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第24話 似た者同士

 屋敷につくと、私たちはナタリアお姉様に会った。


「おかえり」


「ただいま」


「今日はカケル君も一緒なのね」


 すると、奥の部屋からお母様がやってきた。それに気づくと私はカケルやクロトに言う。


「……先に部屋に行ってて……」


「ああ。わかった」


 彼らはそれぞれ部屋に向かっていった。


 それを確認すると、お母様は私に言う。


「……そこに座りなさい」


「…………」


 私は近くのソファに座る。お母様も向かい側に座る。お姉様は後ろで見守っていた。


「……今回のテストも1位だったみたいね」


「……うん」


「…………」


「…………」


 お互いに無言の時間が長く続いた。昔からこの空気がどうも苦手だった。


「…………」


「…………」


 私はとうとう耐えきれなくなってきた。


「私、そろそろ自分の部屋に戻るね」


「……ええ」


 そう言い、立ち上がり部屋を出ようとする。その時だった。


「……よく頑張ったわね」


「…………え?」


 その言葉は、まったく予想ができないものだった。


「…………」


「…………」


 しばらくの間、私は状況が理解できずに固まる。沈黙の時間が続いている。


 やがて、私は言った。


「……ありがとう」


「…………」


 そして、自分の部屋に向かった。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「ああああああああああああああああああああ!」


「……お母様」


 ナタリアは顔を手で覆う母の姿を眺めていた。


「どうしたの?」


「だって! エルが()()()()()って!」


 この母親が、こうなるのはいつものことである。エルがいないと、だいたいはこんな感じである。


「……相変わらず、エルが可愛くて仕方ないのね」


「うううう! なんであの子あんなに可愛いの! やばいって! 心臓がはち切れるんですけど!」


「なんでエルの前だとあんな風に無関心なふりをするの?」


「だって……甘やかしちゃったらあの子のためにならないじゃない? だから、小さい頃からなるべく厳しくしてきたけど……。やっぱり可愛いすぎてやばいのよおおおおおおおおおおおおお!」


「親ばかにも程があるでしょ」


 ナタリアはあることに疑問を持っていた。


「やっぱり本当の子どもじゃなくても可愛いって思うものなのかしら……」


「当たり前でしょ。育ててきたんだから」


「じゃあお父様にも感謝しなk」


「あいつは許さない。永遠に……」


 母親の表情は険しくなっていた。そのことに関しては相当頭にきているらしい。


「もう耐えられない! ちょっとエルの様子見てくる!」


「ちょっ! お母様!」


 恋する乙女のように母親は駆け出す。ナタリアは50代の母の身体能力の凄まじさを目の当たりにした。


「まあ……優しいお母様ではあるんだけどね」


「いいことじゃないか……」


 後ろからウィリアムがやってくる。


「うん。お母様も元気そうだし……ちょっと張り切りすぎではあるけどね。悪いけど、お母様の様子を見に行ってもらえる?」


「いいよ。お義母(かあ)さんの大事は家族の幸せだからねえ」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。


「だから、ここはこのグラフとそのグラフの頂点の位置で関係を導けばいいんだよ」


「ふ……ふええ」


 私の隣でカケルが勉強を教える。頭がそろそろ暴発しそう。


「……っと。そろそろ休憩するか……」


「あ……うん」


 カケルが部屋を出ていく。私は部屋に一人になると、なんだか寂しいように感じる。


 ゴツンっ


 目の前の机に頭をぶつける。


 本当にどうしてしまったんだろうか。私は……。


「エル様、失礼します」


「ひげっ!」


 クロトが入ってきたことに驚いて、変な声を出してしまった。


「どうしましたか?」


「ううん。なんでもない。そっちこそどうしたの?」


「カケルさんから今は休憩の時間だと聞いて……」


 その手にはお菓子の入った籠を持っていた。そういえば、テスト期間も、お菓子を持ってきてくれていた。


「そうなの……。ありがとう」


「では勉強頑張ってください」


 クロトは部屋を出ていった。


 あいつは別になんともないのになあ。


「……ん?」


 ふと、本棚の隙間から好きな小説が見えてくる。


「……まあ、息抜きにはいいか」


 そのうちの一冊を取り出し、読み始める。


「あれ? この展開どこかで見たような……」


 それは、勇者のことを好きになった魔法使いの少女が、素直になれずに勇者へ厳しく接してしまう場面だった。


 ……好き……に……?


 あれ? 今の私ってもしかして……。


「おーい。何やってんだ?」


「ぎやあああああああああああああ!」


 突然、後ろにいたカケルに驚く。


「おら。早く始めるぞ」


「ふええ……ふええええ」


 いろいろあって私は既に混乱していた。そんな私をカケルは心配する。


「……大丈夫か?」


 カケルは私の肩に触れてくる。


「ああああああああああああああああああああああああ!」


「え?」


 触れた手をつかみ、天井に放り投げ叩きつけた。


 だが……。


「あ……」


「え……」


 私のところにカケルが落ちてくる。


 ガシャンゴシャンドシュンっ!


 大きな音がその部屋に響いた。

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