第33話 作戦開始
「いやあああああああああああああああああああああ!」
次の日、またレストランにやってきた。そこでステファニーは絶叫する。
「なんで……こんな格好……」
今日のステファニーは派手なドレスを着て、化粧もしっかりとし、実に女らしくなっていた。
まあ、こんな格好にしたのは俺なんだが……。
「おい! カケル! なんでオレはこんな格好しなくちゃいけないんだよ!」
「まあ落ち着けって」
顔を真っ赤に染め、俺の方に身を乗り出していた。
「今のお前はめちゃくちゃ可愛いぞ」
「……え」
すると、突然俺から離れ距離を取る。たぶん引いてる。心が痛い。
実際、俺が女に転生した時に覚えたものをしてあげただけである。たいていの男には可愛くみえるだろう。
「とにかくその格好でウィルと会えば、あいつだって一目惚れだっての……」
「そう……かな……」
ステファニーは自分の髪や服を触ったりして確かめている。わかりやすいな。こいつ。
「とりあえず、その格好覚えとけよ。今度、デートに行くからな」
「……で、デート!」
ますます顔を赤くしていく。
「できない! 恥ずかしさで死んでしまう!」
「安心しろ。そんな恥ずかしがるものじゃない。表向きはただ男女で遊びに行くだけだ」
「え、そうなの?」
「俺だって近くにいるし、困ったら助けてやる」
ステファニーはうまく気持ちを表せないでいた。
「人間ってのは突然相手を好きになることなんてめったに無い。なったとしても、相手の醜さとか汚さを見てがっかりするものだ」
「……だから、まずは友達として仲良くなるってこと?」
「そういうことだ」
ただ、その前にあることを確認する必要があった。
「なあ、ステファニー」
「……どうしたの?」
「お前はどんなにウィルの醜さを見ても、好きでいられる覚悟があるか?」
この問いの答え方によって方向性が変わる。例えば、ここで自信が無いとわかれば、俺は必死に別の彼女候補を探すしかないのだ。
それが失敗した場合、あの母親に命乞いをするしかない。
「あるに決まっているだろ!」
「…………」
その瞬間、俺の命乞いルートが消滅した。いや、最初から考える必要など無かったのかもしれない。
だって、こいつの瞳はあの男を好きになった一途な気持ちを見せていたからだ。
「どんなに醜くても、汚くても、彼はこんなオレに魅力があるって言ってくれた。それが一番なんだ」
「…………」
本当に……人を愛するってことはよくわからない。
だが……。
「そこまで言われたら協力するしかねえわな」
俺も心の中で覚悟を決める。
「後で後悔しても、責任取らねえぞ」
「ああ。わかってる!」
俺はここまで言ったこいつに話さなくちゃいけないことがあった。
「俺たちには、あと二週間しか残ってねえ。それを過ぎたら、きっとあいつの母親が本格的に動き出しちまう」
「そう……だったのか」
「そうなっちまったら、お前も手を出せないし、俺は下手したら人生おしまいだ。それでも……進むことはできるか?」
「おい。何度も言わせるな。オレはもう覚悟ができてる」
「……そうだな」
俺は立ち上がり、外へ向かう。
「じゃあ始めようか! 俺たちのウィル君落としちゃおう大計画を!」
「…………」
すると、ステファニーは俺に着いてこず、じっと俺を見つめる。
「…………そのネーミングセンスはどうにかした方がいいぞ」
「…………自覚はある」
今日の俺は誰よりも顔を赤くした自信があった。
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俺は広場の噴水の前にいた。
「ねえ」
「ん?」
「なんで私を誘ったの?」
エルは俺をにらんでいる。なぜそんな嫌そうな顔をする?
「いや、だってルルやチェナを誘ったらウィルがやばいことになるからな……。かといってマリアやコラちゃんみたいな友達の前にあの格好で会わせるのはたぶんステファニーが恥ずかしがるし……」
「じゃあ、消去法ってこと?」
「ああ。そういうk」
ボカっ!
俺の顔面に拳が飛んでくる。
てか……グーですか?
「なぜ殴る?」
「……自分に聞いてみなさいよ」
腫れた頬を撫でながら、エルと二人で待っていた。
「カケル!」
遠くからステファニーがやってくる。
「えっ。お姉様?」
そういえば、こいつはまだこの服装を見てなかったな。
「やあ。お待たせ」
ウィルも少し遅れてやってきた。
「うぃ、ウィル!」
「こんにちは。ステファニーさん」
ステファニーはウィルの前でモジモジしている。やはり緊張しているのだろう。
その様子を見てエルは唖然としていた。
「え? ……お姉様。もしかしてウィルのこと……」
「オーケー。少し黙ろうか」
ウィルはステファニーの姿を見て、微笑む。
「今日のステファニーさん、なんか可愛いね」
「か、かかかかかかかか可愛い!?」
めちゃくちゃ顔が赤くなっている。
「そそ、そそそそそんなことないよ。私なんて……」
エルは目を丸くしていた。
「ねえ。あれ、お姉様よね。なんか完全に惚れてるように見えるんだけど……しかも、喋り方いつもと違」
「聞かないであげて|
俺はエルの首のヘッドフォンを耳につける。
ポカッ
なぜか、再び顔面を殴られるのであった。
「ちょっ! 急に触んないでよ! ビックリしたなあ!」
「……すまん」
俺は両方の頬をさすりながら、ウィルとステファニーが話し合う様子を眺めていた。
「……まずいな」
「どうしたの?」
「ウィルが変態じゃない」
「……むしろいいことじゃない?」
ウィルが変態じゃない……ということは、あいつは年上に対して、頑張って接しているということだ。つまり、あいつ自身が楽しめているわけではない。
それだと少なくとも年上と恋愛をするなんてレベルにすら到達できない。
まあ、ここまではおおかた予想通りである。ウィルが普通ではないことは前から知っていたし。
「よし……じゃあ今日のプランを始めるか」
俺はこの街の地図を取り出す。そこにはあらかじめ調べていたルートが記されている。
ある程度ウィルたちが話しているのを待ち、タイミングを捉え話しかける。
「んじゃ、そろそろ行こうぜ。今日は楽しんでいこう」