第57話 思春期と黒歴史
「……なんか誤解されそうな状況だな」
カケルはそんなことを言いながら、私たち3人を見つめる。
突然、モナちゃんが質問する。
「カケル先生は歳はいくつなんでしたっけ?」
「詳しくは覚えてないけど、4000は越えてる」
「んじゃあ10代の私たちに欲情しないでください」
「それは無理だ。俺がそんな聖人に見えるか?」
そこは否定しようか。カケル。
「せんせー」
「どうした?」
サラも質問する。
「エルちゃんから聞いたんだけど、カケル先生って異世界から来たんだよね。なんか、ためになる話って無いの?」
「……ミジンコになって潰された話する?」
「それ以外でお願いします」
カケルはしばらく考えた後、それを話し出す。
「……そうだな。これは俺が転生した250回目あたりの世界の話だ」
「ほうほう」
「俺はその世界のとある国の王子に転生したんだ。その時は記憶が戻らなかったが、なんだかすごく自分に自信があったんだ。きっと今まで過ごした世界の感覚が無意識に残っていたんだろうよ」
カケルの表情は先ほどとは違い、険しくなっていた。
「だからかな。俺は勝手に王宮を抜け出した。歳がまだ幼かったのもあるが、明らかに王族のすることじゃないわな。それでよく親父に怒られてたな」
「……親父?」
「ああ……その国の王様だ。俺は親父のことが嫌いだった。恨んでさえいたと思う」
その表情はなんだか悲しさも含んでいた気がした。
「なんで……だろうな。その理由がまだ思い出せないんだ。でも、相当ひどい王様だってのは覚えてる。その時の俺は無謀だった。何の力も無いのに、親父に向かって本気で殺しにかかった。まあ、結局失敗したわな。そのせいで、俺は親父の手で処刑された」
それはなんだか私たちにとっては、とても身近とは言えない話だった。しかし、きっと彼にとっては珍しい話ではないのだろう。
こんな経験を、カケルは何度もしているのだ。
「まあ……無謀を勇気に変えられるぐらい今のうちに力をつけとけって話だ。今、お前らがやってる勉強も、そのうちきっと役に立つ。特に魔法はマジで汎用性が高いから、やっといた方がいいぞ」
そんなことを、カケルは口元に笑みを浮かべる。その口元とは裏腹に、その瞳は決して笑ってはいなかった。
「……んじゃ、勉強始めるか」
「……はい」
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「……大丈夫そうだな」
エル様とカケルさんが心配で少し覗いてみたが、大丈夫そうで良かった。
「……さて、私もそろそろ帰りますか」
そんなことを言いながら、学校の敷地の道路を歩き始める。
「なんでだよお……」
「…………?」
その声は前方の自動販売機のあたりから聞こえた。
「なんで……中世ヨーロッパなのに自販機があんだよ!」
「なんだ? あの人」
その男は髪を金髪に染め、耳にピアスをしていた。
「ちきしょお! あの女! 嘘つきやがって!」
ゴヅンっ!
自販機の足元を蹴る。しかし、痛かったのか、その男は若干涙目になっている。
ゴンっ!
「ちきしょお! ふざけやがって!」
ゴンっ! ゴンっ!
何度も何度も自販機を蹴る。
なんだか危なそうな人だな。関わるのはよしておこう。
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「おかえりー」
家に戻ると、ナタリア様が出迎える。
「今日はどうだった? 学校楽しかった?」
「まあ、それなりに……」
「エルは元気にしてた?」
「ええ、ちゃんと……」
「お友達……できた?」
「…………」
そんなことを聞かれたが、私は自分の部屋に向かう。
「…………」
部屋に入り、扉を閉める。そして、壁に防音魔法をかける。
「楽しく……ねえよおおおおおおおおおおおおおおおお!」
わたくし、クロトは思いっきり叫ぶ。
「なんだよお! エル様ばっかり友達できてずるいいいい!」
自分のベッドに飛び込み、ゴロゴロ回る。
「もっと友達ほしいよお! 欲を言えば、彼女ほしいよお! エッチなことしたいよお!」
本心をぶちまけていくスタイル。
「……はっ! そうだ!」
VRのハードを取り出し、『パフパフきゅんきゅん2』のソフトを差し込む。
そして、装着。
「リ○ク・スタート!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
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「クロト君。大丈夫かな」
帰ってきたクロトの元気が無いとナタリアから聞いたウィリアムは、その様子を見にクロトの部屋へやってきていた。
扉にノックをする。
コンコン
「クロト君。入るよ」
返事が無かったが、心配だったために扉を開ける。
ガチャっ
「イエええええええええええええええええ! マナちゃん可愛いよおおおおお! リナちゃんも可愛いねえええええええ!」
「…………」
「ひゃっほおおおおおおおおい! あっ! ダメ! そんなところを攻めたらダメだって!」
「…………」
「いや! 待って待って! エロすぎだって! ちょっ! そこは普通無修正でしょ! まったく最高だぜ!」
「…………」
「いやっほおおおおい! やっぱり女子高生のおまn」
パタンっ
ウィリアムは扉を閉める。
「うん。元気そうで良かった」