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第60話 姫様の事情

「がはっ!」


 長い道のりを経て、馬車から下ろされた俺は王宮と思わしき建物の地下にある牢屋に入れられる。


「おい! 何しやがんだ!」


「…………」


 そこには騎士団長と思わしき人物がいた。そいつは逆立ったねずみ色の髪が威厳を表していた。


「姫にやらしいことをした君を信じるとでも?」


「ああ!? 信じられないことはわかってる! だけど、頼むから、ここから出してくれよ!」


「……わかった。信じよう」


「頼む! ここから出して…………え?」


 俺はこいつの言った言葉が理解できなかった。


 信じる……と言ったのか?


「……え? ……マジで言ってんの? 俺、姫、やらしいこと、した。ドゥーユーアンダースタンド?」


「ああ。だが……こちらこそ頼みがあるんだ?」


「……え?」


 バサっ!


 その男は突然、その場に土下座する。


「頼む! 姫様の結婚を邪魔してほしいんだ!」


「…………は?」


 いろいろと考えることが多過ぎて頭がおかしくなる。


 結婚を……邪魔する?


「汚れ仕事を押しつけていることはわかってる! だが、それでも姫様を心から好きだと思った人と結婚させてあげられないことが悔しくて、しかたないんだ!」


「え? おい、ちょっと待ってくれよ。突然すぎてさあ……」


 俺がそいつにその言葉をかけると、男は一度落ち着くまで静かに座っていた。


 そして、話し出す。


「……もう気づいていると思うが、マリア様はこの国の王女。それに、今の王様には息子がいない。つまり、やがて誰かと結婚し、この国の王子を身ごもってもらわなければいけない。だから、今の王様は姫様に早く結婚してほしいと思ってる」


「ああ、そうなのか」


「だが……」


 やがて、騎士団長はまた話し出す。


「王様は……もう待ってくれなくなってしまった! なんでも、同世代の子に交際する相手ができたからだそうだ! 焦るのも無理はない! 娘を早く結婚させたいのはどんな親だって同じだろう! だが……それでもやっぱり本当に愛した人と結婚してほしいのだ!」


「…………」


 あー。


 ああああああああああああ。


 たぶん、その同世代の子ってのはステファニーのことだろう。まさか、その影響で王様の考えを変えてしまう結果になるとは。


「まあ、わかったよ。なんか、俺にも原因はあるらしいし……。とりあえず、落ち着こう? な?」


「ぶえええええええ! ありがどおおおおおおおお! 神様! タナカ様! キング・オブ・ザ・DT様あああああああああ!」


「え? なんでDT(それ)知ってんの?」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 牢屋から出ると、豪華な装飾が飾られている廊下へ出る。そこをこの騎士団長と一緒に歩く。


 俺が協力すると聞いて、喜び泣き出す騎士団長。


「なあ、お前、名前はなんて言うんだ?」


「うう、俺? 俺はアーロン。そっちは……」


「俺はカケルだ」


「そうかあ……」


 そのまま、しばらく歩き続ける。


 やがて、アーロンは再び話し出す。


「……うう。うちのさあ、王様はさあ、なんかすごい娘が大好きな人なんだよお。だからさあ、俺も協力して、マリア姫が幼い頃から世話してたのよお。そしたらさあ、本当に可愛すぎてやばいの。だから、今回は何がなんでも止めたいんだあ」


「お……おう……」


 ところで、さっきからこいつのキャラ崩壊がすごいんだけど……。


「うう。今ではあんなに美しく成長なされて……」


「…………」


 たぶんこいつは時にマリアがドMの変態だってことを知らないんだろうなあ。まあ、あいつ自身も自覚無いし……。


「どうして、わざわざ俺に頼んだんだ?」


「……なんかさあ、俺が頼みに行っても王様聞かないの! 頑固だから! そこで、やっぱり姫様の彼氏がじかに王様に言った方が良くない!?」


「……彼氏?」


「…………ん?」


「ちょっと待て! いつそんな関係だって言った?」


「…………え?」


 男は状況を理解すると、顔が青ざめていく。


「はあ! お前! じゃあ、彼氏じゃないのにマリア姫にズボンを履かさせてたわけ!?」


「おい! 声がでけえって! まるで俺が変態みたいに言うな!」


「変態だろうが!」


「……確かにそうだわ」


 否定できない。マリアにそう命令したのは俺だ。


 そんな中、俺はある疑問をアーロンに言う。


「てか……本当にマリアはその結婚を望んでないのか?」


「いやいや、望んでないに決まってるでしょ。だって彼氏が……」


「…………」


「…………」


 わかんねえな。会ってみないと。


 相手がやばいぐらいのドS野郎だと……下手したらマリアの好みに合う可能性だってある。


「まあ、とりあえず会いに行くしかねえな」


「うん……」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「この部屋でいいのか?」


「ああ」


 俺はゆっくりとその扉を開ける。


「……失礼します」


「…………ん?」


 そこにはいかにも真面目そうな黒髪の青年がいた。


「……何か用でしょうか」


「…………」


 俺はその青年の容姿を見ると、アーロンを連れて外で話す。


「おい。どうすんだよ。明らかに性格良さそうだぞ」


「うーん。まあ、マリア姫が気に入ってくれるなら誰でもいいんだが……」


「はあ! いいわけ無いだろ!」


「え? なんで?」


 普通じゃ……ダメなんだよ。


 まず、マリアが気に入らない可能性がでかい。ドSじゃなけりゃダメだろう。


 それに……もし結婚できたとしても……。


「……あの青年の方が苦労することになる」


「君はマリア姫をなんだと思っているんだい?」


「と、とにかく! まだ青年が良いやつと決まったわけじゃない!」


 俺は再び部屋に入り、青年に話しかける。


「やあ、俺はカケルだ。よろしく」


「ええっと、僕はマイケルです」


「君、実は結構苦労してるんじゃない?」


「苦労……ですか?」


「そうだよ。だって突然姫様と結婚しろだなんてさあ」


「いえ、そんなこと無いですよ」


「え?」


 青年は少し微笑み話し始める。


「僕は……なかなか誰かを好きになるってことが無かったんです。だから、こういうことに結構憧れてたりするんです」


「…………」


「なので、もし誰かと結婚したら、その人を大事にしたいなって思ってるんです。……いえ、して見せます!」


 うおっ!


 なんだ! この光は! この青年から溢れる光は!


「そうかあ。じゃあしっかりと頑張らないとな」


「はい。お話してくれてありがとうございます」


 俺は話し終えると、さっそうと部屋から出ていく。


「うおおおおお!」


「……大丈夫かい?」


 隣のアーロンが心配してくれている。


「やばかった……。危うくこっちまで浄化されるところだった」


「……つまり、いい人だったってことかい?」


「いいやつどころか、絶対マリアに近づけちゃあダメだ! あの青年が汚されてしまう!」


「だから、君はマリア姫をなんだと思っているんだい!?」

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