う!
「そんなに言うなら! もし結婚相手が見つからなかったら、俺がもらってやるよ! おらあ!」
「ん?」
「…………あっ」
とんでもないことを言ったことを自覚していく。
「いいのかい!?」
「…………」
「じゃあ、君に任せるよお! いつまでがいい?」
「…………」
王様がすごくこちらを見つめている。正直、ここで何か言い訳したら、処される気がする。
「……来年、4月まででどうすか?」
「オーケー。いやあ。ありがとうねえ」
……ステファニーの時と同じような目に会ってしまった。
物事を宣言する時は事前によく考えることが重要である。