第34話 輝く意思と大きな夢
俺たちは市場にやってきていた。
普段、野菜や肉など料理で使う食材を集める時に来るが、それらだけではなく服やアクセサリーなど幅広く品が揃っているのがここの特徴である。
そんな中、宝石店に立ち寄っていた。
「これとか綺麗だね。ステファニーお姉様」
「そうだな。この赤いのとかすごくいいと思うぞ」
エルとステファニーはそこで宝石やそれらを加工したものを見て楽しんでいた。
「カケル君。あの店員さん。可愛いと思わないかい。やっぱり時代は合法ロr」
ドゴっ
「いったいなあ! カケル君」
俺の拳がそいつの頭に直撃する。
「おい。お前。欲望に忠実なのはまだ許す。だが、それ以上に年上に対してなんであんなに緊張してんだ!」
「仕方ないよ。僕も自然と体が震えちゃうんだもん!」
「だもん……じゃねえよ! どうにかしやがれ」
ぶっちゃけると、このままステファニーにこいつが普通のイケメンと思われるのはまずい。後々、ロリコンの変態だとわかった時のショックがでかいからだ。
それ以前に、まずはステファニーに対して気楽に接してもらわないと何も始まらない。
「おい。さっさとあいつらに加わってこい」
「嫌だ! どうせ僕が行ってもガチガチになっちゃうだけだもん」
なるほど、こいつに一人で話させるのは酷な話だ。
だが、関係ない。
「おらっ」
「え」
ヒュンっ
転移魔法でウィルをステファニーの後ろへ移動させる。
「…………」
エルからはその光景が見えていて、瞬間移動する程の変態の域に到達していたのか……という目をしていた。
――おーい、エル――
――はっ。なんかカケルの声が頭に響く――
相手の心を読む魔法の応用で、声を出さずに話す魔法を使った。
――ウィルとステファニーに話をさせたい。悪いけど適当な理由つけてこっちに来てくれ――
――……了解した――
「ははっ。ちょっとトイレ行ってくるね」
エルは笑顔でウィルたちに言う。
すると、後ろにウィルがいることに気づいたステファニーも震えだした。
「わ、わわ私も、トイ」
「あっ! そういえば、ここのトイレって一つしか無いのよね。残念だけど、少し時間を置いてから来てねー」
「ふ、ふええ」
エルがトイレの方に向かっていく。
――よくやった。ありがとう――
――勘違いしないでよね。別にこれはお姉様のためにやったんだから。……それよりもお姉様の方をよろしくね――
――わかった――
……と、アイコンタクトを取る。この魔法いらねえじゃねえか。
「ええと。あの、その」
ステファニーはステファニーなりに頑張っていた。
「ウィルってどんな宝石が好きなの?」
「僕かい?」
ウィルは微笑み、ステファニーの頬に触れる。
「君の瞳の色をした宝石がいいかな」
「……ふえっ!」
なんかまた妙なことを言ってやがる。どんなこと考えたらあんなセリフが出るんだよ。
ちょっと心を拝見……。
――ルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けてルルちゃん助けて――
うん。特に深いことは考えてないな。
何か深淵を覗いた気分になった俺は若干諦めつつある。
だが、ステファニーは諦めていなかった。
「……ウィル」
「ん? どうしたんだい?」
「私は……どんな宝石が好きだと思う?」
ウィルは腕を組み、少し考えていた。そして、店のある赤い色の宝石を指差す。
「これとかどうですか?」
「…………」
ステファニーはその宝石を眺めていた。それは先ほどエルと話していた時に綺麗だと思った宝石だった。
彼女はウィルの当たったことに気づいた。そして、宝石を見たまま呆然としていた。
ウィルは少し別のことを考えたため、緊張がほぐれていた。そのステファニーの様子を見て、あることを思いつく。
あいつは店員の方に話しかけた。
「すみません。こちらの宝石って今、加工ってできますか?」
「えっ」
その行動にステファニーは驚いていた。
