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第40話 流れる勢いが熱を纏う

 バジイインっ!


 カケルとウィルは互いの木剣を激しくぶつけながら、ステージの上を駆けめぐっていた。


 その様子をステファニーとエルは眺めている。


「……すごい」


 ステファニーは戦いを見て、そう呟く。その場にいると、ステージから熱い空気が流れてくるのだ。


「……ウィル」


 光り輝くクリーム色の髪を揺らし、彼はカケルに向かって剣を振るっていた。


「頑張って……」


 集中している彼らにその声は届かない。だが、しだいにウィルの動きが加速していくのがわかる。


 ウィルにとってこの戦いは絶対に負けられない戦いだった。彼はこの勝負に勝ち、ステファニーに告白をする。


 その思いが、彼を背中を押しているのだ。


「はあっ!」


 振り下ろす剣がカケルの頭上を捉える。だが、その攻撃はカケルに防がれる。


「まだだ!」


 防がれた剣を戻し、横からカケルに振るう。カケルはそれを予測し、再び防ぐために剣をかまえた。


 しかし、その予測を越える事態が発生した。


 バキッ


「…………え」


 カケルの木剣が折れたのだ。綺麗に真っ二つに……。


「うおっ!」


 そのまま、向かってくる剣をかがんで避ける。その剣はわずかにカケルの鼻をかすった。


 カケルは折れた剣先を拾い、ウィルから距離を取る。


「…………」


 折れて、木の筋が目立った剣がそこにあった。カケルはそれをじっと見つめ、状況を理解する。


「折れたあああああああああああああああああああああああ!」


 綺麗に折れた剣を眺めながらカケルは叫ぶ。


 ウィルはその光景を見て、がっかりする。戦いの結末がこんなことになるとは思わなかったのだ。


「……カケル君。君の負けだ。その剣じゃあ戦えない」


「…………」


 カケルは悔しそうにウィルと剣を交互に見る。


 だが、やがて何かを思いついたかのように笑みを浮かべる。


「……なあ、ウィル。たかが剣が折れただけで戦えないと思ってないか?」


「…………どういうことだい?」


 すると、カケルは折れた剣先の根元を握り、かまえる。彼の両手にその武器が備わっていた。


「……まさか!」


 瞬間。


「……うぐっ!」


 バシシイインっ!


 ウィルはカケルの剣を受け止める。しかし……。


「……くっ!」


 受け止めていたものとは別の攻撃がウィルに向かってくる。


「うおおっ!」


 その攻撃がウィルに到達する前に、カケルを弾き飛ばす。


 カケルの動きは、先ほどとはまるで違っていた。それは弾き飛ばされたカケルの様子を見てわかる。


「……まさか……二刀流かい?」


「そのとおりだ!」


 再びウィルのところにカケルが向かってくる。


「……ぐおっ!」


 二刀流の攻撃は非常に読みづらく、防ぐには難しいものばかりだ。


 ウィルの最も苦手な相手と言えるだろう。


「……嫌だね。これは……」


 バシッ! ビシッ! ベシッ!


「でも……面白い」


 次々と向かってくる剣筋を捉え、ウィルは防御と回避を繰り返す。


 カケルが無防備だと考えたタイミングで、剣を振るうがそれらは防がれてしまう。


「……でも!」


 ウィルはカケルに対し、思いっきり剣を振るう。それを防御したカケルは離れた位置まで吹っ飛ばされた。


「……やっぱりね」


 カケルは4000年生き、100年ほどの記憶を持っている。その中で剣術のような戦い方の知識はあらかじめ経験しているのだろう。


 だが、いくら知識があろうと一つ、ウィルに敵わない点があったのだ。


「…………」


 ウィルが拳に力を加える。それを見たカケルは警戒を強めた。


 カケルの体はあくまで18歳の少年のものだ。対してウィルは26歳の大人。さらに普段から鍛練をしているウィルは圧倒的に力があった。


 つまり、順調に行けば、ウィルがこの戦いに勝つことになる。


「……どうやら、そうはさせてくれなさそうだね」


 カケルの目付きが変わった。次の攻撃で決める気なのだ。肉体の体力だって、ウィルの方が勝っている。これ以上長引かせると、不利になってしまう。当然の選択だ。


「……行くぜ? ウィル」


「……うん。カケル君」


 互いに剣をしっかりと握り見つめ合う。


 その中でウィルは考えていた。


――カケル君。きっと君はそんなことはしないとわかっている――


 ウィルはしだいにこの戦いに意味を持たせていた。日々鍛練に励み、今では聖騎士として戦う毎日。そんな中で、ウィルには()というものが存在しなかった。身近に()というものになりえる者がいなかったのだ。


 だが……今は違う。


――僕の事情は関係無い。この戦いで君という壁を打ち破って、僕は進みたい。だから……――


 目の前にカケルという名の、信頼する(てき)がそこにいるのだ。


――本気で僕にぶつかってほしい。例え、この後僕がステファニーさんに告白して振られたとしても、僕は恨んだりしない――


「だって……」


 握りしめる剣に、さらに力を込める。


「……君は、こんなロリコン(ぼく)でも助けてしまうすごい人なんだから……」


 だからこそ、超えたいと思った。


 それがウィルの思いだった。


「……行くよ。カケル君」


 向かい合い、見つめ合うその空気は先ほどとは違い、冷たいものだった。


 どちらも相手の動きに集中しているのだ。相手の動きを一瞬でも捉え損ねたら、負ける。


 それが、この戦いだった。


「…………」


「…………」


 空気が冷える中、風が吹く。


 そして……。


 ビシッ! バシッ!


 風が止んだ。

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