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第54話 図書館にて

「……結局引き受けてしまった」


 さすがに脚にしがみつかれて懇願されると断れない。


 てか、あの校長に校長らしさ、まったく無くね?


 そんなことを考えながら、外で待っていたあの女性と合流する。


「では、ここからは私が校内を案内させていただきます」


「……りょーかい」


 この人も苦労してそうだな。なんせあのド変態おじさんの部下なのだから。


「ところで、あんたはなんて名前なんすか?」


「え? ……私ですか?」


 女性はしばらくすると、答える


「レティシア……です」


「レティシアさん……っすか。んじゃあよろしくお願いします」


「ええ」


 彼女は照れながらも、校舎の案内を始める。


「ここは主に魔法や化学の実験をする教室の棟ですね。なるべく空気の漏れが少なかったり、音が響かないようになっています」


「なるほど……」


「……女子生徒に変なことしちゃダメですよ」


「んなことするわけないでしょ」


 だいぶ歩き、別の棟にたどり着く。


「ここは主に数学や国語の筆記が多い科目が行われる教室の棟ですね。今回、カケルさんには数学を教えてもらいたいので、ここの棟で働いてもらうことが多くなると思います」


「そうっすか……」


 そして、またしばらく歩き、別の建物に着く。


「ここは図書館ですね。いろんな本が揃っていますので、調べものをする時は非常に便利なところですよ」


「へえ」


 ここまで見た感想。


 思ったより普通だ。


 あの校長を見てしまったからか、どんなやばい教育をしているか不安だった。だが、意外と大丈夫そうである。


「……少し連絡をしなければいけないので失礼します」


「へい。わかりました」


 レティシアさんは携帯を持ち、図書館の外へ出ていく。


「しかしまあ、よくこんなにたくさんの本を集めたなあ」


 この図書館はとても広い。これほどまで本が集まっているところはあまり見たことが無い。


「……げっ……」


「…………ん?」


 今、なんだか視線を感じたような……。


 すると、近くの本棚の隙間に隠れる影が一人。


「……なんだ?」


 急いでその人物を追う。そして、逃げるそいつの手を捕まえようとする。


「……おい! 待ちやがれ!」


 モミュ


「…………」


 この感覚を……俺は前にも感じていた。


「あああああああああああああああああああああ!」


 ゴキっ!


「うおおおっ!」


 つかんでいた腕がへし折れそうになる。


「ちょっと待て! 頼む! 離してくれ!」


「それはこっちのセリフです! なんですか!? わざわざ胸を揉まないとあいさつできない体なんですか? あなたは! 速く離してください!」


 ……そうだった。俺が離せば良いのだった。


 俺が胸を離すと、そいつも俺の腕を離してくれる。


「モナ。なんでお前がここにいるんだ?」


「この学校の生徒だからに決まってるでしょう。なんであなたもここにいるんですか?」


「……ちょっとしたバイトみたいなもんだ。なんか少しの間、授業を受け持ってほしいって頼まれてな」


 教育免許とか、そういう問題は知らない。たぶんこの世界にそういったものは存在しないのだろう。


「それで、今は案内してもらってるってわけだ」


「そうだったんですか」


 そういえば、まだここのシステムをわかっていなかったな。


「ここの学校って、中学校とか、高校とかで言うと、どのレベルなんだ?」


「ちゅーがっこう……というのはよくわかりませんが、ほとんどの生徒はここ、中等魔法学校で最初に学び始めますね。それから卒業したら、大抵の人は高等魔法学院か騎士学院に通うことになりますね。それだけじゃなく専門的な学校に通う人もいますが、そっちはわりと少数派なんですよ」


 なるほど……レベル的に中等魔法学校は高校、高等魔法学院や騎士学院とかは大学にあたるわけか……。


 ……アグネーゼは確か高等魔法学院に通ってるって言ってたな。


「この学校って何人ぐらい人がいるんだ?」


「一つの学年で大体千人なんで、三学年合わせて三千人と言ったところでしょうか」


 ずいぶんと人が多いな。


「まあ、それのおかげで将来魔導師や騎士になるような優秀な生徒が排出されているわけですよ」


「へえ。そんな感じになってんのか」


「その中でも二年のエル先輩は定期テストでは毎回一位を取っているのですごいですよ。頭の出来が違いますね」


「…………」


 ふと、モナの持っている本に注目する。


「その本……魔法について勉強しに来てたのか?」


「……えっ……ああ、はい。そうですけど……」


「どっかわからないとこでもあんのか?」


「まあ……ちょっと変形魔法の応用の仕方がわからなくて」


「なるほど……」


 俺は一度その本を受け取り、内容を整理する。


「これはまず物体の重心を捉えればいいんだよ。そうだな……」


 試しに、魔法で丸い金属の球体をとりだす。


「それって、何の魔法ですか?」


「……ん? ただの生成魔法だ」


「……へえ」


「この球体の重心はもちろん中心だろ?」


「はい」


「次はその重心からの外側までの距離を捉えて……」


 すると、その物体の形が切り替わっていく。


「あとは距離を頭でイメージすりゃいいだけだ。ただ形が変わると重心の位置も変わってくるから、それに慣れるのに時間がかかるぐらいだな」


「そう……だったんですか。重心……が大事だったんですね」


「……まあ、正直頭の出来ってのは勉強には作用するとは限らないよ。確かに記憶力がいいとその分有利だけど……」


 俺はこれまでの人生を思い出す。


「大事なのはどれだけ濃い時間を過ごすか……だと思う。何もしなかったやつよりも、その時間に何かをやったやつの方が自然といろんなことができるようになる」


「そういうもの……ですかね」


「ちょっとコツがあるけどな。……コツがわからなくても、エルみたいに不器用に何かを突き進むやつだっている」


 モナの頭を撫でながら、俺は話し続ける。


「……だから、どれだけ頭が良いかよりも、どれだけ自分が頑張ったかで考えればいいんだ。間違ってれば全力で俺が直してやるよ」


「……ありがとう……ございます」


 ふと、モナは急に顔が赤くなる。そして、撫でていた俺の手を弾き飛ばす。


「ちょっ……何を言ってるんですか!? あなたは私の何なんですか!?」


「何って……まあ、これから先生だわな」


「先生でもやっていいことと悪いことがあります! さりげに頭を触らないでください!」


 モナは怒りながら図書館を出口へ走っていく。


 しかし、出ていく直前にこちらに振り向く。


「……また、勉強教わってもいいですか?」


「おう。いつでも来い」


 そう答えると、モナは外へ走っていく。その横顔は微笑んでいるように見えた。


「……悪くないな。こういうのも……」


「……悪いことはしないでくださいよ」


「え?」


 ふと、横を見ると、レティシアさんがこちらを見ている。まるで、犯罪者を見るような目で……。


「……女子生徒にさっそく手を出したんですか? 大丈夫ですか?」


「ちょっと待って!? 誤解だよ!」

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