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第31話 モンスターな母

「おーい」


 呼び掛けても反応が無い。家の鍵はこいつが持っているはずなんだが……。


「……しょうがねえな」


 俺はウィルを玄関の前に座らせる。そして、辺りを探し始める。


「……どっかにスペアの鍵があればいいんだが……」


 探知魔法で辺りの金属を探る。すると、近くの地面から反応があった。


「こんなところに埋めてあんのか?」


 隠すにしては手の込んだ場所だと思ったが、それほど気にせずに地面を掘り出す。


 しかし、そこには意外な物が埋まっていた。


「……なんだ? これ」


 何かのメモリだろうか。


 ちょうどクロトから借りているゲーム機に入れられそうな場所があった。


「……やってみるか」


 俺はそのメモリを差し込む。すると、ゲーム機の画面に映像が映る。


 その映像には、ある女性のシルエットが映っていた。


『……今、教会の手前にいます』


「……なんだ?」


 女性の言葉は何か無機質な雰囲気を漂わせる。


『……今、ギルドにいます』


「……あ?」


『……今、市場にいます』


 ……メリーさんの物まねか?


『……今、そこでエロ本を買いました』


「何を言って……」


 唐突に俺は服の中にあるそれを思い出す。それは……。


『……それは純愛物のエロ本です』


 純愛物のエロ本だった。


「なん……だって……」


『……今、恥ずかしそうに服の中に隠しました』


 まさか、俺の今日の行動を説明しているのか?


『……今、レストランに着きました』


 間違いない。俺を尾行していたんだ。


 でも、なんでそれを記録したメモリがウィルの家の庭に?


『……今、レストランから出てきました』


「……え?」


 レストランから出たって言ったのか? 確か、そこを出たのって、数分前の話なんだけど……。


『……今、とある家に着きました』


「……ちょっと待て」


 まさか、次の行動を言ったりしないよな。


『……今、』


 ゴクリっ


 そうだよ。きっと何かのいたずらだって。ここまで手の込んだいたずらをするなんて、最近のやつはなかなかサービス精神がすごいなあ。


 お、おおお落ち着けって。今、きっと『ドッキリ大成功』って言ってくれるって!


 決して、後ろから現れたりしないっての!


「…………」


 だが、その時の俺は後ろを振り返ってしまった。


「うあああああああああああああああああああああ!」


「ワンっ!」


「……え?」


 後ろにいたのはただの野良犬だった。その野良犬もこちらに興味を示さず、どこかへ行ってしまった。


「なんだ……野良犬かよ。ビックリさせやがって」


 そして、再び、画面の方を見る。


「今、あなたの目の前にいます」


「…………へ?」


 そこには目を見開いた女性がいた。


「ぎいやあああああああああああああああああああああああ!」


 俺は慌ててその人から離れる。あまりの驚きで危うく小便を漏らすところだった。


「……あれ?」


 実際よく見ると、普通の人であった。クリーム色の髪が特徴的だった。


「ウィルの友達?」


「……え。……はい」


 この人はウィルの家族かなにかだろうか。


「私はウィルの母のシャーロット。あなた……やはり探知魔法を使えるのね」


「……あ、はい」


「やはり……面白いわ。重力操作、読心魔法、それに加え、暗黒魔法みたいな亜種も扱えるなんて……それに……」


 なぜか、この人はプルプル震えている。


「可愛いいいいい!」


「……え?」


 すると、急にその人は俺に抱きついてきた。


「何してんですか!?」


「いやあ、この筋肉の張り具合、幼さの残る顔、何を取っても素晴らしいわ」


 おかしいなあ。ついさっきまで魔法について語っていたのに……。


「確かに俺は肉体は18ですけど……魂は4000越えてますからね!」


「いいじゃない! ロリババアならぬショタジジイでしょ! 私の大好物よ!」


 ……うん。ウィルの変態っぷりは、この人譲りらしい。


「でも……」


 突然、シャーロットさんは俺を突き放す。


「やっぱり一番は孫よね」


「…………」


 その人は顔を赤らめながら、言う。


 ウィルの言っていたことがわかった気がする。


「だから……ね?」


「……なんすか?」


 なぜか、俺の方を見つめる。


「協力……してくれるわね? ウィル君の結婚相手を探すの……」


「…………」


 俺は身の危険を感じた。だが、それでも彼女に協力するわけにはいかない。


「悪いですが、あなたの言うことを聞くわけにはいきません。ウィルの相手はウィル自身が自分で決めるべきです」


「そうなの……仕方ないわね」


 さあ。いくらでも俺は痛めつけられてもいい。


 それで、ウィルがひどい目に会わないならば!


「じゃあ、あなたを幸せにしてあげる」


「……え?」


 その言葉を俺は理解できなかった。


「どういう……ことですか」


 もしかして、別に逆らっても何もしないのか?


「……あなたの脳を少しいじらせてもらうわ」


「……ん?」


 さりげに怖いこと言った気が……。


「これからあなたの脳をいじくって、嫌でも私の言うことを聞かせ、無事ウィルが結婚して、孫の顔を見れたら、あなたの脳を再びいじり、露出趣味のある変態に書き換え、あなたに全裸で道を歩かせ、この街で出会った人間に蔑まれた目で見られ、その後街を追い出されたタイミングで脳を元に戻す。そして、今までの変態行為を後悔しながら、街の外でも全裸になってしまうように脳を書き換え、嫌でも苦しみながら人生を送らせ……」


「ちゃんと言うこと聞くので許してください」


 この作品の倫理観どこいった?


 脳をいじるとか怖すぎるわ! しかも、いじった後の仕打ちもひどすぎる!


「ありがとうね。ぼうや」


 そう言って、シャーロットさんは俺の頭を撫でる。


 人生でここまで撫でられたことが嬉しくなかったのは初めてだ。


 この人の『撫でる』は、『脅す』と同義である。


 本人めっちゃ笑顔ですけど……。


「じゃあ、ウィル君の結婚相手を探さないとね……」


 その時、不意にステファニーのことを思い出す。彼女は若干ウィルに恋をしている。


 それなのに、ウィルを別の人と結婚させるわけにはいかない。


 こんな俺でも、あいつと相談された人間だ。ここで引くわけにはいかない!


「シャーロットさん!」


「……なにかしら」


「俺に……二週間ください!」


 彼女はその言葉を聞き、奇妙に思っていた。


「なぜ? 二週間与えたところで何になるの?」


「あいつに……ウィルに彼女を作らせてみせます!」


 シャーロットさんは目を見開き、こちらに威圧感を与える。だが、負けずに俺もシャーロットさんを見つめる。


「…………」


「…………」


 やがて、彼女は目を閉じる。


「……わかったわ。あなたの可愛さに免じて、今回は許可してあげる」


「ありがとうございます!」


「ですが……」


 彼女は顎を上げ、こちらを見下ろす。


「もし、彼女ができなかったら、あなたの顔がもっと私好みの可愛さになるまで殴り続けます。いいですね?」


 その質問に……。


「……はい」


 断る権利などなかった。


 ……なんだか、余命二週間が確定した感じがする。


 ステファニーとウィルに付き合う意思が無ければ、マジで俺終わるんだけど……。


 さっきの発言がすでに後悔となって、俺の体に染み込む。どうせなら、一年間とかにすればよかった。


「……さて、私はもう行きますね」


 シャーロットさんは庭の外へ出ていく。その時、気絶しているウィルの顔を見る。


 その時の瞳は何か穏やかな雰囲気をまとっていた。

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