第37話 ウィル君の恋愛
「ぶひゃはははははっ!」
俺はレストランで堪えきれずに笑う。
「……カケル君。さすがに僕も怒るよ?」
「いや、だってつまりウィルも惚れちまったって……ぷっ……ぶひゃはははははっ!」
あの後、ひとまず話し合うためにいつものレストランにやってきた。
ついさっきまで殴り合っていたからか、気まずい雰囲気だったのだが、なんだか思い返すと笑えてきた。
「なあよお。ウィル君やい。ステファニーのどこに惚れたんだあ?」
「……それは……その……優しいところとか……」
「へい! 優しいところ入りました!」
俺が立ち上がりレストラン中に叫ぶと、ウィルは俺の顔面をテーブルに叩きつける。
すると、ルルが料理を運んでくる。
「はい、スープですよお」
「ルルちゃん……君だけは僕の味方だよね」
「それはもちろんですよ。……ぷっ……そんな馬鹿に……ぷっ……してるわけないでしょ……ぷっ……」
「あのお……ルルちゃん?」
俺たちがウィルをからかっていると、エルとモナもやってくる。
「ほらっ。さっさと話を始めましょう。あまり時間は残されてないんだから」
エルの言うとおり、俺たちにはあと一週間と少ししか残っていない。なるべく効率的に話を進めていこう。
それに……。
「ステファニーの方も気になるしな。あいつの様子も見に行かねえと……」
「そうだね。僕も一緒に……」
「いや、今は会わない方がいい」
俺の予測だと、あいつはウィルがロリコンだから逃げてしまったわけではないと思う。
だって、あいつは俺と約束した。ウィルのどんな醜いところも受け入れるって。
それぐらいの覚悟をしたやつが、ロリコン程度で曲がるわけがない。きっと突然のことに驚いてしまっただけだと思う。
だからウィルに対して罪悪感を感じているはずだ。今は会わない方がいい。
「話すのは俺に任せてほしい。できるだけ事情を聞き出してやる」
「…………」
「あ?」
グイっ!
「いてててっ!」
ウィルが俺の頬を引っ張る。なんか、こいつさっきから容赦無くなってる気がする。
「……まあ、仕方ないよね。そのことはお願いするよ」
「お、おう」
頬を放すと、ウィルは何とも言えない表情をしていた。当然だ。自分の好きな人に自分から話すことができないのだから。
「んじゃあ、始めよう」
俺はある紙芝居を取り出す。
「でってれてってってー! 名づけて『ステファニーちゃんベタ惚れ大作戦』!」
「「「…………」」」
周りがじっと見つめる。沈黙の空気が俺のメンタルを突き刺す。
「……じゃあ、始めていきまーす」
部屋にこもるステファニー。
――きゃあ私、ついウィル君の前であんなこと言っちゃったわ――
そんなステファニーの前に一枚の手紙が現れる。
――あらっ! なにかしら……これって! 何かのパーティの招待状じゃない――
パーティの会場にやってくるステファニー。
――あらあら、結構いろんな人がいるのね。楽しそうなパーティだわ――
そんな中、見せ物として剣士同士の決闘が行われる。
――あれ! あの人って! ウィル君!――
――はっはっはっはっ! 我がロリコン奥義を見よ!――
一気に敵を倒すウィル。それに見とれるステファニー。
――すごいわ。ロリコンなのに、剣士としてとても優秀なのね――
そんなステファニーの前にウィルが現れる。
――僕と……付き合ってください――
――ロリコンだけど、それ以上に良い人ね。いいかも!――
そうして、二人は互いに幸せに過ごしていくのであった。
「「「あははははははははっ」」」
「…………」
ウィル以外は全員大爆笑である。ウィル君本人は顔を真っ赤にしていた。
「カケルううううううううううううううううううううううう!」
「落ち着けって。確かにすごい笑える雰囲気になっちゃったけど、本番はすごい真面目な雰囲気でやるから!」
今回、ウィルがロリコンであることがまずいのではない。
ロリコンすぎることが問題なのである。
「だからまずはロリコンである以上に、すげえ良いやつだと思わせればいいんだよ!」
「そんなことでいいのかい?」
「ああ」
俺はエルの前に行く。
「エル。このパーティの件だが、ナタリアさんに頼むことはできるか? なるべく最高のタイミングでやりたいんだ」
「……まあ、できないことは無いけど……」
「ありがとう」
俺はモナの方に向かう。
「ところで、お前にも協力してもらおうか」
「ええ……仕方ないですね」
そいつはウィルの方を見ている。やはり、こいつもこいつで兄が心配かのだろう。
「あの……カケル君」
ウィルはこちらに話しかける。
「じゃあ僕は何をすればいいのかな」
「……え?」
「ん?」
…………。
「当日までやること無いな」
「ええ!」
マジでそうなんだよな。
正直、魔王と対等に戦える聖騎士なら決闘で勝つのは簡単だし、それまでに下手にステファニーと関わるといけないだろう。
「剣の練習でもしてたらどうだ?」
「……僕っていらない子?」
ウィルはしばらく落ち込んでいた。