第26話 理性と欲望
久しぶりの休日で、僕はのんびりと過ごしていた。
「最近はいろんなことがあったなあ」
ルルちゃんに命令されたりとか、蔑まされたりとか……。
幸せなことがいっぱいあったなあ。
「さて……」
思い出したら、会いたくなってきた! ギルドに行って、蹴られてこよう。
「行くぞお!」
その時……。
「……あれ?」
家を出ると、ポストに手紙が入っていた。
「……なんだ?」
それを取り出し、中身を確認する。そこには衝撃の内容が書かれていた。
「……これは!」
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今日は家庭教師の仕事は無く、ギルドで過ごしていた。ここのコーラはなかなかうまいため、休む時はいつも飲んでいる。
「あれ? カケルさんじゃないですか」
「おう。ルル、そういえば、レストランでバイトを始めたんだって?」
「ええ……」
「…………ん?」
そいつは俺の肩をつかみ、強く揺らし始める。脳が……脳が揺れる。
「なぜ私は屋敷のバイトに復帰できてないんですか! 完全にカケルさんの影響でやめさせられただけじゃないですか!」
「あ……」
確かに……それは謎だった。
「まあ、俺からお前も復帰できるように言っておこうか?」
「いや……別に、こちらとしても都合が良かったのでいいのですが……カケルさんが……」
「え? 俺がなんだって?」
「うるさい! カケルさんのバカ!」
「なぜ?」
大丈夫か? この子……。
バタンッ
「あ?」
その時、ある男がギルドに入ってきた。
「カケル君!」
「ウィル。どうした?」
「実は大切な話があるんだ」
そう言うと、ウィルはある手紙を俺に見せる。
そこには『孫、顔、見せろ』の文字が書いてあった。しかも、赤い文字で、古びた紙に書いてあった。
「なんだ? これ……。怖すぎだろ」
「うちの母さんからさ……」
ウィルは事情を話し出す。
「母さんは子どもが大好きでね」
「そうなのか……」
「だから、僕は殺されるんだ」
「……ん? ごめん何言ってるかわかんない」
なぜ急にそんな殺伐とした話題になる?
「僕の母さんは医者として様々な面で活躍しているんだ。だから、異常な知識を秘めていて、下手したら僕の脳をいじくって、年上好きに作り替えるつもりなのかもしれない」
「お前、自分の母親をなんだと思ってる」
まるで怪物のように言いやがる。
「でも、本当にそうなんだ。なんというか、あの母さんは僕らの想像の遥か上を行くことをするからね」
「……で? 俺は何をすればいいんだ?」
「だから……合コンに参加してくれないか?」
「…………あ?」
正直、言っている意味がわからなかった。
「なぜ、合コンを?」
「さすがに母にこれ以上心配をかけたくないからね。ちゃんと婚活をしているってことを教えたいんだ」
「つまり、形だけでも、そういうものに参加したいと?」
「そういうことさ」
確かに……悪くないかもしれない。人生のパートナーってものを見つけるにはそういった活動に参加するべきである。
「……だが、あいにく俺は合コンに参加する気は無いぜ」
「どうしてだい?」
俺は声をかっこつけて言う。
「出会いってのは……俺が探すんじゃなくて、俺にやってくるものなのさ……」
後ろのルルが俺を見つめながら呟く。
「………………キング・オブ・ザ・DT」
「違う」
ウィルは俺に頼み込んでくる。
「お願いだよ。カケル君! どうしてもこういったものに誘う相手がいないんだ」
「ははん。さてはお前、友達少ないな?」
「いや……同世代の友達は皆結婚してるからね」
「リア充爆発しろよ!」
俺は叫ぶ。ギルドの人たちから視線を受けるが、気にしない。
そうだよ……。たかが20年程度生きた人間に負けていいのか? 俺。
どんな方法を使おうと……俺は……。
「卒業するんだよ!」
「急にどうしましたか? カケルさん」
ルルが、若干引いている。大丈夫。俺、気にしない。
「わかった。参加してやるよ!」
「本当かい! カケル君! 君に頼んで良かったよ!」
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数日後。
「で? どうしてこうなった?」
そこには黒髪に目付きの悪い男と、キャップ帽を被った少年がいた。
「どうしてって……君が連れて来たんでじゃないの?」
「まあ、そうなんだが……」
ついうっかり、こいつらの前で合コンのことを話してしまった。そのためか、こいつらも食いついてきた。
「魔王はまだわかるんだが……。クロト、なんでお前もいるんだ?」
「こっちにも事情があるんですよ。いろいろと」
そういうものだろうか……。
「あっ」
「ん? どうした? ウィル」
道の奥から小柄の少女がやってくる。その子は黒く短い髪を持っていた。
「やあ! 元気にしてたかい! ウィル君」
「ああ。うん」
「今日は楽しんじゃうよお!」
「そうだね」
あれ? なにやらウィルが珍しくロリに対して、普通なんだが?
すると、その少女は俺の方に向く。
「はじめまして、ボクはコラード。よろしくね」
「ああ。はい」
俺はコラードと握手する。
なんだろう。普通に接しやすそうな性格だ。
てか、可愛い。
「カケル君」
「ん? どうした?」
「そいつ……男だよ」
「……あ?」
「だから……男だよ」
「…………え?」
この明らかに少女の見た目をした生き物が?
その少女は微笑む。
「ボクに惚れちゃったのかな? キミ」
「ええええええええええええええええええええええええ!」
少女は……少年だったようだ。