第38話 支え合うこと
俺はステファニーの住む家の前に来ていた。
「……ステファニー?」
扉に話しかけても返事が無い。寝ているのだろうか。
仕方がない。後日また来よう。
そう思ってその部屋から離れようとした時だった。
「……ごめ……んね……」
「…………」
小さく弱々しかったが、確かにその声はした。
おそらく俺が予想する以上に罪悪感を感じていたのだろう。きっと……俺やウィルに申し訳なく思っていたのだろう。
自分がしてしまったことを謝ろうと思っても、なかなか言い出せなかったのだろう。
だが、ステファニーはちゃんと話した。強いやつだ。
「……オレ……ずるいよな。……自分だってこの喋り方を隠してるのに……」
「ステファニー……」
「なのに……ウィルを否定してしまった。……そのことがなによりも……辛い」
「…………」
彼女はおそらく、この扉の向こうで泣いている。
「……オレ……ちゃんとウィルに謝りたい。……会って話がしたい」
「ああ。すればいい」
「でも……ずっと勇気が出ないんだ。扉を開ける勇気が……」
その勇気は……きっといつかお前に与えられる。
ただ、俺はそのきっかけを与えることしかできない。
「……ステファニー」
「…………」
「来週あたり、あるパーティを開こうと考えてる。もし良かったら、来てくれ」
「…………少し……考えさせて」
この話をステファニーが飲み込んでくれれば、順調に物事が進んでいく。きっと受け入れてくれる。
そう信じるしかない。
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「おかえりなさい、カケル君」
俺が教会に戻ると、いつも通りレイラさんが出迎えてくれた。
「……浮かない顔してますね。何かあったんですか?」
「……ああ」
いろんなことがあって、俺はこの人を信用していた。だから、今までの事情を話した。
「……なるほどね。まさか、ステファニーがねえ」
「……俺……ちゃんと成功させることができるかな」
ウィルやステファニーの前では、あまり弱気な面を見せなかったが、100%成功させることができるかと聞かれれば、自信が無くなる。
「大丈夫ですよ」
「……え」
レイラさんは俺の手を握り、祈り始める。
「タナーカ神と私がいつでもあなたを見守っていますから」
「…………」
その時、この人がシスターなのを思い出すと同時に、この人が優しいことも思い出した。
傷ついている人がいれば、必ず助ける。そういう人だったのだ。
「……ありがとう……レイラさん」
レイラさんの言葉は俺の励みになった。
すると、誰かがこちらに向かってくる。
「レイラさーん!」
それはジルちゃんであった。
「どうしたの? ジルちゃん」
「そろそろお風呂に行こう」
「そうね。わかったわ」
ああ、なんか若干顔がニヤニヤしている。
その時、この人が女の子好きだと言うことも思い出した。
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「ブヒヒー!」
「おお! トンカツ。元気にしてたか?」
トンカツは今も俺と一緒に住んでいる。マリアが来た時はなぜかどこかに行ってしまい、なかなか帰すことができないのだ。
まあ、あいつがいなくなれば、すぐに現れるのだが……。
「よしよしよし! お前はやっぱり可愛いなあ」
「ぶひぶひ……」
俺はトンカツを撫でまくる。だんだんトンカツは疲れてきたようだ。
普段、俺がいない時はレイラさんやジルちゃんに世話をしてもらっているのだが、やはり教会の中だけだと物足りないことがあるのだろうか?
「……今度、時間ができたら、どこか行くか。レイラさんやジルちゃんと一緒に……」
「ぶひひ!」
どうやら、賛成のようだった。
「……んじゃあ、せめて今回のことはやりきるしかねえよな」
「……ぶひ?」
やりきるしかない。それが俺の決めたことだからだ。
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俺は執事服を着て、エルの近くにいた。今日はそのパーティの日だった。
「ちょうど二週間ギリギリの日になっちまったな」
「仕方ないわよ。お母様にお願いしたけど、その日しか空いてないみたいだったわ」
あの母親に頼んだのか。
「……『駄目』……『その日しか無い』……の二つ返事だったわ」
たぶんエルがいなくなった後、めちゃくちゃ喜んでいたんだろうな。あの人エルのこと大好きだもん。
「……ステファニー……来てくれるといいんだが……」
「うん」
俺とエルは会場で待っていた。
「……ちょっとトイレ行ってくるね」
「ああ」
エルは歩いていき、やがてその姿が見えなくなると……。
「おらあああ!」
「え?」
俺の背中に誰かが蹴りを入れてくる。
「ぐえっ!」
その衝撃で地面に倒れ込む。
「何するんだ!?」
「私の娘に手出してんじゃねえ!」
そこにはエルやステファニーの母がいた。
「ちょっと落ち着いて、お母さん」
「お母さんじゃない!」
「じゃあ、おばさん」
「殺すぞ?」
「ひどくね?」
その時、俺の後ろから走ってくる音が聞こえた。
バシュっ!
ある人物がその母親の腹に飛び込む。
「お義母さん。落ち着きましょう!」
「ぎえっ!」
母親は腹に受けた衝撃で気を失う。
「いやあ、ごめんね。カケル君。ちょっと目を離した隙にいなくなってて……」
「いえ、助かりましたよ。ウィリアムさん」
そのまま、ウィリアムさんは母親を肩に担ぎながら、奥の会場に向かう。
最近では、この光景がもう慣れていた。
「それにしても、マジでエルの前だと大人しいんだな。あの母親」
まるで、エルが離れたところを狙っていたかのような登場の仕方だったからな。
…………お?
すると、入り口の方から赤いドレスを着た女性がやってきた。
「……来てくれたみたいだな」