第59話 休日を大切に
「カケル先生。何をやっているんですか?」
図書館で調べ物をしていた俺に、サラが話しかけてくる。
「ああ。ちょっと異世界について調べてるんだ」
「……ふーん」
異世界。
それは今いる世界とは異なった世界。その世界に行くことはなかなか容易にできることじゃない。
ここ、魔法学校でトップの力を持つエルでさえ苦戦する魔方陣を作らなければならない。まして、あいつだって完全にその魔方陣を作れたわけではない。
簡単にできるとしたら、それこそ神様や神の使いでないとできない。つまり……。
「この世界に神の使いがいる可能性が高い」
神の使いとは。
単純に、神様に選ばれた人間のことを言う。
彼らは普通の人間とは違い、共通して四つの特殊能力を秘めている。
一つ、異世界の言語を瞬時に理解することができる。
二つ、異世界を自由に行き来することができる。
三つ、寿命が無くなる。
四つ……。
「記憶操作の能力……を持っている」
…………。
まったく……もしいるとしたら、間違いなくサトウのやつが関わっているだろう。
万物の神、サトウ。あいつは興味を持ったことには必ず首を突っ込むやつだ。今まであいつのせいでどれだけ大変な思いをしたか……。タナカの苦労が伺える。
まあ、神の使いがまだいると確定したわけではないし、警戒する必要もない。それよりも異世界から来たあいつの方が危険だ。
「なあ。サラ……」
「はい?」
「異世界の人間に会ったのは俺が初めてか?」
「そりゃそうでしょう。そもそも異世界に関わる魔法はまだわからないことだらけですから」
その時の俺は、いまだに奇妙に思っていた。
もし神の使いがいなかったら、あのタクローとかいう異世界の人間はどうやってここにやってきたのか。
その魔法の技術がこの世界はまだ発達していない。
そう考えると、神の使いがいる可能性の方が高いのだが……。
俺は神の使いと関わって、あまり良い思いをしたことが無い。彼らは皆、性格が歪んでいる。
サトウがそういったやつを好むからだ。まったく、本当にあいつの性格が一番歪んでいる。
だからか、俺はなるべく神の使いがいない方向で考えたかった。
……ただの願望である。そして、この願望が後の事件につながることを。
俺はまだ知らない。
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「ふう……」
その日の仕事が終わり、教会に戻っていた。帰ってきて夕飯を食べると疲労が溜まったのか、すぐにベッドへ飛び込む。
いろいろと心配なことが多いが、とりあえず明日と明後日は休みだ。少し気を休めるか……。
「うりゃっ!」
「……え?」
トンカツが俺の腹に飛びかかる。その衝撃でうっかりさっき食べた夕飯が口から出そうになる。
「……何してんの?」
「久しぶりにご主人が緩んだ表情をしていたので……」
「…………」
きっと、こいつもこいつなりに俺を励まそうとしてくれたのだろう。
「ありがとな……」
「……へ?」
俺はそっとその少女の頭を撫でる。……というか、これぐらいしか返せることが無いのだ。
「えっえっえっ!? なんですか? 急に!?」
それに驚いたトンカツは俺から離れていく。
「……きもい」
「あのー。もうちょっとオブラートに包んでくれません?」
いくらなんでも、直接きもいと言われたら心が痛い。
「……何やってるんですか?」
扉の方からひょっこり顔を出すジルちゃん。
「……ジル。今、ご主人は飢えているの。いつ襲いかかってきてもおかしくないから近づかない方がいいんだよ」
「そうなの? トンカツのお姉ちゃん。今、カケルさんは飢えているの?」
まるで、俺が童貞かのように言いやがって。
……そうだよ。童貞だよ。何か悪かったか?
「……フフフッ」
「えっ? さすがに急に笑い始めたら擁護のしようが無いですよ? 大丈夫ですか? 病院行きます?」
……最初から擁護する気なんて無かったじゃねえか。
「しかたねえなあ……」
「……へ?」
「確かに……今、俺がお前らに襲いかかったら犯罪になってしまう。だが……」
そう。これは俺の必殺技。
「そっちが脱がないならこっちが脱いでやる戦法だ! 食らいやが」
ゴヅンっ
「……あ……れ?」
ズボンに手をかけ半脱ぎ状態になったところで、頭に衝撃が走る。そして、その場に倒れる。
「……うるさいです。早く寝てください。カケルさん」
そこには拳を握ったレイラさんが立っていた。どうやら、俺は普通に殴られてしまったようだ。
……威力強くね?
「……それじゃあ。ジル。トンカツ。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみ。レイラさん!」
「…………」
俺だけあいさつができずに、レイラさんに連れていかれる。
やっぱり……変なことをしたら、それなりの罰が帰ってくるものだなあ。
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「…………」
朝である。
そういえば、壁に貼りつけられるのは久しぶりだ。
「師匠!」
「…………」
「今日もプレイを教わりに来ました!」
なぜこう毎日、この教会には変態がやってくるのだろうか。もはやそいつらを引き寄せる何かがあるとしか思えない。
「じゃあさっそく……って、びやあああああああああああ! なんでズボン、ちゃんと履いてないんですか!?」
ちなみにあれからずっとこの状態である。
「……ちょうどいい」
「……へ?」
「履かせろ」
「はあああああああああああああああ!?」
今、この状況で俺のズボンを直せるのはお前しかいない。だから、早くズボンを直してほしい。
まあ、本当は魔法使って、すぐに壁から手を離すことはできるんだけどね。
「さあ、マリア。履かせるんだ」
「なっ、何を言っているんですか!? あなたもう立派な大人でしょ!? 恥ずかしくないんですか!?」
「……あ? 師匠の命令だぞ? 断る権利なんてあると思うのか?」
恥ずかしいのか、マリアの顔がどんどん赤くなる。
やっべ……楽しくなってきた。
「……しかたない……ですね」
そう言いつつも、マリアは俺のズボンをつかむ。
恥じらいと喜びが混ざった表情をしている。さすがに俺もこれには引く。
「じゃあ……行きますよ……」
ゆっくり、俺のズボンを上に上げていく。
その時だった。
バタンっ!
「……へ?」
突然、教会の扉が開く。そして、そこからたくさんの騎士たちが入ってくる。
「マリア姫! お迎えにあがりました!」
「「……へ?」」
……マリア姫? そう言ったのだろうか?
「…………え?」
じゃあ、こいつって……。
「……すぐに王都に行きますよ! マリア姫!」
「えっ……ちょっ……」
マリアは腕をつかまれ、連れていかれる。
「おい! お前ら! いったい何なんだ!」
「我々は王直属の護衛兵。我が国の王女である彼女を迎えに来たのだ」
……王直属? ……王女?
「えええええええええええええええええええええええええ!」
マリアって……。
「王女様だったのか」
すると、騎士の一人が話し出す。
「ちなみにお前にも着いてきてもらおうか?」
「…………え?」
「マリア姫に服の着脱をさせるのはいったいどういう理由があってのことなのかな?」
…………あ。
この時、俺は。
変態行為はほどほどにしておいた方が良いと心に忠告しておくのでした。