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第50話 彼女はトンカツ

「よしっ。こんなんでいいだろ」


 少女は部屋にあるスタンドミラーで自分の姿を確認する。


「…………」


 その鏡の前で何度も回り、その服を楽しんでいる。何も言わないが、なんだか嬉しそうである。


「……はっ!」


 トンカツは慌ててこちらを警戒する。


 どうやら、近くに俺がいるのを忘れていたようだ。


「……いや、別にいいだろ。服を着させたのは俺なんだし……」


「…………」


 じーっ


 まだ疑っているのだろうか。あの無邪気なトンカツはどこへ?


「……まあ、そこ座れよ」


「…………?」


 その少女は近くに置いてある椅子に座る。


「よしっ……」


 俺は魔法でくしを作り出す。


「ちょっ、何を!」


「まあ、落ち着け……」


 そして、トンカツの髪を少しずつとかしていく。こいつ自身も、だんだんと慣れてきたようだ。


「…………ありがとうございます」


「…………あ? 急にどうした?」


「いえ……」


 結構、癖が強い髪をしている。まあ、元が豚だったからかな。髪が短めなのもその影響だろう。


 …………。


「なあ。トンカツ」


「はい?」


「前にもこうやって髪をとかしたこと……は……無いよな」


「何言ってるんですか? 今日初めて人になったのに、あるわけないじゃないですか」


「そう……だよな」


 なぜか、前にこんな感じの髪の少女に……同じようなことをしていた気がした。


 ……さて、こんなもんでいいだろ。


「どうだ?」


「…………」


 またもや、トンカツは嬉しそうである。


「ついでにこれもやるよ」


「……へ?」


 俺はリボンを作り、トンカツの頭の後ろにつける。


「…………」


 じっと鏡を見つめている。なんだか微妙な顔をする。


「……どうでしょうか?」


「あ? けっこう似合っていると思うぞ」


 そう言うと、トンカツはまた嬉しそうにする。似合っているかどうか不安だったのだろう。


「……よっと」


「…………?」


 突然、ベッドに寝る俺にトンカツは不思議に思う。


「俺、ちょっと二度寝でもしようかな。今日は午後にエルのところに行くだけだし……」


「……エルさんですか」


「…………え?」


 なぜか怒りのこもった顔をしながら、ブツブツ呟いている。


「……M太郎……トンカツ……絶対……おかしい……」


「ああ」


 そういえば、こいつ変な名前しかつけられてないな。でも、なんだかんだトンカツが一番合っているような気がする。(※ネーミングセンスは皆無)


 バタンっ!


 その時、急に扉が開けられる。


「ここにロリっ子がいると聞いて!」


「どっから沸いた?」


 そこにはロリコン、すなわちウィルがいた。


「くおおおおおおお! 可愛いいいいいいいい!」


 ウィルはすぐにトンカツのところに向かう。


「このブレザー、ミニスカートの選択。なかなかわかってるじゃないか。カケル君!」


 そして、トンカツの肩に触れる。


「いやあ。こんなにも可愛くなってしまうんだね。さすがだよ」


 ぺっ


「…………ん?」


 ウィルの手に唾がつく。どうやら、トンカツがつけた物らしい。


「……汚い手で触らないでください」


「……んん?」


 バシっ


 トンカツはウィルの手を弾き飛ばし、部屋を出ていく。


「……なんか、結構きつい性格してるね」


「まあ……そうらしいな」


「うん……ちょっと興奮した」


「とりあえずお前は一回病院行け」


 すると、何やら部屋の外から声が……。


「なあ、ウィルはいるか?」


「ウィルさんですか。彼ならこの部屋にいますよ」


「……わかった」


 その会話を聞いたウィルは顔が青ざめ、窓に向かっていく。


「カケル君。さらば!」


「…………おう」


 窓から外へ逃げていくウィル。同時に扉が勢いよく開けられる。


「こらああ! ウィル! 迷惑かけるなって言っただろうがあ!」


 赤い髪の女が入ってくる。


「……よお。ステファニー」


「おい。カケル。ウィルはどこ行った?」


「窓の外に逃げたぞ」


「あの野郎!」


 そして、普通に窓から飛び出て、ウィルを追う。もうウィルが変なことしたらステファニーが止めるのは日常になっている。


 最近わかったが、わりとステファニーは身体能力が高い。あの聖騎士であるウィルに着いていけるほどである。きっと彼女だからこそウィルの世話ができるのだろう。


「……さて……」


 部屋に誰もいなくなってしまった。


「……寝るか……」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 パサッパサッ


「…………あ?」


 再び起きると、昼頃だった。横にホウキで床を掃くトンカツの姿があった。


「……何やってんの?」


「何って……掃除ですよ。結構床って汚れてるんですよ」


 掃除……?


「なんで急に……」


「汚いのは嫌いなので……」


「ふふっ。じゃあ俺のことは嫌いか?」


「……汚い自覚はあったんですね」


 そこは否定してほしかった。


 やばい。メンタルが折れそう。


「さて……っと」


 俺はベッドから立ち上がり、部屋の扉へ向かっていく。


「ご主人。どこか行くんですか?」


「ああ。こっから一回ギルドに行って、そっからエルの家に行くんだよ」


 ガシッ


 すると、トンカツが俺の服の袖をつかんでくる。そして、上目遣いで俺を見つめる。


「私も一緒に行っていいですか?」


「え……?」


 おっ……おう。なんかこう攻められると照れるな。


「ご主人が汚したところは掃除しないと……」


「…………」


 さっきまでの期待を返せ。


「お前は俺を何だと思ってやがる」


 すると、首を傾げ答える。


「歩く性欲の塊?」


「聞かなきゃよかった」

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