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第55話 ユズの花が咲く頃に

「他にも体育館やプールなど、たくさんの施設があります」


「そう……っすか」


 ずいぶんと歩き、もう脚が疲れた。


「…………少し、そこのベンチで話しますか」


「ああ、はい。ありがとうございます」


 言われたとおり、その道のベンチに座る。


 ……気を使わせてしまっただろうか。なんだか申し訳なくなる。


「……どうぞ」


「え?」


 彼女はコーラの入った缶を渡してくる。


「いいんすか?」


「ええ」


 それを受け取り、飲み始める。


「……ぷはあっ。いやあ、ありがとうございます。それにしても、よく俺がコーラが好きだって気づきましたね」


「まあ……わりと人がどういうものが好きか、わかるんです。子どもたちの教育に役に立つことも多いですしね」


「そうなんすか」


 俺はなんだか心の中でこの人を尊敬していた。


「……レティシアさんって、なんかかっこいいっすね」


「……え?」


「だって、俺みたいなやつを雇うのに反対しながらも、それが生徒のためだと思って受け入れてくれたんでしょ?」


「……それは……」


「そして、俺にこの学校についてよく教えてくれてる。生徒にも先生にも優しくできる良い先生ですよ」


「そんなこと……ないですよ」


「……ん?」


 彼女は少し歩き、道の猫に手をのばす。そして、猫の首のあたりを撫でる。


「……動物……好きなんすか?」


「ええ」


 猫を撫でながら彼女は話し出す。


「……私は生徒にはけっこう厳しく接してるんです。甘やかしていると、生徒が自分で気をつけようとしないので……。でも、それが生徒のためになっている自信が無いのです」


「…………ためになるかはわかんないっすよ……」


「…………?」


「結局、何かができるようになるには、本人が頑張るしかない。先生ってのはそれを支えるのが役目だと思います。だから、レティシア先生のやってることは間違っていないと思いますよ。教わってる側ってのは意外と後でその厳しさの意味を理解できるので……」


「……そうなのかしら」


「ええ」


 飲み干した缶をゴミ箱に投げ入れる。そして、俺はレティシア先生の前に手を差し出す。


「……これからお願いしますね。レティシア先生」


「……」


 彼女はその手をつかみ言う。


「こちらこそお願いします。カケル先生」


「…………」


 なんか照れるな。その呼び方。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「それで……その学校に通うことになったんですか」


「まあ、カケルらしいわな」


 合コンをやったレストランで、ステファニーやルルと話す。


「それで、順調そうなんですか?」


「まあ……たぶん大丈夫だろ。こっから二週間、もとの先生が戻るまで働くだけだしな」


 ステファニーはニヤニヤしながらこちらに言う。


「二週間ってのは意外と短いぞ?」


「誰のせいで、シャーロットさんに目をつけられたと思ってる」


「ごめんごめん。そのことは反省してるっての」


 そう言うと、突然真剣そうな顔をする。


「こう見えて、すげえカケルには感謝してんだよ。オレがウィルと付き合えたのは全部カケルの助けがあったからだ」


「…………」


 そんなことは無い。


 結局、俺はあの母親の体を人間に戻す程度のことしかしていない。実際、ステファニーがウィルを守ろうとしたから、あの母親もステファニーのことを認めたのだろう。


 俺は、本当に何もしていない。


「でも……」


「……?」


「その感謝の気持ちは受け取っておこうかな」


「ああ。そうしてくれ」


 ルルは俺たちを交互に見ながら言う。


「ステファニーさん。浮気はダメですよ」


「お前は何を言っているんだ。私はウィルのことが大好きなんだよ!」


「……ぶふっ……」


 言ったあと、ステファニーは顔を赤くしている。ルルも別の意味で顔を真っ赤にし笑っている。


「うがあああああああああああああ! このガキ!」


「うわあ! やめてくださいよ! ステファニーさん!」


 ステファニーがルルをつかみかかる。ウィルが見たら喜びそうな光景だなあ。


「なんか……」


「「んあ?」」


「本当に楽しいやつらだよ」


「「なんだとお」」


「……え?」


 二人は俺にとびかかる。いろいろ引っ張られて苦しい。


 でも、そんな生活を俺はとても楽しく感じていたのだった。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 夜の街。


 辺りは暗闇に包まれ、人々は静かに眠る。


 そんな生活は魔法という方法で解決された。発光魔法を使えば、誰だって夜を歩ける。


 そして、今では個人だけでなく、街全体で魔法を使い明るく照らしている。


 そんな街の中をフードを被り黒いローブを着た少女が歩く。


「よお。姉ちゃん。一緒に遊ばないかい?」


「ほらっ。あそこに酒場があるからさ! 一緒に行こうぜ」


 その少女に酔いながら話しかける二人組の男。


「……なあ。姉ちゃん。何か言ってくれねえか?」


「あなたの……」


「あ?」


 少女はフードから白い髪をちらりと見せる。


「あなたの身分は……なあに?」


「は?」


 そんなところに一人の聖騎士が駆けつける。


「待てい! まるで嫌がる少女に話しかける二人組の男というテンプレの中のテンプレ! そこに駆けつける聖騎士、ウィル。参上! ……ってあれ?」


 しかし、少女は消え、男たちは倒れていた。


「……えっ? 確かにそこにいたと思ったんだけど……」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「ふふふっ」


 建物の屋上から不適な笑みを浮かべながら、駆けつけた聖騎士を眺める少女。


「……まったく、この世界は面白い人がたくさんいるのね。サトウさん」


 少女は突然笑みを無くし、空の月を見つめる。


「……必ず、あなたを殺しに行きます。カケルさん」

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