「どうして?」
「ステファニーさんに似合うかと思いまして。僕からのささやかなプレゼントですよ」
「そんな……申し訳ないよ……」
ウィルはそんなステファニーの手をつかむ。
「大丈夫ですよ。僕だって女の子に何かプレゼントしたいんです」
「……ウィル」
その言葉は緊張ゆえの言葉ではなく、ウィルの心からの言葉だった。
そんな彼らの様子を見て、俺は安堵する。
「……やればできるじゃねえか。ウィル」
4000年生きてるはずの俺が、どんなことにも諦めるものではないと彼、彼女から教わった。
本当に……ウィルやステファニーに敵わないところも多い。
「様子はどう?」
「……ああ」
トイレから戻ってきたエルは俺にそう問いかける。
「なんかうまくやってるよ。俺必要かな?」
「…………」
エルはその言葉を放った俺をにらみつけてくる。
「どうした?」
「いや……自分は見れてないんだなーって」
「……そうか?」
「そうよ」
彼女はヘッドフォンを首からはずし腹の前で抱きかかえる。
「あなた……少しは役に立ってるわよ」
「……少しか……?」
「そう……少しよ……」
彼女はステファニーを見ていた。そして、微笑んでいたように思えた。
「……ねえ、カケル」
「どうした?」
「私がもしも青色が好きって言ったら、どうする?」
「青? それがどうかしたのか?」
「……ううん。なんでもない……」
エルは再びヘッドフォンを首にかける。そして道を歩いていく。
「ちょっとそこら辺見てくるね」
「……おう」
あいつが言ったことに疑問を持っていた。なぜ急に好きな色を言ったのだろうか。
だが、それよりも不安な出来事が起きた。
「これは……視線?」
誰かが俺を見ている気がした。近くからだ。
「…………やるしかねえな」
俺は目を閉じ、あたりを視覚以外で捉える。
すると、わずかに動く気配がした。
「……そこだ!」
俺はその場所に手を伸ばす。
モミュっ
「きゃっ!」
…………あ?
モミュモミュっ
この感触を……俺は知っていた。
これは……。
「……やはりいい感触だ」
モミュモミュモミュモミュっ
てか、でかいな。
「ぎやああああああああああああああああああああああああ!」
「ぐえっ!」
俺は突然見えないものに蹴り飛ばされる。そして、路上で仰向けになる。
すると、その空間から誰かが現れる。そこには透明なマントを持った少女がいた。
「いきなり何するんですか!?」
「……すまん。でも、お前だって透明のなれるマントを使って俺たちに着いてきてただろ」
「……だからといって、さすがに揉みすぎです。それに、急と言うわりには、ずいぶん冷静だったじゃないですか。……わざと揉んでましたよね」
「バレてたか……」
俺は体を起こし服のホコリをはたく。
「お前……なんかどっかで見たことがある気が……」
「は? 私はあなたに会ったことなんてありませんよ」
そう言って、そいつは去ろうとする。見たことは無いにしても、誰かに似ている雰囲気を俺は感じていた。
誰だっただろうか。
「おい、待て!」
その時だった。
ゴツっ
「……あっ」
そいつは爪先が地面にぶつかり、体勢を崩す。そしてそのまま転んでしまった。
「おいおい、大丈……」
俺はその時目にした物に見覚えがあった。
「別になんとも…………ああっ!」
そいつはスカートがめくれていることに気づき、必死に隠す。
「…………見ました?」
「……俺は……」
そう。俺はそれを見たことがあった。
「俺はそのパンツを見た!」
それは……教会でウィルが被っていたパンツだった。
「ぎやあああああああああああああああああああああ!」
その少女は俺の腹に飛び膝蹴りをしてきた。
「どばふっ!」
それをもろに受けた俺は再び地面に倒れ込む。後頭部を打ちつけ、意識が朦朧とする。
そんな中でこいつの正体を呟く。
「……ウィルの……妹……」
見上げる空の中……薄れゆく意識の中で……。
その少女の爆乳……を眺めていた。