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第56話 その布切れこそが芸術である

「今日、新しい先生が来るんだって」


「……そうなの?」


 それは初耳だった。


 クロトからもそういう話は聞かなかった。突然決まったことなのだろう。


「なんか数学の先生が怪我して入院したから、その代わりとして来るらしいよ」


「へえ。それにしてもよくそんな都合の良い人見つけたわね」


「なんでも、数学だけじゃなくて、魔法とか他の教科も教えられるらしいよ」


「ふーん」


 そんな完璧超人。カケル以外にいただろうか。


 まあ、見つけたってことはいるってことだろう。


「……ん? エルちゃん。そろそろ次の授業始まるから、早く行こう!」


「……次って何だっけ?」


「確かその数学じゃなかったっけ」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「……は?」


「……へ?」


 私もサラも唖然としていた。


「こんにちは! 今日から君たちを教えることになったカケル先生です! よろしく!」


「「…………」」


 ……なるほど、カケルだったのか。その先生とやらは……。


「…………」


 つい今までのカケルの行いを考えてしまう。彼は暴走したら、とんでもないことをやらかす人間だ。


 時に未成年の女子を襲うかもしれない。


「エルちゃん。大丈夫なの? あの人」


「うん。ちょっと心配」


 カケルの性格は絶対教師に向いていない。


 ……と、不意にうちの校長を思い出す。


「……まあ、いっか」


「エルちゃん!?」


 隣のサラが必死に私の肩をつかみ、振り続ける。


「大丈夫!? 思考を放棄しないで!」


「……あはは。……今日のサラのパンツはピンク色」


「ちょっとおおお! 何言ってんのおお!」


 ちなみにマジである。


 ざわざわ


 周りの男どもが何か聞いている。やはりそういう話題に興味があるのだろうか。


「おーい。パンツばっかりに注目しない! それじゃあ、授業を始めるぞー」


 そのカケルの声と共に生徒たちは授業に集中する。ちなみにサラは今のカケルの声でクラス中に知れ渡ってしまったことの方が恥ずかしかったらしい。


 先生の授業を聞くことは成績を上げる上でも重要なのだ。


「そうだなあ。まずは……この問題から説明するか」


 カケルは黒板に円を書き始める。


「今日は三角関数の不等式についての説明をする。この問題を解いていくと……」


 なんだかちゃんと授業を進めている。教える時は真面目なのだ。


「……答えが4分のπから4分の3πまでの範囲が答えになるわけだ。これがどういう範囲かを円に表すと……」


 カケルは黒板にピンク色のチョークでその範囲を塗る。すると範囲は扇の図になる。


「……あははっ。まるでピンク色のパン」


 ボゴっ!


 サラの投げた筆箱がカケルの顔面に直撃する。それから、サラは倒れたカケルのところに走っていき蹴り続ける。


「お前も頭の中、パンツのことでいっぱいじゃねえか!」


「ぐげっ!」


 近くの男子がサラを取り押さえる。


「落ち着いて! サラさん」


「うるさい! 私はあと10回こいつを蹴らないと気がすまない!」


「ダメだよ。サラさん。今、先生は神聖な図を描いてるんだら!」


「あああああああああ! お前らも楽しんでんじゃねえか! 全員蹴り飛ばしてやるうううううう!」


 ああ。サラもサラで女の子なんだなあ。


 あはは。まったく、カケルのやつ、デリカシー無さすぎでしょ。


「うう……」


 席に戻ってくるサラ。そして、机に顔をうずめる。


「もう、サラったら、機嫌直そう? ね?」


「お前のせいだよ」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 なんだかんだ言って、カケルは男子から評判が良くなった。女子からは逆に嫌われている。


「……で? どうして、今日はここで勉強するの?」


「そりゃあ、ここのが設備が整っているからな」


 放課後はカケルと図書館に来ていた。


「んで? そこのピンクパンツもなんでここにいるんだ? ……うっ……」


 瞬間。カケルはサラに腹を殴られ、悶絶している。


「……そりゃあ、エルちゃんと二人きりにさせていいわけが無いでしょう。あなたなんか信用しません」


「この子、当たり強くない?」


 そう言いつつも、カケルは勉強を教え始める。私も集中する。


「だから……ここがこうなって……」


「ああ。なるほど……」


 そんな様子を眺めながら、不満そうにこちらを見つめるサラ。


「カケル先生!」


「はい?」


「エルちゃんとはどういう関係なんですか?」


 …………え?


 ええええええええええええええええええええ!?


「どんな関係って言われてもなあ」


「そうよ! 急に何聞いてるの!?」


 やばい。


 顔がどんどん緩んでいく。どんな……関係……なのだろうか。


「永遠に一緒にいることを誓った仲……かな」


 ほえええええええええええええええええええええ!?


 なに? なんでカッコつけながら言うの? なんでそんな恥ずかしい関係になってんの!?


 別に付き合ってるわけじゃないじゃん!


「きゃあああああああああああああああああああ!」


 サラ! やめて! こっちが恥ずかしくなるから!


「じゃあカケルさんたちってどこまで進んだんですか?」


 絶対勘違いしてるでしょ! それ。


「ふふっ。家におじゃまするぐらいさ」


「きゃあああああああああああああああああああああ!」


 やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


「うげっ!」


 突然、カケルの首が引っ張られる。


「図書館では静かにしてください。カケルさん」


「……おう。モナ」


 確か、ウィルの妹の……。この学校の一年生だったのか。


「わああ! 可愛い!」


「え?」


 サラはモナちゃんを見るやいなや、飛びかかる。


「可愛いなあ。この子。やっぱり妹キャラっていいわあ」


「ちょっと! 離れてください! 私はあなたと違って変な行為はしないって決めてますので!」


「……へ?」


 変な行為。


 その言葉がサラに疑問を抱かせる。


「……変な行為って?」


「一年生の間では噂になってます。なんかいろんな男の人に関わってる変態だって!」


「ええ! どこからそんな情報が!?」


「……確か、どこかのレストランで男の人の手をつかんでいたって」


「それ違うよ!」


 確かに、結構派手な見た目をして、男の人の手をつかんでいたらそう思われても仕方がない。


「ぶはっ……」


 カケルが笑いをこらえきれずに腹を抱えている。


「うがああああああああああああああああ!」


「げふっ!」


 サラの蹴りがカケルの腹に炸裂する。


 まだ攻撃しようとするサラの体をモナちゃんが押さえている。


「放して! モナちゃん! こいつだけは許せない!」


「落ち着いてください。サラ先輩!」


 なんだか騒がしいメンバーだ。


 二人きりになれなかったのは寂しいが、こういうのも悪くないだろう。


 ……二人きり? ……寂しい?


「ああああああああああああああああああああああああ!」


「急にどうしたの? エルちゃん」

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