第58話 魔法学校の教師たち
「調子はどうですか?」
教員室でレティシア先生が声をかけてくれる。
「ええ。順調っすね。ただ、やっぱりまだ俺のことを嫌ってるやつもいるんで大変っすよ」
「そうですか……」
そんな中、一人の男がこちらに近づいてくる。そいつは褐色の肌を持ち、いかにもチャラそうな服装をしていた。
「やあやあ。君がバイトのカケル君かい?」
「ええ。そうっすけど……」
「俺はカールだ。お前の先輩だ。よろしく!」
「はあ……カール先生っすか。よろしくお願いします」
普通にマトモそうだなあ。この人も教師なのだろう。
「んじゃ、俺、午後の授業の準備しなくちゃいけないんで……」
そして、俺は教員室から出ようと歩き出す。だが……。
「ぺっ」
「……え?」
カール先生が突然、俺の前の床に唾を吐く。
「さあ、拭いてくださいよ。後輩でしょ?」
「…………」
なんだ? この人。
バゴンっ!
「痛っ!」
レティシア先生にスリッパで頭を叩かれるカール先生。
「何しやがんだ! レティシア、てめえ!」
「じゃあ、あなたが拭きなさいよ。あなただって教師としては私の後輩でしょ?」
レティシア先生の見下ろす瞳が怖い。なかなかインパクトがある。
たぶん大半の男をMに目覚めさせそうな力を持っている。
「すみません。この人、調子に乗るとすぐにゲスくなるんです。……さあ、この人のことは気にしないで、行ってください」
「おっ……おう……ありがとうございます」
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廊下を歩き、教室へ向かう。
そんな中、ある人物の後ろ姿を見る。
「あ? トンカツか?」
「へ?」
その少女は作業服を着て、モップを持っていた。
「なんでお前がこんなところにいるんだ?」
「そりゃあ、私もバイトをしに来たんですよ」
なるほど、掃除のバイトをしに……。
「でも、なぜ急に?」
「さすがにいつまでも教会でお世話になるわけにはいかないので……どこかのカケルさんみたいに」
「おいおい。まるで俺がダメ人間のように言うじゃないか」
「……違いますか?」
「…………」
何も言い返せないのが現状である。実際、なかなか金がたまらず、まだ教会で世話になっている。
すると、後ろからある人物がやってくる。
「カケル先生! ダメじゃないか!? 出席簿を忘れちゃあ」
「ああ。ありがとうございます。カール先生」
その出席簿を受けとると、カール先生はトンカツに注目する。
「……このガキは誰だい?」
「あ?」
どうやらガキと言われたことが不満だったのか、トンカツはカール先生をにらみつける。しかし、彼はそんなことに気がつかない。
「こいつはトンカツっすよ。そうだなあ……」
どういう関係かと考えるとわからないな。もう人間だから、ペットと言ったらやばい趣味の持ち主だと思われるし。
突然、トンカツは俺の腕をつかんでくる。
「妹……です!」
「…………」
なんだか、どこぞの魔王にまた何か言われそうだが……まあペットよりはいいだろう。
「そうなのかあ。んで、掃除のバイトを受け持ってくれてるんだね」
「そういうことです」
「ぺっ」
「……ん?」
目の前の床に唾を吐かれて、それを見たトンカツは固まる。
「ほらっ……早く掃除しろよ」
「…………」
……やばい。トンカツの方から怒りが感じられる。
「……あの。カケルさん。この人、とりあえず燃えるゴミとして処理した方がいいですか?」
「いやいや、ゴミの分別はしっかりしろよ? この人は燃えないゴミだ」
「そうですね。土に埋めた方がいいですね」
その会話を聞いたカール先生は少し恐怖を感じていたようで身震いしていた。
「君たち、なかなか容赦ないこと言うね」
「自分の唾ぐらい自分で掃除してください。犬じゃないんだから」
「この子、けっこう辛辣!」
トンカツはカール先生に毒のある言葉を振るう。
「んじゃ。トンカツ、俺は授業の方に行ってくるから、あとよろしく」
「ええ」
俺の言うことにトンカツは了解すら。
カール先生も教員室に戻ろうとする。しかし、その行く手をトンカツが遮る。
「……どいてくれない?」
「は? 早く床を掃除してくださいよ。じゃないと、本当に埋めますよ?」
「……ええ」
「大の大人が恥ずかしくないんですか? 自分よりも弱い者を奴隷扱いして……」
「……お……おう」
ちらちらと涙目でこちらを見るカール先生。メンタルは豆腐でできているようである。
そんな様子を見届け、俺は生徒たちの待つ教室へ……。
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生徒が次々と教室に入ってくる中、知っているやつが一人。
「あれ? クロト?」
「んふ……んふふ……」
なんか気持ち悪い笑みを浮かべながらこちらに来る。若干、近くのやつらも引いてる。
「なあ、大丈夫か?」
「いやあ、昨日のゲームが面白すぎて…………どうです? 『パフパフきゅんきゅんぽーたぶる』……やります? 無印と内容はほとんど一緒なんで、入りやすいですよ? 試しにやってみてください」
「……いや、やめとくよ」
あのゲームはなかなかレベルが高い。常人じゃあ到達できないレベルに達している。
たぶん、こいつの性癖の歪みもそのゲームの影響が強いと思う。
「……ん? なんだ? 一人休みか?」
生徒たちが座っていく中、一つの席だけ空いている。その席のやつの名前は……タクローか?
「たぶん、この前の飛び級生でしょう」
「飛び級生?」
「入学試験の点数が異常だったから、飛び級で二年のクラスに入ってきたんですよね。こんなことめったに無いんですけれど……」
「そんぐらい珍しいやつってことか……」
「さすがにほとんど顔は見てないのでわかりませんね。先生なら何か資料無いんですか?」
「そういえば、なんか危険人物リストみたいなのはもらったな」
「……先生方の闇を垣間見た気がするのですが……」
持ってきていたリストの中から、そいつの名前を探す。すると……クロトが載ってるんだけど……。
「……授業中もゲームばかり……説教をしても反省の色無し……極度のムッツリスケベ……」
最後のは全然問題無いと思うが、さすがに授業を聞かないのは注意するべきだな。
「……お前……授業はちゃんと聞けよ?」
「……へ?」
……本人は自覚が無いのか。
あらためて、飛び級生の名前を探す。すると、さらに危険な人物として、赤いページにそれは載っていた。
そうとう危険なのか、写真も一緒についている。金髪や耳のピアス、柄の悪そうな目つきが特徴的だった
「……なんだ? こいつ」
「えっ」
「……ん? どうした? 知り合いか?」
クロトはその顔に見覚えがあったようだった。
「昨日……自販機の前にいましたね。確か、……ちゅうせよーろっぱがどうだこうだって……」
「…………は?」
俺は今、クロトが言ったことを不可思議に思う。
「……中世ヨーロッパって言ったのか?」
「え? はい。……言いましたけど……」
中世ヨーロッパなんて単語を知っている?
そのような単語を他の世界では聞いたことが無い。知っていたのは主に神様からだけだ。
まさか、こいつ……。
「最初の世界からやってきたのか?」