第28話 姉と妹
「カケルくーん」
「うひゃひゃひゃひゃ」
その少年は立ち上がり踊っている。彼は心が折れて、今現在不可思議な行動をとっていた。
「まあ……たぶん放っておいて大丈夫そうだね」
僕は自分の自己紹介を始める。
「えっと、僕はウィルです。今は王国の騎士に所属しています。好きなものはロr」
バゴンっ!
「あああ熱い! 熱いよ! ルルちゃん!」
ルルちゃんは僕の顔をスープに沈める。
「いやあ。ウィルさん、すごくお腹が空いていたんですね。必死にスープを飲もうとするなんて……」
「ちょっと! 何するの!?」
すると、ルルちゃんが僕にだけ聞こえるように話しかけてくる。
「……だいたいあなたが変なこと言って、合コン自体無かったことにされたらまずいでしょ? だから、あなたがロリコンなことはとりあえず隠してください」
「……隠すも何も、ステファニーさん以外は皆知ってるんだけど……」
「じゃあせめてステファニーさんにだけはバレないようにしてくださいよ」
とりあえず、僕はルルちゃんの言うことを聞く。ロリっ子の言うことを聞かないわけがない。
「あなたも早く正気に戻ってください」
ルルちゃんはカケル君の頭にチョップをする。すると、カケル君は意識を失い、椅子に座らされる。
「じゃあ、私はまた仕事してきますから……」
「うん。ありがとうね」
その少女は厨房の方に戻っていった。
ウェイトレス姿のルルちゃんも可愛かった。前のメイド服よりは落ち着いた雰囲気だったが、それが逆に味を出している。
……あとでカケル君に盗撮してもらおう。
「おーい。ウィル君。なにぼーっとしてるんだい?」
幼馴染の彼が僕に話しかける。
「うん。そうだね。じゃあ次はオルゴールがいいんじゃないかな」
「……俺か?」
彼は魔王のオルゴール。最近はギルドでよく話している友達だ。実際話してみると、魔王とは思えないほど人が良い。
ただ彼自身はなかなか他の人とは話そうとしない。だから彼の良さをわかってくれる人間が少ないのだ。
彼は立ち上がり話し始める。
「俺はオルゴール。魔王をやっている。おそらくここにいる人間で一番強いだろう! 見ていろ! 今すぐお前たちを支配して、この世界で一家に一人妹がいるような制度を作ってやる」
わあ。途中まで魔王っぽかったのに最後で台無しだ。
「おいおい。妹なんてそんなにいいもんじゃねえっての。オレなんか下に三人いるけど、どいつもこいつもガキみてえなもんだし……」
おや、あまり話さなそうだったステファニーさんが話し出した。
「下に……三人……だと……」
オルゴールは崩れ落ち、椅子に座り込む。そして、腕を組み、考え込む。
「……フッフッフ。妹の良さがわからないお前など関係ないわ」
すると、突然マリアさんがステファニーさんにあることを言う。
「でも、家から離れている時、妹が心配だって言ってなかったっけ?」
「なっ! 何言ってやがんだ! あれはただ! ……その……。放っとけねえだけだっての!」
気がつくと、オルゴールが席から離れ、ステファニーさんの後ろに回り込んでいた。
「お前! なんで急に後ろにいやがんだ!」
「フッフッフ。どうやら、お前と俺は結ばれる運命にあるようだ」
切り替えが早いなあ。さっきまであんなに嫌そうだったのに……。
「さあ、俺と結婚しよう!」
「ちょっ! 何言ってんだ! お前キモいぞ!」
正直、よく変態って言われる僕がやばいと思うレベルである。
「俺たちを運命が導いてくれてるぞ!」
「待て! 触るな!」
その言葉は遅く、オルゴールの手がステファニーさんの手に触れる。
その瞬間。
「ああああああああああああああああああああああああ!」
「…………えっ?」
ステファニーさんの足がオルゴールの足を引っかけ、彼の体勢を崩す。その体を彼女は放り投げる。
オルゴールの体が宙に浮く。そして、ステファニーさんはオルゴールの腹に拳を叩き込む。
「がはっ!」
殴られたオルゴールは地面に倒れ込む。その顔は白目を剥いていた。
「……これは?」
僕の問いかけにコラードは答えてくれた。
「言ったでしょ? 彼女は大の男嫌いなんだよ」
「……それにしても、嫌いすぎでしょ」
本当に彼女は相手を見つけられるのだろうか?
とりあえず、僕は倒れたオルゴールをかつぎ、椅子に座らせる。てか、すでに男たちは半分気絶してるんだけど……成立してるのかい? これ……。
「じゃあ、最後は私ですね」
クロト君が話し始める。彼とはあまり話したことが無いから、興味が沸いてきた。
「私は主にそちらのステファニーさんの妹のエルさんの世話をしている使用人です。とはいえ、わりと自由な時間がたくさんあるので、最近はゲームが趣味ですね」
クロト君はゲームを思い出すと口元に笑みを浮かべる。
「そうですねえ。最近はウィリアムさんが一緒にゲームしてくれるようになったんですよ。いやあ、すごく楽しいですよ」
ドゴっ!
瞬間。ステファニーさんがテーブルを叩く。そして、クロト君は肩を震わせていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
どんだけ彼、ステファニーさんのことが怖いの?
てか、何かステファニーさんの逆鱗に触れるようなことしたのだろうか……。
「……うう……」
「…………?」
その時、彼女は涙を流していた。
「なんで……オレより妹の方が早く結婚してんだよお」
…………ん?
「ああ! 腹が立ってきた! ナタリアの野郎! 運命の相手が見つかったとか言って来やがったんだ! こっちは男が苦手だし嫌いだから相手に巡り会うこともできねえんだよ!」
……なるほど、妹のナタリアさんが先に結婚していたから、焦っていたのか……。
「どうせ、オレなんてナタリアに比べたら可愛くないし……仕方ねえよ。……もう……」
僕もいちおう兄であるため、気持ちがわかる。上の兄弟というのは、下の兄弟の先にいたいと思うものなのだ。
「……そんなこと無いですよ。ステファニーさん」
「…………え?」
僕は素直に思っていたことを言う。
「ステファニーさんには、ナタリアさんとは違った可愛さがあります。きっと、それを理解してくれる人に巡り会えますよ」
「…………」
「…………?」
彼女はずっと僕を見つめている。何かおかしなことを言っただろうか……。
「お……おう。べ、別にもう落ち込んだりはしねえよ」
なぜか顔を赤らめながら、僕から視線をはずす。
もしかして顔を赤らめさせるほど、恥ずかしい言葉を言っていたのか!
「ねえ! コラード! 僕、どうしたらいい!?」
「……え? たぶんいつもの方が恥ずかしいこと言ってるからいいんじゃないかな」
「それはそれでやだなあ!」
その時、ステファニーさんの横顔が見えた。
彼女は少し微笑んでいるようだった。