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第49話 大抵のものは擬人化すれば愛せる

「……ありゃ……」


 俺は教会のベッドで目を覚ます。窓の外はすっかり太陽が登っていた。


「ぶひー!」


「おお。トンカツ。おはよう」


 膝の上に飛び込んでくる豚、トンカツを撫で回す。


「よしよしよしよし!」


「ぶひいい!」


 やがて撫でられるのに疲れたのか、俺から離れていく。わりと自由な性格をしているのだ。


「よいっしょっと……」


 机の上を見ると、何やら料理が置かれている。いや、黒い塊だったので料理と呼べるかはわからない。そこにはメモも一緒に置いてあった。


――起きたら食べてね。レイラより――


「トンカツ、食べるか?」


 あの豚ちゃんはベッドの下に逃げ込む。


 まあ、そりゃそうなるわな。


「食ったら死ぬしなあ……」


「カケルのお兄ちゃん、何やってるの?」


 扉を開け、ジルちゃんがこちらを見つめる。


「ぶひー!」


「あっ。トンカツ! ……よしよしっ……」


 トンカツはベッドの下からジルちゃんの方に走っていく。


「やっぱりトンカツは可愛いなあ」


「ぶひっぶひっ」


 どうやらずいぶんと仲が良くなったようだ。


「ジルちゃん」


「へ? どうしたの? カケルさん」


「これ、食う?」


「わあ。美味しそうなステーキですね」


 あっ。ステーキだったんだ。これ。


 ……朝からステーキ?


「今は腹がすいてないんだ。食べるかい?」


「いいんですか? それじゃあありがたくいただきます」


 うん。これが一番平和な解決法だ。


 料理だって美味しいと思ってくれる人に食べてもらいたいものだろう。


「わーい!」


 ジルちゃんは料理を持って寝室を出ていく。


「……さて」


「……ぶひっ」


「……ん?」


 なんだかトンカツの元気が無い。


「どうした? お腹すいたのか?」


「ぶひ!」


 どうやらそうらしい。


「ちょっと待ってろ……」


 俺は魔法で料理を作る。


 ちょっとした鶏肉の唐揚げだ。さすがに豚肉を食わせるほど鬼じゃない。


「……よいしょっと」


 ついでにお皿も作り、トンカツの前に置く。


「ほらっ……食いな」


「ぶひ!」


 やっぱりこうやって世話をするとペットのことは可愛いと思うものだなあ。


「……そういえば」


 ふと、持っていた瓶を取り出す。この中にはシャーロットさんからもらった錠剤が入っている。


 その錠剤を手に取って眺める。


「……何の効果があるかまるでわからないな」


 さすがに誰かで実験をするわけにはいかないし、本当に困った。


 ポトっ


「……あっ……」


 錠剤を一つ、床に落としてしまう。


 俺はそれを拾おうと、手をのばす。しかし……。


「ぶひっ!」


 パクっ


「……え?」


 トンカツがそれを食べてしまった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 必死にトンカツを抱え、背中をさする。


「吐き出せ! トンカツうう!」


「……ぶひ?」


 ピカアアアアン!


「……は?」


 薬を飲み込んだトンカツは激しく光り始める。


「えええええええええええええええええええええええええ!」


 その光に辺りが包まれ、やがて周りが見えなくなった。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 光がだんだんと弱まっていく。


「……ん……ああ?」


 最初はあまりの眩しさで視界がはっきりするのに時間がかかった。だが、しだいに状況を理解する。


 プニっ


「ひっ」


「え?」


 俺は少女の腹を触っていた。


「いやああああああああああああああああああああああ!」


「えええええ!」


 俺の腹が蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「ご、ごごごご主人様? 何をしているんですか?」


「ご主人様だって!? 俺が? いったい何を言っているんだ?」


 そこには裸の、短い白髪で頭に豚の耳を生やした少女がいた。


 ……豚の?


「……お前、名前は?」


「へ?」


「名前」


「……トンカツ……ですけど……」


 ああ。


「あああああああああああああああああああああ!」


「……?」


 あのマッドサイエンティストがあ!


「……どうしましたか?」


 つまり、あれか?


 動物を人にする薬だったってわけね。


 もう動物を人間にする計画は始まってるってわけね!


 ……大丈夫か? 俺。


 じーっ


「あの……そんなに私の裸が見たいですか?」


「誰がお前の貧相な胸など……」


 ドシュっ


「うげっ……」


 俺の顔面が蹴られる。


 なるほど……こうやって蹴れば、女の子の大事なところがちょうど足の裏で見えなくなるわけかあ。


 ……何を考えているんだ? 俺は。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「……なあ、そろそろ許してくれないか?」


「…………」


 トンカツはベッドの上で毛布にくるまりながら、こちらをにらみつける。


「……そうだなあ」


 俺はブレザーやミニスカート、下着などそれっぽい服を魔法で作り出す。


 作った服は完全に俺の趣味である。文句は受けつけないぜ。


「まあ、とりあえずこれを着てくれ」


 バシっ


 トンカツはそれらを受け取り、毛布の中でもぞもぞ動いている。


 そんな中、俺は重大な疑問にぶつかっていた。


「……トンカツは……メスだった?」


 少女の姿を見た。もしも性別が変わらないなら、トンカツはもともとメスだったということになる。


「……こりゃまたウィルが元気になってしまうな」


 残ったもう一つの錠剤はどこかに隠しておくか……。


 ガサっゴソっ


「お? 着れたか?」


 コクリっ


 毛布の動きで頷いたのがわかる。だが、なぜ毛布から出てこない?


「…………」


 バサっ!


 毛布を剥ぎ取るとスカートや下着を頭に被り、ブレザーを前後ろ逆に着ていた少女がいた。


「……大丈夫か?」


 ギロっ


 毛布を取ったことで、怒っているのだろう。あの可愛かったトンカツはどこに行った?


「仕方ねえな」


 俺はトンカツに服を着させる。


「……なんでこんなことになってるんですか?」


「知らん。俺に聞くな」


 パンツをはかせ、ブラをつける。


「……あの、ちょっと恥ずかしいのですが……」


「は? 恥ずかしがる胸を持ってから言え」


 ゴツンっ!


 俺の頭にたんこぶができる。


「次、そういうこと言ったら本気で殴りますよ?」


「オーケー、オーケー」


 なんでこいつこんなに暴力的なんだ?

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