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第39話 激しくなる鼓動

「……カケル」


「来てくれたんだな。ステファニー」


 俺はステファニーの前まで走る。


「もう大丈夫なのか?」


「……ああ。ちょっと落ち込んじまってただけだ」


 彼女はそう言っていたが、少しだけ肩が震えているのがわかる。きっと勇気を振り絞ってここに来たのだろう。


 ステファニーから見れば、いつウィルから非難されてもおかしくないのである。もちろんウィルがそんなことをする訳はないのだが、ステファニーがそう考えるのも無理はない。


「んじゃ、とりあえず向こう行くか」


「……ああ」


 俺はステファニーを連れて席に向かう。だいぶたくさんの人が集まっていた。


 ちょうどその時、エルも戻ってきた。


「ステファニーお姉様。今日は楽しみましょう」


 ステファニーは周りを見渡していた。


「……ウィルは?」


「それはこれからのお楽しみかな」


「……?」


 あの男は今、ステージの後ろに隠れているだろう。これからパーティを始め、その見せ物としての決闘をするのだから。


 まあ、戦うのは剣が扱えるだけの使用人だから、騎士であるウィルが負ける訳がない。


「んじゃあ、俺はちょっと様子を見てくるから、それまで二人で話していてくれ」


「……うん」


 俺はエルとステファニーを置いて、ステージの裏側の様子を見に行く。


「おーい、ウィル。準備できたか?」


「ははっ。大丈夫だよ。ちゃんと剣を使えてるし」


「おう」


 んじゃあ、そろそろ始めるか。


 俺は使用人の一人に合図を送る。そして、マイクを持った少年が話し出す。よく見ると、そいつはクロトだった。


『……ええ。本日はお集まりいただきありがとうございます。今回はエル様の誕生日のお祝いをしていただくために……』


 あいつ、誕生日だったのか。だから、パーティ開けたんだな。


 その後もいろんな人の話は続き、やがて見せ物の決闘が始まる。俺はステージの裏側に声を出す。


「おーい。ウィル。そろそろ始まるぞ」


「あ……」


「……ん?」


 俺はそこをのぞいてみる。すると、信じられない光景を目の当たりにする。


 決闘に出る使用人が倒れていたのだ。その使用人の額にはこぶができていた。


 俺は状況を理解できずにウィルに質問する。


「何やってんだ?」


「いやあ、練習を込めて、一度戦ってみたんだけどね。その時に運悪く頭に当たっちゃって……」


「もう一度言ってやる。何やってんだ?」


 非常にまずい。今、この使用人を失ったら他に誰が戦えばいいってんだ。


「マジでなんてことしてくれたんだよ!」


「ぐあっああっああ!」


 俺はウィルの胸ぐらをつかみ、思いっきり振り回す。


「だって……あらかじめ相手の力量は知っておいた方がいいと思って……。試合の時に困るじゃん」


「結局、今困ってんだよ! なんなら試合中に怪我する分には終わったあとに病院行けば、まだ良かったんだよ!」


「……確かに……」


「おい!」


 誰か、他の人を探さなければ!


 魔王あたりを探してくるか……。


「おい! ウィル! 俺は今から魔王探してくるから! それまで場を繋いどけ!」


 モミュっ


「……え?」


 俺が手を伸ばすと、そこに何かがあった。


「ぎやああああああああああああああああああああああああ!」


「ぐえっ!」


 俺の腹に蹴りが炸裂する。


「何するんですか!? また揉みましたね! このド変態!」


「はあ! 透明になってる方が悪いだろ! 胸を揉んだのは不可抗力だ! ありがとうございます!」


「お礼を言うな!」


 てか、こんなことしてる場合じゃない!


「おい、モナ! お前も場を繋ぐの手伝ってくれ」


「あの……思ったんですけど……」


「なんだ!」


「カケルさんが出ればいいんじゃないですか? 確か剣術得意なんですよね」


「…………」


 あっ……確かに……。つい自分が出るという選択肢が無くなっていた。


「……モナ」


「はい?」


「お前、天才か」


「普通に思いつくでしょうが! あなたの特技忘れてどうするんですか!」


 よしっ! そうと決まれば!


 俺は使用人の持っていた木剣を手に持つ。


「行くぞ! ウィル!」


「うん!」


 俺たちはステージに上がった。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


『……ええ。では、次に始まるのは剣による決闘です。お二人とも素晴らしい実力の持ち主です』


 ……やばい。思った以上に人がいて緊張してきた。


 顔がひきつる俺とは違い、ウィルは平然としていた。やはり、聖騎士となると人前に出るのは慣れているのだろうか。


『では、私の合図で始めさせていただきます』


 俺は木剣をかまえる。ウィルを剣先をウィルに向ける。そして、体を魔法で身体強化させる。


 この剣による決闘というのは、基本自分にしか魔法は使ってはいけない。自分に使うとしても、この身体強化は怪我をしないためのものだ。


 てか、たぶん練習の時も使用人は使っていたのだが、それでこぶができるとか、どんだけあいつ強く剣を振ったんだ。


『では……始め!』


 お互い相手の様子を探る。


 俺はウィルの視線を見ていた。だが、やつの行動が読めない。


「……なんだ? 何を考えているんだ?」


 なんだか、ウィルの動きがゆっくりなのである。


 まさか、手加減しているのか? そんな試合を見せて、ステファニーが喜ぶと思ってるのか?


 ……これは少し刺激を与えてやるか……。


「…………」


「…………」


 ダっ!


「…………え?」


 ウィルはいきなり姿を消した俺に困惑していた。


「……まさか! 後ろか!」


 バシッ!


 瞬間、ウィルは俺の攻撃を受け止める。互いに剣に力を込め、踏ん張っている。


「ぐおおっ! カケル君! 結構全力で来るね……!」


「当たり前だろ? どんな勝負でも全力でやる義務ってのがあんだよ!」


 俺はいったん剣を離し、下からもう一撃振り上げる。


「ぐおっ!」


 その攻撃もウィルは受け止める。


「……ギルドの試験の時とは大違いだね」


「そりゃあ……普通の重力だからな!」


 バシッ!


 ベシッ!


 さらに再度、二連擊をウィルに加える。それを受け止めたウィルは押し飛ばされ、遠くへ行く。


「ウィル」


「……なんだい? カケル君」


 俺は口元に笑みを浮かべる。


 さすがは聖騎士だ。ここまで剣をうまく使うなんて……。


「いいな。これ」


「……?」


 やはり勝負というのは実力が同じぐらいでないと面白くない。だから、こうやって激しい戦いをするのはなんとも楽しい。


「さあ、もっと踊ろうぜ!」


 バシッ。ビシッ。ブシッ。


 それからも剣をぶつけ合い、熱戦を繰り広げていった。

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